短冊を書けなかった松井江――やっぱり、駄目だ。
赤い短冊に走らせていた筆先が、止まる。そこに書きかけた願いは、己の背負う業で、他の誰ぞにも、天にすら、代わってもらえるものじゃない。
吐き出した息は鋭く、それに気づいた豊前が僅かに眉を顰めたのに、はっとして筆を置きぐしゃりと細長い紙を握り潰す。緑青に彩った指先が握り込んだ赤は、けれど青白い皮膚を染めることはなく、大小の皺を刻んで小さな塊となるだけ。武器である僕には、そんな紙も、命も、等しく儚く、脆く、壊すのはこんなにも容易い。
「どうした、松井。字ぃ間違えたか?」
「……ああ……うん。そんなところ、かな」
曖昧に笑って屑籠へ放った塊は、ぽん、と軽い音を立てて底へ吸い込まれていった。うまく笑えているだろうか、そう思っていることすら、正面で僕を見据える赤の瞳にはお見通しなのかもしれない。
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