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    四 季

    @fourseasongs

    大神、FF6、FF9、ゼルダの伝説ブレスオブザワイルドが好きな人です。

    boothでブレワイに因んだ柄のブックカバー配布中:https://shiki-mochi.booth.pm/

    今のところほぼブレワイリンゼルしかない支部:https://www.pixiv.net/users/63517830

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    四 季

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    最終更新日がティアキン発売日前日で止まったままの「Orchid(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=18980287)」続き🐬🌸
     不穏なところで止まっている&リンクほぼ登場しないリンゼル前提のミファゼル。

    #ブレワイ
    brawley
    #ゼルダ姫
    princessZelda

    Orchid(続き) 静まり返った夜半の湖を、ミファーはひとり泳いでいた。
     月に誘われるように滝を登ったミファーは、昼間姫やリンクと訪れた場所に来ていた。
     高い空には月が冴え冴えとした光を放ち、眼下に見えるゾーラの里は、数刻前の広場の熱気が嘘のように静まり返っている。その一角を見つめて、ミファーは静かにため息をついた。
     ミファーは昼間の、ミファーの傷を癒すという申し出を断った時の姫の表情と、夜のゾーラの里で破魔の弓について語った時の姫の表情を思い浮かべていた。
     ミファーから見た姫は、常に傷ついているように見える。四英傑の中で最も親しいウルボザがかける労わりの言葉にさえ、力なく微笑みを返すだけだ。どれだけ努力しても、結果を出せないことを責め続けられる姫からすれば、努力を認められる言葉でさえつらいのかもしれない。
     魚が川を泳ぎ、鳥が飛ぶのと同じように、そしてゾーラ族がごく自然に泳ぐことができるようになるのと同じように、ミファーは自然と治癒の力を使えるようになった。そんなミファーからかけられるどんな言葉にも、きっと姫は傷ついてしまうだろう。
     そしてミファー自身、姫といると、少なからず傷ついてしまう自分がいるのを感じた。ミファーは姫と、その後ろに常に影のようにつき従うリンクの背中を思い出しながら、わずかに痛む胸を抑えた。ミファーの胸がこうして痛む理由も、そしてミファーが傷つくことさえも、姫には全く預かり知らぬことだったけれど。
    「──えいっ」
     胸の痛みとわだかまりそうになる心を振り払うように、ミファーは愛用の武器である光鱗の槍を振った。リンクが以前見せてくれたことのある回転斬りを思い出しながら。月明かりに照らされて、舞い上がる水飛沫がきらきら光った。
     光鱗の槍。それはゾーラの姫であるミファーのために、名うての職人であるロスーリが手がけた槍だ。「ゾーラの鎧」が、ゾーラ族に伝わる言い伝えにちなんで、その鎧を纏う者が「将来の姫の婿となる者」であることを象徴するのと対になるように、「光鱗」はゾーラ族の姫を表す。言い伝えにあるゾーラの鎧に織り込まれた女性特有の白い鱗は、ゾーラの姫が愛する夫の纏う鎧に織り込んだものだからだ。ゾーラの姫であるミファーを象徴するその槍は、ゾーラ族の中でも槍の名人が手にする銀鱗の槍よりも繊細で、女性的な美しさを持つ装飾が施されている。
     一族の中でも槍の名手であったミファーだが、一族の宝である姫という立場や、類い稀な癒しの力を持つこともあって、積極的に魔物の討伐に参加するよりも、どちらかといえば後方支援に回ることが多かった。ゾーラの姫君として美しく成長し、妙齢となったミファーには、武器を持って戦うことをやめさせたいと願う声とともに数多の求婚が寄せられるようになっていたが、ミファーは英傑に叙任されたことを理由に、それらを断っていた。──
     ぱしゃん、と音を立てて水飛沫が舞う。ミファーは水面に映った自分の頭、そこに戴くティアラを見つめた。
     三日月が三つ合わさったようなティアラのその形は、ゾーラ族の紋章だ。ハイラル王家の象徴である聖三角形ほどではないが、一万年以上前から存在するゾーラの象徴でもある。そしてゾーラの紋章がついたこのティアラは、ハイラルの王女・ゼルダがその身に纏う飾りに、ハイラル王家の紋章である聖三角形の意匠を多く用いているのと同じように、ミファーの「ゾーラの姫」としての立場をよく表している。ゾーラの匠の手によって美しい彫刻が施されたティアラが、月の光を浴びて銀色の輝きを放っていた。
     ミファーは自分が一族の姫として生まれ、その責務を負わなければならないことを幼い頃から自覚していた。自分が周囲から愛され、大切にされ守られるのも、自分が一族の姫であるからだ。ミファーは家族や一族から受けた愛情を、彼らを癒し、守ることで返したいと思っていた。
    (だからこれは、私のわがまま)
     ミファーはこぼれ落ちた自身の白く輝く鱗を拾い、そっと胸に抱きしめた。白い鱗はゾーラ族の女性特有の鱗。こうして集めた自身の鱗で、ミファーは今、鎧を作っていた。
     一族の血を次代に繋がなければならない姫が、死の危険性が最も高い先陣に立つことなど、本来であれば許されない。父であるドレファン王や、ミファーの教育係であるムズリがミファーの英傑就任に難色を示したのは、ミファーへの彼らの愛情と共に、ゾーラの姫として果たすべきミファーの役割への期待があるためだ。ドレファン王も、そしてムズリも、ミファーに「美しい一族の姫」であり続けていて欲しいと願っている。ミファーがゆくゆくは、立派なゾーラの男性と結ばれて女王もしくは王妃となるか、あるいは弟のシドが王になり、彼とその王妃を支えるか。どちらにせよ、ミファーはいずれ、王やムズリ、元老院たちの意に添うような一族の若者と結ばれ、素晴らしい子どもを得て、立派な母とならなければならない。
     一族の姫であるミファーの、異種族、それもさほど身分が高くないリンクへ対する想いなど、誰にも理解も、祝福もされることはないだろう。ミファーが英傑への就任を承諾したことは、自らもハイラルに暮らす一員として、ゾーラの里の人びとを守らねばならないという姫の責務の他に、あとほんのわずかな時間残された、自由に彼を想う気持ちを大切にしたいからなどとは、決して──誰にも言えるはずがない。
    (あの人は──どうなんだろう)
     ミファーは月の光を浴びて輝く白い鱗を見つめながら、美しい金色の髪を持つ、ハイラルの姫の姿を思い浮かべた。
     大きな国の姫と、辺境の一族の姫。属する集団の規模は違うが、彼女もミファーと同じ、ただ一人の姫である。
     ミファーよりも遥かに重い責務にがんじがらめになって、いつも余裕がなさそうなあの姫が、たとえほんのひとときであってもその重責を忘れたり、自らの責務から逃避したい、と願う姿を、ミファーは見たことがない。でも誰にも口には出せないだけで、もしかしたらそう願ったことがあるのかもしれない。
     ミファーは空を仰ぎ見ながら湖を泳いだ。高い空には月が皎々と輝いて、数えきれないほどたくさんの星が瞬いている。
    (もしそうなのだとしたら、連れて行ってあげたいな)
     草原を馬で駆けるハイラルの姫は、きっとまだ海の広さを知らない。川は山から生じ、やがて海に辿り着く。ミファー達ゾーラ族は、かつて海で暮らしていたが、海で暮らすゾーラ族と、川で暮らすゾーラ族とに分かれたという。
     ハイリア人の語る神話によれば、かつてハイリア人の祖先は空の上に住んでいた。
     大空の上にいた女神ハイリアの生まれ変わりの最初の「ゼルダ」を救うため、彼女とともに地上に降り、彼女と共に生きてゆくことを選んだ大空の勇者。その二人の子孫が地に満ちて、今のハイリア人になったのだという──。
     ミファーがそっと空に伸ばした手が、空を切った。

