snbn➆ Alban side*
サニーは最初から僕ではなく、後ろに立つジェイを話しかけていたらしい。
「───ちょっと、ジェイ!? なんのつもり?」
言い逃れの余地はないというのに、ずっと余裕の笑みを絶やさないジェイに向かって荒々しく声を張り上げ、僕はジェイを睨みつける。
何をした?
───命に関わることかも知れない。
何故そんなことを?
───僕の変化に気づいて、腹いせに?
いずれにしても、僕のせいじゃないか。
...でなきゃ、こんなことにはなってはいない。こんな終わり方は嫌なのに、得体も知れない事に対してどう責任を取ったらいいか分からず、何も答えないジェイに背を向けてサニーの前へ駆け寄る。
とても面積の広いバルコニーのため、普段アイクが使用しているらしい読書スペースにあるガーデンチェアに、おぼつかない足取りのサニーを誘導して座らせる。
普段ならば彼に触れることだって緊張で卒倒しまうだろうけど、今は一大事だ。考えるより先に身体が動く。
「僕...っ、あの、本当にごめんなさい...っ」
ガーデン テーブルに肘をついて頭を抱えている彼に跪いて、顔色を覗う。
「...ハッ。何をそんなに必死になってるんだよ? そんな野郎に謝る必要なんてないさ」
今まで沈黙を貫いていたジェイが、苛立たし気に言い放つ。
「どういうこと...?」
「アルバーンが盗みを辞めた理由はこいつだろ? さっきずっと俺をしつこく監視してた野郎たちにヘマして監禁でもされてんのかと思ってたが...なんだよ、そいつに向ける目は」
「は...?」
一方的な憶測に困惑するばかりで、いつも以上にジェイが何を言いたいのかが見えてこない。
「そいつがお前をそそのかしたから、最近お前はそいつの周りをうろついて身動きが取れなかったんだろ?」
少しずつ自分たちに歩み寄ってくるジェイに恐怖を感じ、立ち上がってサニーの前に立つ。
「そいつ、金持ってそうだもんなぁ? おまけに警察官ときた。 ちょうどいい。今ここで犯されそうになりましたって部屋の中にいる奴らに言いふらしてやるよ。そいつには発熱作用を起こす薬を飲ませたからさ。へへ...っ」
「───...っっ!」
恐ろしい言葉の羅列に声が出せず、身動きすら出来なくなって、ジェイに腕を掴まれそうになった刹那───
アルバーンの身体は宙に浮いていて、地に足がつかず、ブラン、と脚が大きく揺れた。
「さっきから、 ───うるせぇんだよ、お前は」
ちょうど耳元近くから、誰もが震え上がるような恐ろしい声音が聞こえ、もちろんジェイの顔は一瞬にして恐怖に震えあがっていた。
「な...っ」
「ぶ、ぶりすこ......っ、にゃ...っっ!?」
いきなり背後から首根っこを掴まれて宙に浮いた身体がようやく地面についた...と思ったが、掴んできた張本人であるサニーに向き直った直後、今度は勢いよく逞しい肩に担がれる格好になった。
太股あたりを大きな手で鷲掴みにされているため、こうなると身動きが取れず、手足をバタつかせて抵抗の意志を伝える事しかできなくなった。
「ちょ...っ、ぇっ、ブリスコーさん......!?」
「てめぇ...! アルバーンを離せよ...!!」
───すると、勢いよくカーテン越しの窓が開け放たれ、目の前の状況に誰もが驚愕し、どよめきの嵐となる。
「っえ、ちょ...、サニー!? と、担がれちゃってるのは、...アルバーンッ!?」
サニーに担がれて、皆にお尻を向けてしまっている状態のため、正面の様子は覗えないが、おそらく浮奇が、開口一番に声を上げた。
「アルバーンの一番はお前じゃなくて俺なんだよ。いい加減、離せ───...ッ!」
......ゴキッ
少しだけ、担がれている身体が揺れて、それと同時に凄まじい音が聞こえてきた。周りも、シン...と静まり返ってしまっているようだった。
「ぐぁ......ッッ」
「...誰が誰のものだって? 全然笑えねぇよ」
───再び身体が揺れだした。
サニーがゆっくりと歩き始めたようで、先ほどまで見えなかった光景に唖然としてしまったが、そこには地ベタにジェイが腕を抑えながら突っ伏していて、先ほどまでのサニーとジェイの立場が分かりやすく逆転していた。
「お、おいおい!? 何やってんだサニー! ...というかどこに行くんだアルバーン抱えて...!?」
股下の長い脚でスタスタと歩くものだから、いくら速足でなくともすぐに広いリビングダイニングを通過して玄関まで辿り着い、ファルガ―や浮奇、他の参加メンバー達が焦りながら追いついて状況を把握しようと試みる。
「...何も。ただ飲みすぎたし夜も遅いから家に帰るだけだよ。」
「いや、いやいやいや! アルバーンは!?肩に担いじゃってるアルバーンは!?」
この中でサニーと一番交流があるであろうルカが先陣を切って手を差し伸べようとするが、奪わせまいと玄関ドアを開けて外に向かってしまう。
「フ、ファルガ―!浮奇!...僕は大丈夫だから、ジェイを...!ジェ...ッ、ぎゃ...あっ!?」
長いことサニーの肩の上で手足をジタバタさせていたため、しっかりとアルバーンのお腹に肩がくるよう低位置に戻され、ぎゅっと太腿を掴み直された。
会話すらまともに交わしてはないけれど、何度も何度も彼を陰ながら眺めていたし、最近はわざと町ですれ違ってみたり、休憩で利用しているらしい公園の近くにあるマーケットをうろついて偶然を装ってみたりもした。
最初こそ、ただの一目惚れに過ぎなかったけれど、今はもう違う。不器用だけど優しくて、思いやりのある人だと、僕は知っている。
彼になら、悪い事なんてされはしない。
今はとんでもない事態になってはいるけれど、どうにか冷静に、解放されるまでは大人しくしていようと、彼の逞しい背中に身を委ねた。
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