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    知己的な現代AU忘羨☔️

    何かあったわけではない。
    漠然と何かが胸につっかえ、すべてを投げ出したくなった。今夜のような雨の日はいつもそうだ。どんなに愉しく生きていても、しとしとと降る雨を見ると「誰か助けてくれ。いっそのこと俺を殺してでも引き止めてくれ」と縋りたくなる。独り傘を持って歩いている高身長の人を見かけると、その顔を覗きこみたくなる。そして勝手なことに、顔を見て落胆するのだ。ーこいつじゃない。
    ベッドの上で数え切れないほど転がり、ようやく眠りにつけたと思えば必ずといっていいほど同じ夢を見る。霞む視界の先、真夜中だというのにその人は光を放つかのように白く、凛とした佇まいでこちらを見つめている。傘が影になっているせいか、顔はよく見えないが、闇雲に走り抜ける闇の中、その姿を見つけると息苦しさから救われたような気がして、魏無羨はいつもほっと息をついた。

    「魏嬰」

    声は聞こえない。男なのか、女なのか。それでも形の良い唇は、確かに魏無羨の名を呼んでいる。
    もっと呼んでくれ。俺をこの果てのない闇の中から救いあげてくれ。
    そんなことを願いながら、夢の中の己は震える腕で何かを相手に向かって伸ばした。腕の先にある何かは黒い靄を纏っていてよく見えない。しかし視線の先の人は酷く悲しげな顔をして、唇を固く閉ざし、魏無羨に道を開けた。
    このとき、魏無羨はいつも諦念と虚しさに襲われる。道を開けてくれたことに感謝しているはずなのに、やはり一緒に来てはくれないのか、俺は間違っていると言いたいのか、と無性に哀しくなるのだ。我儘だ。相手の表情を見れば、きっと己が酷いことを言ったのだとわかるのに、心のどこかで手を取ってくれるのを待っていた。
    その人の横をすり抜けていけば、先には闇しかない。後悔はない、俺ならやれるはずだと鼓舞しながら、常に不安に駆られる漠然とした闇。きっとこの先に安穏とした未来はないとわかっていたからか、振り返って腕を伸ばしたくなるのを堪えて走り抜けていく。月も星も出ていないのに、瞼の裏に琥珀が焼きついていた。



    しとしとと降り続ける真夜中。魏無羨はやはり眠ることができなかった。パーカーのフードを目深に被り、傘もささずにひとり歩く。
    夢の中でも多くの何かを引き連れて走っていたはずなのに、気がつけば背後には何も無くなっていた。ただ、重い何かだけがのしかかり、項垂れるように歩き続けていた。足元に絡みつく無数の手を振り払うこともなく、気が触れたように謝り続ける夢。身体が欠けても痛覚はなく、魂魄だけで歩き続ける夢。
    その再現のように、魏無羨は重い足を引き摺って、街灯もない暗い住宅街を歩いていた。雨が身体を貫く無数の矢のようだ。数多の声が魏無羨の名を呼ぶ。怒声、叫び声、啜り泣く声。頭の中でわんわんと共鳴し、魏無羨の心を蝕んでいく。このまま消えてしまいたい。
    己が自死するならこんな雨の夜だと乾いた笑いが漏れたとき、 ふと視界の端に琥珀が見えた。顔を上げると暗い道の先、一つだけ電信柱の先に明かりが灯っていた。その下には黒い傘をさした誰かが立っている。スーツに身を包んでいるのに、何故か魏無羨には白い服に見えた。
    導かれるように歩みを進めると、一人の美しい男がじっと佇んでいた。

    「魏嬰。どこへ行く」

    男の声を聴いた瞬間、魏無羨の魂魄はぐっと光の方に引き寄せられ、息苦しさから開放されたような気がした。身体の重みが消え、無数の手がそっと背中を押してくれる。

    「藍湛」

    魏無羨が伸ばした手は、力強い手によって掴み取られた。
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