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    makisatox

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    一番最初に書いた也宮と人先生の話を書きなおしてみたやつ
    高校時代の距離感バグ也と若干距離の近さにひいてる宮さんの話

    #也宮

    クラスメイトのはなし 診療所で過ごす夏休みは、田舎の祖母の家を訪れているような安心感と消毒液の匂いが入り混じる、少し不思議なものだった。
     級友である黒須一也は、故あって親戚が住まうT村から高校に通っているのだという。そこが代々お医者様の家だとかで、宮坂詩織はアレルギーの治療のためにそのお医者様のもとで入院生活を送っていた。
    「――唇の痺れに、咥内のかゆみ……その他に症状が出ていたら教えてくれ」
    「い、いえ。大丈夫です。かゆくなったりとかは、全然……」
    「経過良好。歩みはゆっくりだが、確実に治療の効果は出ていると言っていいだろう」
     白衣を着た、背の高いお医者様。
     一也は彼を指して「K先生」と呼んでいたが、入院の折にその名前を教えてもらった。
     神代一人先生。一也を含めた村の人々はなぜか彼のことを「K先生」と呼ぶので、てっきり「ケイ」というのが名前だと思っていた。それになんなら、最初は彼の苗字も「黒須」だと思っていたくらいだ。
     この小さな村にはもう一人お医者様がいて、彼は富永先生というのだと教えてもらった。寡黙なK先生とは異なり、富永先生は何かと明るい。K先生が頼りがいがあって余計なことを言わない人で、富永先生は明るく患者や家族に近しい距離で寄り添ってくれる――それが、宮坂がこの村の医師たちに抱いた感想だった。
    (黒須くんの言う『医者』って、つまりこういう人たちってことよね……)
     医者になればいいのに――刺繍が趣味である宮坂に、一也は突如そんなことを言い出した。
     そもそも宮坂はかなり典型的な文系で、医者というのはそれこそ典型的な理系――いや、知識だけで言えば包括的に広いものを要求される領域だろう。
     手先の器用さと医者になる云々は関係ないと一蹴した宮坂だったが、彼らの保護者と言えるK先生と富永先生を見ていると、余計に彼がとんでもないことを言っているのだと実感できた。
    「あ、あの……K先生」
    「どうした?」
    「……お医者さんになるのって、やっぱり理系の科目が得意じゃないといけないんですよね? K先生も、やっぱり理系なんですか?」
     K先生は、こちらの質問を中途半端にはぐらかしたり、相手が子供だからと適当な答えを用意したりはしない。
     外見は親戚である一也同様かなり武骨なのだが、その心配りは非常に繊細だというのは、この入院生活でよくよく理解していた。
    「……理系、というか。そうだな――君たちとは些か指導要領が異なっているとは思うが、割と満遍なく、求められる成績は取ってきた方だと思う」
     いきなりの不躾な質問にも、K先生は端的にそう答えてくれた。
     彼は椅子に座る宮坂の対面、テーブルをはさんだ向こう側に腰を下ろし、軽く手を組んで微笑みを浮かべた。最初は少し怖そうな先生だと思ったが、この人は結構良く笑う――富永先生と比べるとわかりにくいが、口元で上品に笑っていることが多い。
    「進路相談か?」
    「い、いやぁ……相談っていうほどじゃないんですけど」
     まだ高校一年生――とはいえ、高校生活はたった三年しかない。
     夏休みのうちに大まかな進路予想を立てておけと担任も言っていたし、家族と離れている間にこういう相談をできる人がいなかったので、K先生がこの話題に乗ってくれるのは嬉しかった。
    「……K先生は、代々お医者様の家系なんですよね? その、黒須くんから聞きました」
    「あぁ――まぁ、似たようなものだ。……父も、祖父も、この村で医療に従事していた」
     医者と言い切らないのか――そうも思ったが、よく考えれば彼の祖父の時代などは世界大戦を経験しているはずだ。衛生兵、という言葉が頭をよぎって、宮坂はそれ以上の追及をやめた。
     結果としてその言葉の本当の意味を知るのはもっと後のことになるのだが――とにかく、今はそういうことだと思っておく。
    「じゃあ、K先生も生まれた時から大体どこの方面に進むとかは決まっていたんですね」
