執着ですか、恋ですか硝煙の匂いが充満する、吸血鬼退治人御用たちの射撃訓練場。
全弾ド真ん中に的中。
ロナルドは安堵のため息をつく。
この世に絶対は無いからこそ、日々の訓練1つ1つが大切だ。
今日のところはこれでいいか。
そう思い、その場を後にしようとした。
「お、お前もおったんか」
ロナルドと似たような衣装を身に付け、頭1つ分ほど小さい男。
だけど絶対に越えられない相手。
「……兄貴とここで会うなんて珍しいな」
「来てすぐ帰っとるからな」
「え?」
ヒヨシは銃を構え、的を狙う。
1発がロナルドと同じようにド真ん中に的中する。
だがロナルドと違うのは、たった1発でその場を後にしようとしたことだ。
「じゃあ、お前もあまりムチャするなよ」
「……兄貴、あれだけ?」
ロナルドの問いに、ヒヨシは足を止め振り返る。
「あまり撃ったら弾丸がもったいないからな」
「じゃあ何でここに来たんだよ」
「的は狙ったら当たるが、咄嗟の判断は体調面に左右されるからじゃ。1発撃てばその日の体調が分かる」
ヒヨシの答えに、ロナルドは呆然としてしまう。
ロナルドは何発も何発も的を狙って弾丸を撃ったというのに、ヒヨシはたった1発。
ヒヨシと同じ退治人になったのに、差が縮まる気配がないことを実感する。
*
「腹が立つんだよ、あの兄貴!」
「今日はいつにも増して苛立っているね」
仕事が終わり、ドラルク城に訪れたロナルドは、ドラルクとゲームをしていた。
射撃訓練場での出来事を思い出し、苛立ちが収まらない。
「兄貴は天才型だからな。努力して技術を身につける奴のことなんて分からないんだよ」
禁煙のために買った飴を思わず噛み砕きそうになる。
飴に当たっても仕方がないことなのに。
思えば、小さい頃に親代わりになって面倒を見てくれたヒヨシが、練習に出かけている様子なんて見た記憶が無い。
今日の出来事でようやくその事実に気づいてしまったことも癪に障る。
「けど君がそんなにお兄さんのことを好きなんて知らなかったよ」
「……………………は?」
隣りでゲームをしているドラルクを見る。
突然何を言うんだ、こいつは。
テレビ画面から目を離してしまい、YOU LOSE の画面が出る。
「あれ、違う?
だって君が退治人になったのってお兄さんの影響でしょう?衣装だってそう。お兄さんに追いつきたくて追いつきたくて、一生懸命努力しているんでしょう?
憧れて、尊敬していないと、お兄さんのことが好きでないと、そもそも同じ退治人にならないでしょ」
兄貴のことが好き?
そんなわけがない。
だって、俺たちは実の兄弟で、俺は兄貴のことをライバルとして見ているのに。
兄貴に負けたくないと、負けてたまるかと、せめてもの足掻きでロナルド・ウォー戦記を執筆しているのに。
「……あれ?ロナルドくん、顔赤いよ?」
気づきたくなかった可能性。
でも、気づいてしまったときはもう遅い。
自分の中に燻っていた感情に名前がついてしまったら、無視が出来ない。
「……お前のせいだ!!」
「急にどうした!?」
あぁもう!
これから兄貴とどう会えばいいんだよ!