      ※  ※  ※

     ハイラルの城下町には、青い屋根の石造りの家が建ち並ぶ。
     ひしめきあって建ち並ぶ家々と、その向こうに聳える城の威容、熱気に溢れた沿道にいる人の多さと熱気に圧倒されながら、ミファーはハイラルの高く青い空を見上げた。
     ゾーラの人びと、中でもとりわけ長寿を誇るお年寄りたちは寿命の短いハイリア人を侮る向きがあるが、個としての寿命はゾーラ族より短くても、種としてのハイリア人の存在と歴史は、ゾーラ族より遥かに永い。短いからこそその生を懸命に生き、女神の血を受け継ぐ姫と勇者の魂を持つ者によって守られたハイラルの地で連綿と栄えてきたハイリア人を、ミファーは眩しいものを見るような気持ちで見つめてきた。とりわけ、リンクと出逢ってからは。──
     今日は各々連絡と報告を兼ねて、英傑たちがハイラル城に集う日だ。青い屋根の街並みが続く城下町の沿道には、英傑たちを一目見ようと人びとが集まり、英傑達とその長である姫を祝して、空には祝砲が上がり、花びらのようなものが辺りを舞っている。
    「わあ、これ、何? 紙?」
     風に舞う数多のうちからひとひらを手に取って首を傾げるミファーに、ゲルド族の長であり、英傑の一人でもあるウルボザが微笑みかける。
    「ああ、これは紙吹雪だよ。ハイリア人の間では、お祝い事があるとこういったものを撒くんだよ。
     本当は花びらでやるんだけど、今はまだ、花の時期には少し早いからね。
     王と王妃の結婚式や、御ひい様が生まれた日には、ハイラルの空にたくさんの花びらが舞っていて、それは綺麗だったよ」
    「そうなんだ……」
     舞い落ちたひとひらを手に取りながら、ミファーは呟いた。地上で花を見ることも稀なのだ、花びらが空を舞い散る様子は、さぞかし壮観だろう。
     その後、ミファーたち英傑が入城したハイラル城では、神獣をはじめとした古代遺物の研究の筆頭責任者であるプルアとロベリー、そしてプルアの妹であり執政補佐官であるインパ、近衛騎士の服に身を包んだリンク、正装姿の姫が一行を出迎えてくれた。
     シーカー族の民族衣装に身を包んだインパ、プルア、ロベリーは、神獣の研究に立ち会う時と変わらない様子だった。その一方で、正装に身を包んだ姫とリンクは、野外で会っている時よりもどことなくよそよそしく、面持ちも沈んでいるように見えた。
     紺を基調として、高貴な色である緋色の入った近衛の服に、紫紺の近衛の武器を身につけたまだ年若い騎士。そして、その前には、濃紺の衣装を身に纏って立つ姫君。
     ゾーラの清らかな清流で戯れていた少年は迷いの森に踏み入り、伝説の剣を抜き、退魔の騎士となった。いつしか彼は青年へと成長し、ハイラルの広い草原を馬で駆け、剣を捧げた姫の前で跪き──。
    (まるで、おとぎ話みたい)
     「姫と騎士」。そんなタイトルがつけられた美しい一幅の絵画のような二人を見て、ミファーは心の中で感嘆と、寂しさが入り混じったため息をついた。
     長く美しい金色の髪に葉をかたどった金の冠を戴き、青いドレスに身を包んだ姫は、その場にいる誰よりも美しく、またこの荘厳な城に似つかわしかったが、それでいてとても気詰まりなように見えた。