    「村に一つしかない病院だからな。それに、富永も……実家はS県の総合病院だ」
    「えっ、そうなんですか」
     じゃあなんでこんな小さな村に赴任してきたんだろう。
     そんな疑問がありつつも、どうやったら医者になれるかも曖昧にしか知らない宮坂はただただ感嘆の声をあげるしかできなかった。
    「……すごいんですね。やっぱり――黒須くんも、お医者さんになるのかなぁ」
    「――そうだろうな。今のところ、一也の進路は医療系だろう」
     村にある診療所で代々医療関係者をしている神代家と、S県にある総合病院の跡取りであるという富永。
     そして、聞くところによると一也の母というのは看護師で、彼の亡くなった父もまた医者であったのだという。
    (やっぱり、お医者さんってそういう人たちがなるもんよねぇ……ウチ、普通の家だし……)
     父はごくごく一般的な会社員で、母も専業主婦。
     親戚も役所勤めや商社勤めという人たちはいるが、医療関係者は一人もいない――そんな自分が、彼の言葉通り医者になれるとは到底思えなかった。
    「君も、医療の道を志していると?」
    「いやぁ、私はちょっと……正直に言っちゃうと、理系の教科がイマイチで。それに、黒須くんみたいにご両親が医療関係者ってわけでもないですし」
    「生まれた環境は関係ない。私は……医者に必要なのは、そこで苦しむ人を救いたいという、その志一つだと思っている」
    「志……ですか」
     ゆっくりと頷いたK先生に、宮坂はなるほど、と頷いた。だが、そこから先なんと言えばいいのかがよくわからない。
     確かに、生まれた環境は関係ないかもしれない。だけどそれは、あくまで医者である彼の目線から見たものだ。
     一也の言葉が引っかかるとはいえ、やっぱり自分に医者は無理じゃなかろうか。そんな志もないし。
     そんなことを考えていると、彼はふっと立ち上がって二人分のグラスを用意してくれた。中に冷たいお茶を注いでくれたK先生に頭を下げて、喉を潤す。
    「一也は、普段学校でどんな風に過ごしているんだ?」
    「学校での黒須くん、ですか? えぇと……」
     端的な質問ではあったが、宮坂はそこで言いよどんだ。
     K先生は一也の遠戚だと聞いていたが、彼はもしかして普段自分のことをあまり話さないのではないだろうか。
    「食事の際に、一也から学校の様子を聞くことがある。だが、クラスがどうとかいう話を聞くことは多くても、一也自身の話をあまり聞いたことがない。自分が客観的に話せないことは、昔から話題として敬遠しがちなんだ」
    「あぁ――そう、ですね。黒須くん、そういうところありますね……」
     だが、宮坂が抱えていた不安は一瞬で霧散した。
     K先生の言う通り、一也は自分のことをペラペラと喋るような人間ではない。
     どちらかというと、他人の話をよく傾聴し、返事や答えを求められた時に自分の考えを口に――するタイプだと思っていたのだが。
    (なんか、最近すごい話聞いてくれないのよね……)
     もしかして自分が、医者は苦手と言ったのが原因なんだろうか。
     医療従事者の家に生まれた彼の前でそんなことを言ったのは、確かにちょっとデリカシーに欠けていたかもしれない。
    「えーと、すっごいですよ。運動も勉強もできるし――あっ、この前バスケ部からも勧誘されてました! その前は野球部で、体育の時は確か柔道部に入ってくれって先生に懇願されてて……」
     あの恵まれた体をもってして、帰宅部というのはもったいなさすぎる。
     体育系の部活の顧問たちはこぞって一也を勧誘しにかかったが、彼は学業に専念したいからとそれらをすべて断っていた。
    「それに、勉強も……この前先生にちょっと意地悪な問題当てられてたんですけど、それもスラスラっと答えちゃうし」
     文武両道のスーパーマン。
     それが宮坂詩織の、黒須一也というクラスメイトについての印象だった。
    「あと――目立ちますね。めちゃくちゃ」
    「目立つ?」
    「はい。黒須くん、背が高いじゃないですか? だからどこにいてもわかるというか――目印になるので、クラスで集合するときとかは助かるなぁって」
     クラスメイトに比べて身長が低い宮坂は、正直一也の体躯の大きさがかなりありがたい。
