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    samoebi

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    samoebi

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    くりんば

    あんたは俺の膝の上 くりんばあんたは俺の膝の上
    くりんば


    うちの本丸の大倶利伽羅はほとんど話さない。自己主張も少ない。極の順番がなかなかこないので、カンストしてからは静かに静かに過ごしている。
    今の大倶利伽羅になったのは理由がある。

    ある刀が演練で誘拐された。当時、戦争をしていた本国は強烈な資材不足で、顕現された刀を誘拐しては溶かし、他の兵器に作り直していたのだ。
    その刀は大倶利伽羅の恋刀で、山姥切国広という。まあ俺のことなんだが。
    同じ部隊に配属されていた大倶利伽羅は血眼になって探してくれたらしいが、そんな努力も虚しく、俺は強制的に溶かされ、資材になった。おとなしく本霊に帰ることもできたが、大倶利伽羅のことが気になった。主からの霊力供給がない今、薄ぼんやりと本丸を漂っている。それが今の俺だ。
    主を会して伝わった山姥切国広の死が大倶利伽羅にも伝えられた。その時の大倶利伽羅の慟哭が主の胸を打った。うちのかなりおかしな主は、もう一振り山姥切国広を顕現させた。
    「ちょっと資材足りなかったけどまんばちゃんのこと思い出して創りました!」
    脇差ほどの身長に大きな打刀。鞘尻を引きずって顕現した彼は山姥切国広に間違いなかった。
    にこやかな主が大倶利伽羅にぼこぼこに殴られたが、誰も止めなかった。主が悪い。
    それでもなにか思うことがあったのか大倶利伽羅は小さな山姥切国広の手を離さなかった。
    えっ? 溶かされた俺の薄くなったものが顕現したんじゃないのかって?
    うちのちょっと変わった主は特殊な性癖の持ち主だ。ハッピーエンドの定義がほかとずれている。主的にはこれでハッピーエンドだと満足しているので、これ以上の覆りはない。
    だから俺はこの本丸で、霊力がなくなり消えるまで、この二人を見守ろうと思う。

    大倶利伽羅が手を離さないので堀川の兄弟と揉め事が起こった。小さい兄弟を可愛がりたい堀川が山姥切国広の手を引いたのだ。
    もちろん恋刀の手を二度と離すものかと思っている大倶利伽羅は堀川を無視。
    大岡越前の始まりだ。
    大倶利伽羅と堀川の間でおろおろする山姥切国広。
    それはそうだ。顕現して名乗るよりも早く大倶利伽羅に手を繋がれた。名乗るべき主はもう居ない。
    引っ張られて部屋を一歩出れば芳醇な霊力の染み渡る庭にどこまでも続く廊下。ずんずん歩いていく刀剣男士についていくので精一杯だ。
    途中でどこからともなく現れた刀剣男士に手を引かれて肩が少し痛んだだろう。
    堀川と大倶利伽羅がにらみあっているうちに山姥切国広と目が合った。
    誰かはわからないが助けてくれ。そう山姥切国広の目には書いてあった。
    大倶利伽羅も兄弟も俺の泣き顔に弱い。指差しと口話で伝えると山姥切国広が泣き始めた。
    堀川がぱっと手を離したので、大倶利伽羅にもたれ掛かった山姥切国広。それをひょいと抱き上げて腕に座らせるとさっさと歩いていってしまう。
    部屋に着くまで山姥切国広は泣いたままだった。
    大倶利伽羅はいつものようにため息を吐き出した。これは部屋についたことに対しての安堵で、山姥切国広に対するものではないのだが、それを知っているのは俺だけだった。
    「泣くな国広」
    「……ぅ……っう」
    「泣くな」
    そんな心配した顔で正面から泣くなと言われても涙が止まるわけない。大倶利伽羅は不器用なのだ。顔に表情を持ってくると全て仏頂面か怒った顔に見える。近しいものならわかることだが、顕現したての山姥切国広にわかるわけなかった。
    困る大倶利伽羅。
    泣き続ける山姥切国広。
    慌てる俺。
    泣き声に気がついた燭台切光忠がやってくるまで三十分はこのままだった。



    山姥切国広の機嫌がよくても悪くても大倶利伽羅は
    手を繋いだり抱き上げたり。どこか山姥切国広に触れていないと不安なようだった。
    「……国広」
    「あんたなんて嫌いだ! 手を離せ!」
    「迷子になる」
    「俺は刀剣男士だ。主の霊力くらい辿れるぅぅぅぅぅぅうううう!」
    手を引っ張っても蹴飛ばしてもなんともならないレベルの差。カンストと特前だ。どうしたって無理がある。
    今回もお手手つないで演練したのが嫌だったようで、素直に大倶利伽羅の膝に座っているものの、機嫌を取りたい大倶利伽羅が用意した菓子をスルーしている。
    演練でも被害は三千ほどに上る。政府はなんの対策もしないところを見ると、そんなに資材が足りないのか、もっと上のお偉いさんが関わっていることなのかわからない。
    それなのに主は大倶利伽羅と山姥切国広と演練に参加させるのをやめない。
    大倶利伽羅が修行に出たいと言っても、極は全員カンストしてからね、と笑ってごまかす。
    あの顔はなにかたくらんでいる顔だ。ずっと近侍だった俺にはわかる。

