両手に収まりきらない程の 同棲を始めて毎晩一緒に寝るようになって、尾形が寝ている間はいつも両手を握っていて、ぐーをしている事に気が付いた。毎晩、毎晩、時には眠る前に手を繋いでいたりすることがあっても、いざ眠りに落ちて繋いでいた手がするりと解けると同時にぐーになる。きっかり両手を握り締めていて、ぱーの手になっていた事がない。柔くもなく常にきつく握り締められていて、それに気付いてから目にする度に不思議だと思った。
こいつは力んで寝ているのだろうか、そんな力を入れたまま寝て休めているのだろうか。夜中にトイレに起きたついでに気になって握っている手の指を開かせてみたくなった。腹這いになって尾形の手元に顔が来るように寝そべり、一本ずつ曲げている指の関節を伸ばしてやろうと指に触れる。親指は人差し指の隣につけられていたので、先ずはそれをそっと横にずらした。出来た隙間から人差し指の第一関節を優しく掴むと起こさないよう細心の注意を払いながら手のひらから離すように伸ばしてやる。開いたら、自分の手の甲の縁で押さえて中指も広げようとした時に声がした。
杉元。
あ、ごめん、起こしちゃったか。
それ、やめろ。
寝起きなのと今夜も長い時間喘いでいたのとで話す声が掠れていた。
お前、いっつも手に力入ってるから、ぱーにした方が深く眠れるんじゃないかと思って。
零れるからやめろ。
零れるって何が。
今日、お前との間で起きたこととその時に思ったことが。
それを握って寝てんのか。
そう、思っている。
寝起きだからなのか尾形から言葉が素直に出てくる。
何でそれが手の中にあるんだよ。
一度に胸の中に入れると処理しきれないから。それにこうしていれば失くさないで済むだろ。
そんなにいっぱいあんの。
あっちゃ駄目なのか、別にいいだろ、俺の勝手だろ。そんなことにまで口を出すなよ。余計なことしやがって、眠いのに、目が冴えた。
両手、繋いで寝直すか?
両手なんか繋ぐかよ。
そう云うと尾形が俺の手を振り解いて、また両手を握り締める。もぞもぞと身体を動かして横寝になると顔の横に握った両手を置き、膝を曲げて少し丸まって、それから少しの間、両手を見つめた後に眼を閉じた。手にぎゅっと力が入る。それを自分も少しの間見つめてから、上から包むように両手を添えた。
零れませんように。こんなに力んで馬鹿だろう。強張らせて寝て。でも手を開いて寝ているところを見たことがない。つうか、両手で足りてるのかよ。両手に収まりきらない程の感情とか想い出とか、もっとぶつけてやろうか。そうしたら、手も開けるだろう。俺に抱き付いて寝るようになるだろう。素っ気なく寝返りを打って背を向けた尾形を見つめながら、見てろよ、と思って目を閉じた。