     友達も多いので、彼の周りにいれば自然とそこが集合場所になる。言い方は悪いが、目印として非常に優秀だった。
    「……そう、か。あぁ――いや、そうか……」
    「K先生、笑ってません?」
     フフ、と小さく笑ったK先生が、口元に手を当てる。
     まぁ、確かに『普段学校で同級生の目印になってます』と説明はしないだろう。
    「でも、それくらいで……実は、黒須くんとは最近ちょっと話すようになったくらいなんです。私が趣味でやってる刺繍を、黒須くんが褒めてくれて」
    「あぁ、あれか――今取り組んでいるのは日本刺繍だろう?」
     K先生の視線が、ちらりと横に反れる。
     そこにあるのは、宮坂が途中まで手を付けていた刺繍だった。暇つぶしにと少しずつ進めていて、今は念願の日本刺繍に手を付け始めた。
    「K先生、ご存じなんですか?」
    「私はやったことはないが、亡くなった母が似たようなことをしていたのを覚えている。それに、一也から何度か話を聞いたことがあって……君はとても手先が器用だと」
    「……黒須くん、私の話してたんですか?」
     K先生がゆっくりと頷くのが、なんだか少し面映ゆい。
     そんな、わざわざ一也の話題に上るようなことを舌だろうか――それこそ教室で刺繍をしている時に、それはどうするここはどう縫うという質問に答えはしたものの、正味それほど自分と彼の仲がいいとは思えなかった。
    「小柄で、手先の器用なクラスメイトがいると聞いていた。刺繍の腕がよくて、あぁ……先日制服のボタンを繕ってもらったと」
    「あー、そういえばそんなことも……多分立ち上がった時に、机かどっかに引っ掛けちゃったんでしょうね。アレくらいなら全然、繕い物のうちにも入らないんですけど」
     シャツは無事だったので、上着を借りてそのまま直してあげたことはあった。
     宮坂にとってはそれほど難しいことでもなかったのだが、一也の方はそれにいたく感動してしまったらしい。
    「ていうか、小柄ってわざわざ言う必要ありますかね……むしろ黒須くんから見たら、誰だって小柄じゃないですか! 学年で一番背が高いんだから」
    「そうなのか?」
    「そうですよ! 柔道部の男子も、バスケ部の一年エースも、バレー部の先輩より背が高かったんです。最初本当に同い年かって思ったんですけど……K先生も背が高いですもんね」
     彼は父方の遠戚と聞いていたから、恐らく一也の父も恵まれた体格をしていたのだろう。
     あのレベルの巨人があと何人もいると想像するとちょっとだけゾッとしたが、そのほとんどが医療関係者と思うとちょっとだけ安心感が出た。
    「知らなかったな。一也は本当に、そういうことをわざわざ話さない」
    「黒須くんと喋る時は、ちょっと声を張らなくちゃいけないんです。基本的に彼は、私と喋る時に身を屈めてくれるんですけど」
     幼子にするように身を屈められるのは正直あんまりいい気がしないのだが、一度荷物を持って屈めない一也に話しかけたら何度か聞き返されてしまった。
     基本的に彼の声は大きく聞き取りやすいため、宮坂から一也に言葉を聞き返すことはほとんどない――が、確かに物理的な距離が五十センチ近くも離れていたら、こちらが普通に話す声は彼に聞こえにくいかもしれない。
    「黒須くんって誰に対してもハキハキ喋るんで、あんまり今まで感じてなかったんですけど……日直とかで黒板消してる時とかは、女子の声あんまり聞こえてないみたいです」
    「あぁ――なるほど。ままあることだな」
     やっぱりK先生も経験あるんだ、と考えて、そういえばこの診療所は小児科も併設されているんだったと気付く。
    「こういうことも、あんまり黒須くん話さないですよね」
    「あぁ。貴重な話を聞けた……いや、実は前から気になっていたんだ。先日一也が、いきなり『刺繍用の針はどこで売っているのか』と言い出して――俺も富永も驚いたんだが」
    「刺繍用の針……あぁ……」
     覚えがあるどころの話ではない。
     一也は宮坂の私物に勝手に手を触れることはしないが、宮坂が許可すればその限りではない。
     以前、ちょっとだけやってみれば、と針を手渡したことがある。
    「すみません……私が、気になるならちょっとやってみたらって言ったんです。黒須くん器用だし、そんなに興味があるなら自分でやってみればいいのにって」
     お医者様を目指しているなんて知らなくて、つい適当なことを言ってしまった。