      ※  ※  ※  ※

    「わあ、この本よ。ありがとう、姫様」
     城の図書館で、ミファーは一冊の手を取り喜びの声を上げた。
     自然の濠や崖を利用して造られたハイラル城は、華やかな城というよりはさながら堅牢な要塞だ。滝登りをするのにちょうど良い滝もいくつかあるが、どこもいかついハイリア人の兵士が警備していて、滝登りしたいと言うことすら憚られた。
     そこで、ミファーは城の図書館に行きたいと姫に頼んだ。水に囲まれ、湿気の多いゾーラの里には、紙製の本はほとんどない。子どもたちはお年寄りからゾーラの歴史や言い伝えについて口伝えで教わるが、口伝えは文字より風化しやすい。ゾーラに伝わる歴史や伝説が風化することを恐れた王や、歴史学者のジアートが石碑でそれらを残そうとしているが、そこに刻まれる言い伝えや伝説はゾーラ族に関するものばかりで、ミファーが読んでみたかったお話についてはどこにも載っていなかったのだ。
     図書館に行きたいと申し出たミファーに、姫は喜んだ。姫自身読書が好きで、部屋には大きな書架に、さまざまな本があるのだという。
     城の図書館は、ハイラル中の知識が結集していると言われているだけあって、かなりの広さだった。二階分吹き抜けの造りで、壁側には分厚い本や大きなスクロールがおさめられた大きな書架がいくつも並んでいる。部屋の中央には、読書のための広い机に、本を読むための台も置かれてあった。
    「古い本ほど傷みやすいので、図書館は湿度が高くならないよう、城の中でもとりわけ気密性の高い作りになっています。
     水辺で暮らすゾーラ族の人びとにとってはあまり快適な環境とはいえないと思いますので、もし体調が悪くなったら、遠慮なく言って下さいね」
     事前にミファーが読んでみたいと伝えていた何冊かの本をミファーに手渡しながら、姫が言った。
     ゾーラ族は主に水中での行動を得意とするが、陸上で呼吸をしたり、走ったりして生活することもできる。だが、体表から水分が失われてしまうと、最悪の場合は生命の危険に関わることもある。図書館は確かに、姫の言う通り乾燥していて、ミファーにとっては少し息苦しい空間だった。だが狭い密室というわけでもないので心配するほどのことではないと、ミファーは明るく微笑んだ。
    「うん、分かったわ。
     ただ、読み終わるまでに少し時間がかかるかもしれないけど……」
     ミファーの言葉に、姫はにこやかに頷いた。
    「それはもちろん構いませんよ。私もしばらくはこちらにいますし、リンクも入口で待機してくれていますから。
     それでは、私はあちらで調べ物をしていますので、何かあったら遠慮なく声をかけて下さい」
    「うん。ありがとう、姫様」
     ミファーはそう言って、図書館の奥、分厚い専門書の並ぶ書架へ向かう姫の背中を見送ると、本を置くための台に本を置き、恐る恐る古びた本のページをめくった。
     城の図書館に相応しい豪華な装丁の、緻密で美しい挿絵が描かれた本。そこに綴られているのはいつだったか、幼いリンクが何気なく話題にした物語で、ハイリア人の間でゾーラ族の姫をモデルにしているといわれている物語だった。
     絵本に分類されているだけあって、本には美しい挿絵が数多くあった。川に暮らすミファーが見たことのない海の生き物や海底の様子が、画家の知識と想像力とがない混ぜになってページに描き出されている。
     水中で暮らす水の姫君は、水面から顔を出し、船の上にいる地上の王子を想う。──
     以前、ミファーに乞われて渋々といった様子のリンクから聞いていたが、この物語に描かれた水の姫は、地上の青年への恋に破れ、儚い海の泡となって消えてしまった。そこまで読み終えたミファーが大きくため息をついてふと顔を上げると、辺りは薄暗くなっていた。それほど長い物語ではなかったが、ミファーは夢中で読み耽っていたようで、気づけば日も暮れ始めている。ミファーが気づかないうちに誰かが灯してくれたらしい蝋燭の火が、辺りをぼんやりと照らし出していた。
    「ああ、ミファー。どうでしたか、そのお話は?」
     ミファーが顔を上げた気配に気づき、姫がそっとミファーに声をかけた。姫は何か調べ物をしていたらしく、姫がいる机の上には分厚い本がうずたかく積まれていた。
     姫の問いかけに、ミファーは一瞬答えに詰まったが、考え込みながらとつとつと口を開いた。
