耳元に彩り紺色の角帯をキュッと貝の口に結ぶと、シマボシはふぅと息をついた。
「コレで完成だ」
「ありがとうございます」
シマボシの部屋の姿見の前で、くるくる回って浴衣姿を確認したウォロは、シマボシに礼を言う。
「着付けが出来るなんて、器用ですねぇ」
「実家にいた時に習っただけだ。簡単なものしか出来ない」
「着付けが出来ないジブンからしたら、充分すごいんですけどねぇ」
と言いながら部屋から出る気配の無い彼を、シマボシは睨みつけた。
「着替えるから出ろ」
「えー。シマボシさんが浴衣着るトコロ、見たいんですけど」
「断る」
「うー…分かりました」
すっぱりと断る時は譲歩する気が無い事を、ウォロは経験則で知っている。これから近所の祭に行くのに機嫌を損ねるのは得策では無いので、彼は大人しく部屋を出た。
「財布、スマホ、ハンカチにティッシュ…扇子は、必要ですかねぇ…?」
キィ…ッ
着ている浴衣の色に合わせた、淡いグレーの巾着に財布や鍵等を入れていると、シマボシの部屋の扉が開く。
「おお…」
グレーがかった水色の地の浴衣に青い帯を合わせた姿の彼女に、ウォロは思わず感嘆の声を上げた。
「な、なんだ」
「とってもお似合いですよ。うん…すごく、キレイです」
それきり黙って、ウォロは真剣な眼差しでシマボシを見つめる。そういう時は、彼が世辞ではなく本気でそう思っている事を知っているシマボシは、顔が熱くなるのを感じた。
「しかし、なぜハイネックを着て?」
ウォロの質問に、シマボシは呆れたようにため息をつく。
「キミが昨日、痕を付けたからだろう」
彼女がトントンと首筋をつつくと、ウォロは昨晩の情事を思い出したらしい。
「……失言でした」
「分かればいい」
シマボシの機嫌を損ねる事態にならず、ウォロはそっと胸を撫で下ろす。
「……」
その場から自分の部屋の姿見をちらりと見たシマボシは、小さく首を傾げた。
「どうしました?」
「……顔周りが少々地味になってしまってな。髪が長ければ、簪や櫛が使えるんだが」
浴衣とバランスを取るために普段より少し丁寧にメイクを施したが、やはり髪飾りがあれば華やいだだろうな……とシマボシは思っていた。
「そんなシマボシさんに、プレゼントです」
そう言ってウォロが差し出した手のひらの上には、一対のイヤリングが鎮座している。
五ミリ程の丸いブルームーンストーンが、銀の枠に嵌まっているだけのシンプルな物だ。
「これは…?」
「アナタにお似合いだと思って」
そう言うと、ウォロは彼女の両耳にイヤリングを付ける。
「ほら、よく似合ってる」
渡された手鏡にうつった自分の顔をまじまじと見つめ、シマボシはウォロに向かって微笑んだ。
「…感謝する」
「気に入って頂けて良かったです。さ、お祭りに行きましょ?」
差し出されたウォロの大きな手に、シマボシは自分の手をそっと重ねた。