ポケットに入れているスマホが震え、画面を見ると1通のメールが届いていた。差出人は『松田陣平』
(あいつ…昨日会ったばかりじゃないか…あまり連絡するなと言っているのに)
ため息をついてメールを開くと、松田にしては珍しい長文に何事だと驚き急いで目を通した。
【よぉ、怪我の具合はどうだ?
これ見ながらお前は、連絡すんなって怒ってるんだろうな。けどもうこれが最後になりそうだから、許してくれよな。
最後にこんなこと言うのずるいなって思ってるけど、このままじゃ化けて出そうだから言っておく。気付いてなかっただろうけど、俺お前のこと好きだったんだ。こんなことなら、もっと早く言っておけば良かった。もうすぐ死ぬってときにならないと伝えられない俺を、バカだって笑うか?それとも呆れてる?このメールを見たお前の顔が見れなくて残念だ。
じゃあな、零 お前に会えて良かった。あんまり無茶すんなよ】
「は…?」
不穏な内容に血の気が引いていく。ドクンドクンと心臓がうるさく音を立てる。今日は11月7日…例の爆弾犯が動くなら今日だろうと言っていた…
――まさか……
震える手でテレビのリモコンを取り、電源ボタンを押す。映し出されるのは、慌ただしく報道するアナウンサーと、『杯戸町・ショッピングモールの大観覧車で爆破事件 警察官一名死亡』の文字。見間違いであれとチャンネルを替えるが、どの局もそのニュースで持ち切りだった。
もうすぐ死ぬと、彼のメールには書いてあった。松田は自ら命を絶つ奴じゃない…あの日の萩原との約束を果たすのだと言っていた。今日はいつFAXが届くか分からないから本庁に泊まるとも聞いた。
テレビに目を向けると、変わることのない警察官一名死亡の文字。誰かは書いていないが、これが松田ならたった今突然届いたメールの内容とも辻褄が合う。
いや、そんなの嘘だ。警察官は本当に松田のことなのか?そもそも死亡というのは確かな情報か?あいつが爆弾解体に失敗するなんてことあるはずがない。松田なわけがない。僕をからかっているだけに違いない。もう少ししたら、驚いたか?なんて言ってくるんだろう?昨日だって、あの状況で解除に成功して得意気な顔をしていたんだ…。そう、昨日まであいつは生きて…いつものように……―――
待てども再びスマホは鳴ることがなく、自分の心臓音が大きくなる。鉛のように重い手に力を入れてスマホを持ち上げ、再びメールを読み返す。
見ないようにしているのに、何度読んでも嫌でも目に入ってくる『好きだ』という文字。
「バカだろ…お前…」
僕をからかっているだけ、なんて言ったが、松田が冗談でこんなことを言うやつじゃないことくらいわかっている。きっとやむを得ない事情があって、職務を全うするために死を選んだのだろうことも。けど、それなら僕にメールを送ってくるよりも、もっと他にやるべきことがあったんじゃないか?貴重な時間を僕なんかに使う奴があるか。それを言う相手は、僕じゃないだろう……バカだよ、松田……
だけど本当にバカなのは、こんな時でも自分の気持ちを認めることができない、僕の方だ―――
fin.
ガラケーからスマホになってたから長文も打てるね、っていう…