    「えっと、そうだね。とっても綺麗で繊細な絵がたくさんあったわ。とくに海底の絵はすごく素敵だった。水中できらきら輝く珊瑚や魚の描写が綺麗で……。
     でも、お話自体はちょっと寂しい結末だった……かな」
     せっかく自分が読みたいと頼んで読ませてもらった本だったが、ミファーは正直に感想を述べた。そんなミファーに、姫も同意するように頷いた。
    「ええ、そうですね。
     おとぎ話や童話は、民間伝承や、民間伝承をまとめたものが多く、幸福な結末で終わることが多いのですが、今ミファーが読んでいたそのお話は、民間伝承をもとに作者が作ったお話だそうです。
     それに、作者自身の体験も投影されているそうです。ですから、美しいけれど悲しい結末になっているのかもしれませんね」
     その作者が作った他のお話も、悲しい終わり方をしているものがいくつかあるのですよと、姫はミファーを慰めるように言った。
     創作の物語だと聞いたミファーは、小さく胸を撫で下ろした。だがやはり、ゾーラ族の姫をモデルにしたのであろうその物語の作者にとって、ルト姫の恋は、またゾーラ族のハイリア人への想いは、そのようなものと映っているのだろうか。
     ミファーは蝋燭の灯りに照らされた姫の顔をそっと見つめて、口を開いた。
    「……姫様は、どう思う?」
     ぽつりと、問いかけがミファーの口をついて出た。
     思わぬミファーの問いかけに、姫が不思議そうな表情をする。
     それを見たミファーは内心で後悔したが、思い切って続けた。
    「物語に登場する水の姫のこと。
     家族から反対された地上の王子様への恋に破れて、泡になって消えてしまう水の姫のこと……。
     これって、多分──」
     ゾーラの姫、ルトがモチーフになっているのではないだろうか。ミファーは思う。かつて何気なくこの物語について話題にしたリンクが、ミファーやゾーラの里のみんなに結末を問われ、答えを渋っていたのも、どう考えてもこの物語が伝説のゾーラの姫・ルトを、そして今であればミファーを連想させてしまうからではないだろうか。
     ミファーの問いに、姫は考えるように顎に手を当てた。
    「そうですね……。
     まず、この物語に登場する水の姫のモデルは、一般的にゾーラ族のルト姫と言われていますが、ルト姫がハイリア人の男性──『時の勇者』に想いを寄せていたという言い伝えがあるだけで、彼女が書き記したものや、当時の同時代人が残した記録があるわけではありません。ルト姫にまつわる言い伝えを元に創作された話、と考えるべきでしょう。
     それに、ミファー。貴女は貴女です。
     貴女がルト姫を思わせる素晴らしいゾーラの姫であるとしても、ルト姫が絵本に描かれた人魚姫ではないように、貴女もルト姫ではありません」
     厳かにそう告げた姫の言葉に、ミファーも、「貴女も──」と言いかけて、口を噤んだ。
     彼女は、「ゼルダ姫」だ。伝説や言い伝えの登場人物ではない、歴とした──。
     黙り込んだミファーを見て、姫は静かに続けた。
    「正直なところ私は、まだこの姫のように、特定の誰かに対して強い想いを抱いたことがありません。ですから、私は、異性への愛について語るには力不足ですが……私に言えることがあるとしたら、ミファー。
     水の姫は、恋破れて泡になって消えたわけではありませんよ」
    「えっ?」
     驚き思わず立ち上がろうとしたミファーだったが、立ちくらみを起こしてふらついてしまう。
    「ミファー!」
     姫が慌ててミファーのもとへ駆け寄る。
    「ごめんなさい、姫様。
     ちょっと、立ちくらみがして……」
     頭痛に頭をおさえたミファーに、姫がいたわるような視線を向ける。
    「ああ、湿度の低いところに長い間いたので、体調を崩してしまったのですね。そうでなくても、今日は長い間、水に触れていなかったですものね。
     気づかなくてすみません、ミファー」
     ──どうして姫様が謝るの。
     そう口にしようとしたミファーだったが、ぐらりと視界が暗転した。
    「姫様、ミファー!」
     幼馴染が珍しく焦ったように叫んだ声を遠くに聞いたのを最後に、ミファーは意識を手放した。
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    四 季

