——開始十分で、やられたと気付いた。
目の前に座る、ビールの入ったコップを片手に、唾を飛ばす勢いで喋る上司の口から何度同じ話が繰り返されただろうか。
根が真面目な天馬司は適当に話を聞き流しながら相槌を打つこともできない。司が生返事をしないことも上司の機嫌を高調させる要因になっているのかもしれない。
話したがりの酔っ払いは総じて、機嫌が良くなるとさらにお喋りになる。
以上が入社一ヶ月の天馬司が、初めての酒の席で胸に刻んだ教訓である。
***
この四月から入社した新人社員の歓迎会は、地方に約一ヶ月間の研修に赴く必要があったため、五月の連休を経て開催された。都心にある本社に配属されたのは、司を含めて四人。他の三人は全員四年生の大学を卒業しているが、司は二年の短期大学卒だ。つまり他の三人より年齢が二歳若い。
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