     そう思って頭を下げると、K先生はすっと右手を挙げて宮坂の謝罪を制した。
    「いいや。君には感謝しているくらいだ。こちらに来てから、一也は同世代の人間との関係が希薄になっていた……割合、アイツは様々なことをそつなくこなすだろう?」
     元々東京の実家にいた頃は、生来の性格もあって友達も多かったという。それについては宮坂も理解できた。彼はいつだって、クラスメイトの輪の中心にいた。
     だが、この山奥ではどうやっても接する人間の年齢層が跳ね上がってしまう。礼儀正しい性格の一也が振る舞いで難儀することはなかったが、一人は一也の保護者として少しばかり心配はしていたらしい。
    「子どもらしいところがないとは言わないが、同年代の人間よりは幾分落ち着きすぎているきらいがある」
    「あー……そう、ですか? うぅん……?」
     落ち着いているというのはわかるが、宮坂から見て一也は結構うるさい。
     むしろ自分の近くをうろうろして「それすごいね」「どうやってやるの?」「宮坂さんすごいね!」と声をかけてくるあたり、クラスの男子よりうるさく感じる。
    (バカ騒ぎするタイプじゃないのはわかるけど、なんだろう……おっきい犬、みたいな)
    「黒須くん、ウチの近くに住んでるラブラドールに似てます」
    「ッふ」
     宮坂のその答えが想定外だったのか、K先生は奇怪な音を立てて口元を押さえた。
    「ラブラドールか……」
    「すごく頭のいい子なんですよ。ただすごく人懐っこくて」
     誰にでもよく甘え、よく遊びたがり、そしてよく舐める。宮坂は以前、冬先にダッフルコートをべろべろに舐められたことがあった。
    「や、あの……なんていうか、割と誰とでも仲良くなれるところが似てるといいますか」
    「……級友である君からして、一也はそういう風に見えているのだな」
     ふふ、ともう一度口元に手を当てて笑ったK先生が、ちらりと壁に掛けられた時計に目を向ける。――そろそろ往診の時間だ。
    「あっ! すみません、長々話してしまって……K先生、お忙しいのに」
    「いや……普段聞けない話が聞けて良かった」
     そう言って立ち上がった一人の表情がことのほか穏やかだったので、宮坂もホッとする。
     次はまた三時間後に、決められた量の卵を摂取しなければならない。彼が往診に出かけるということは、次やってくるのは富永先生だろう。
     往診のための準備を行うK先生に頭を下げてその背を見送ると、ほとんど入れ違いで一也がやってきた。
    「あれ、今のってK先生? もしかして宮坂さん、どこか調子が悪いの?」
    「いーえ。ちょっとお話してただけよ」
     心配そうに顔を覗き込んでくる一也にそう告げると、彼は目に見えて安堵した表情を浮かべた。アレルギーで何度も死にかけた経験があるので、彼の心配もよくわかる。
    「話って、どんな?」
    「学校での黒須くんがどうかって話よ。自分のこと話したがらないって、K先生悲しそうだったわ」
    「えぇ……? 割と普通に話してると思うけどなぁ……」
     ちょっと話を盛ってやると、一也はばつが悪そうに頬を掻いて黙り込んでしまった。
     普段学校であまり見れないクラスメイトの様子をちょっと面白がっていると、ある記憶が蘇ってくる。
    「ていうか、黒須くん! 私のことK先生になんて話したのよ」
    「え? あぁ、同じクラスの、とっても刺繍が上手な子って話したよ! 手先が器用で、いつも素敵な刺繍――」
    「小柄って言ったでしょ」
    「え、ぁ~……ハイ……ごめんなさい……」
     いらん事言うな、と思いはしたものの、大きな体を曲げて申し訳なさそうにしている彼の様子を見ていると、なんだかこれ以上追求するのも可哀想に思えてきた。
     さーてどうしたもんか、と腕を組んでいると、一也がちらっとこちらを見てきた。……こういうところは、やっぱり叱られてしょんぼりしている大型犬に似ている。
    「……宮坂さん、怒ってる?」
    「割と怒ってます。余計なこと言わんでよろしい」
    「は、はい……」
     デリカシーありませんでした、と平身低頭で誤ってくる一也に「わかればよし」と頷くと、彼はまた尻尾を振る大型犬よろしくキラキラと目を輝かせるのだった。
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