    DONEリンクが姫様に自分の家を譲ったことに対する自分なりの考えを二次創作にしようという試み。(改題前:『ホームカミング』)
    帰郷「本当に、良いのですか?」
     ゼルダの問いかけに、リンクははっきり頷き、「はい」と言葉少なに肯定の意を示した。
     リンクのその、言葉少ないながらもゼルダの拒絶を認めない、よく言えば毅然とした、悪く言えば頑ななその態度が、百年と少し前の、まだゼルダの騎士だった頃の彼の姿を思い起こさせるので、ゼルダは小さくため息を吐いた。

     ハイラルを救った姫巫女と勇者である二人がそうして真面目な表情で顔を突き合わせているのは、往時の面影もないほど崩れ、朽ち果ててしまったハイラルの城でも、王家ゆかりの地でもなく、ハイラルの東の果てのハイリア人の村・ハテノ村にある、ごくありふれた民家の中だった。
     家の裏手にあるエボニ山の頂で、いつからか育った桜の樹の花の蕾がほころび始め、吹き下ろす風に混じる匂いや、ラネール山を白く染め上げる万年雪の積もり具合から春の兆しを感じたハテノ村の人びとが、芽吹の季節に向けて農作業を始める、ちょうどそんな頃のことだった。ゼルダの知らないうちに旅支度を整えたリンクが、突然、ゼルダにハテノ村の家を譲り、しばらく旅に出かける──そう告げたのは。
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