伝わらないわけ その晩、山姥切長義はなかなか寝付かれないでいた。次の日は久々に"偽物くん"こと密かに愛してやまない自分の写し、山姥切国広との遠征の命が下ったからである。数時間とはいえ彼を独占出来る好機、これが平静でいられようか。
主は長義の秘めた(と本人だけがそう思っている)気持ちを知ってか知らずか、何かとこの本丸の初期刀と組ませる傾向があり日々感謝している。
ただし実際は……双方それぞれの問題により今日に至っても二振りの仲は決して芳しいとは言えない状態のままだった。
やはりここは本歌である自分から好転に向けての一歩を踏み出すしかない。
完全に寝不足だがそんな様子はおくびにも出さず、早起きして燭台切光忠を手伝いつつ何食わぬ顔で自分たちの分も含めて遠征部隊用の弁当を拵えて厨を後にする。本当は国広の分だけ作りたいだろうに、そこは露骨にしない辺りが律儀というか微笑ましいと思われているなど、当の本人は知る由もない。
いつも通り一部の隙もなく身支度を整え、任務の内容はもとよりさり気なく誘う寄り道ルートのチェックも抜かりなく。
ああ言われたらこう答えよう、そろそろ打ち解けた雰囲気でも良かろうか。いくらかは好意を匂わす言葉でも掛けてみようか。
張り切ってるなんて絶対思われないよう、敢えて彼より遅れて行って余裕を見せてやろう。万が一彼が遅れてきても嫌味など言わない、今日こそは。
かくして集合場所では国広が先に待っていた。愛しい姿を認め気分が高揚する。
嗚呼、それでも口をついた出たのは。
「やあ、待たせたかな。せいぜい足を引っ張らないでくれよ、偽物くん」
まだまだ関係改善は遠そうである。