    「僕の国広は何をしているのかな」

    主の職務室。大倶利伽羅と山姥切国広が昼寝をしているうちに俺は主の書類を盗み見ていた。
    今の俺はほとんど透明で、兄弟にも大倶利伽羅にも主にも存在を確認できないはずだった。
    「主である僕の職務書類を誰もいない時、見ているよね。それが終わると部屋の隅でじめじめしてる。いくら国広が見えなくなったからって、感じられないわけがないんだ」
    そこにいるんだよね、国広。
    そう言われたらうなづくしかできない。
    主はそっと職務室の戸を閉めて、深呼吸した。ふっと短く吐き出す頃には、濃く深く主の霊力が満たされていて、俺の輪郭も多少は濃くなっていた。
    「やっぱりいたんだ国広」
    「かまかけたなくそ主」
    「なんとなくだけど、まだ僕の国広がいるかもしれないって思ってたんだ。小さい国広と時々話してるでしょ」
    「見てたのか」
    「そりゃもう本丸で起こったことを知らないわけないじゃん」
    主は座布団を折り曲げて頭を乗せて寝転んだ。
    「ねぇ、少しは怒っているんだ。……俺の刀なのに折れやがって」
    「たしかにあんたと折れない約束をしたが、溶かされたとなるとまた折れるのとは違うだろう」
    「屁理屈」
    「うるさい」





    大倶利伽羅は心配性だ。
    俺を膝に乗っけてないと不安なのか、日誌を書くときも、飯を食うときも、風呂にはいるときも、廁に行くときも膝に乗っけている。
    なかなか戦に出ることはないので、本当につきっきりだ。
    主がいつのまにか俺と大倶利伽羅を同室にしてしまったお陰で、毎日四六時中俺は大倶利伽羅の膝の上にいる。
    ちなみにめちゃめちゃすわりごこちがいい。大倶利伽羅の目を盗んで日本号に膝に乗せてもらったことがあるが、どうもしっくりこない。
    俺が隣で昼寝していない状況で大倶利伽羅が起床。かち切れた大倶利伽羅が抜刀して本丸中を練り歩くショーが開催された。日本号は死合いを挑まれて槍を振り、大倶利伽羅を防いだが、一歩後ずさった大倶利伽羅にぶつかった俺が転けた。
    なんとか顔からダイブすることはなかったものの、手のひらと膝を盛大に擦りむいた。
    二振りを止めたかった俺はここぞとばかりに泣いた。もう嘘泣きもうまくなったものだった。
    泣き声に本体を放り出した大倶利伽羅が戦線離脱。それを見た日本号もやる気を失ったようだった。
    「国広、今主を呼ぶ」
    ぎゃあぎゃあ泣く俺を抱えあげた大倶利伽羅の頬を手で避けて、それでも強く抱き締める腕が好きになっていた。

    今日もまた演練が始まる。俺と大倶利伽羅は主と一緒に本丸の戦いを見ている。
    主の霊力をもらって体は成長しているものの、まだ自分の本体を振るうことすらできないでいる。早く大倶利伽羅の隣に立って戦いたい。
    今剣が誉れをとって自陣が勝った。
    大倶利伽羅の腕を飛び出して、やったと拳を握って今剣に駆け寄る。
    「国広、はしったらだ……! てきしゅうです!」
    あるじさま! 今剣がそう叫んで大倶利伽羅が主を庇った。今剣に手を引かれて後ろに下がると俺のいた位置に雷が落ちていて、床が焦げている。
    ぞっとして足に力が入った。
    他の本丸の刀剣男士にも雷が落ちたらしく、姿が忽然と消えていた。
    悲鳴が上がって、抜刀の音があちこちで聞こえる。
    「大倶利伽羅は国広捕獲。室内戦だ、今剣は僕の側へ」
    主が、来るぞ、と気合いのこもった声を出して辺りを警戒した。
    大倶利伽羅に抱き上げられてしがみつく。大倶利伽羅が抜刀したところをはじめてみた。
    格好いい。場違いなことを思ってしまったのがいけなかった。
    どんばりばりっと乾いた音がして再度雷が落ちてくる。
    俺だけでも離そうとした大倶利伽羅の手を離さなかった。


    雷の形をした転移呪文だったようで、俺たちは真っ黒焦げになることはなかった。
    「伽羅、ここどこ」
    「わからん。少し黙っていろ」
    足でも掬われたら立ち位置がわからなくなるほどの闇だった。俺たちはくっついていたし、俺事態の存在が小さかったお陰で離れないでここにいられるらしい。
    「絶対に離れるな」
    大倶利伽羅がそう言うと抜刀した刀を振り回した。何にも当たらず、大倶利伽羅の足音だけが広い空間に飛んでいく。帰ってはこないのでかなり広いんだろう。
    なにもないことを確認した大倶利伽羅が俺を背中から前へ抱き直した。いつもよりしっかり抱き締めてくれることが嬉しくて、同じように抱き締め返した。
    「国広、寝ててもいいぞ」
    「寝たら終わりな気がする。何か話してくれないか。前の俺のこととか」
    「……山姥切国広は初期刀だ。主にべったりな個体で口が悪い。どの刀にも分け隔てなく接していた。だが俺だけはそれが気に入らなくて、山姥切国広の唯一になりたくなってしまった。国広の知っている通り、俺は独占欲が強い。山姥切国広にひっつくもの全てに威嚇した。もちろん主にも。相当困っただろうに山姥切国広は当時の俺にもわかっていなかった恋心を見抜いてさらけ出した。容赦がないから酷いもんだぞ。俺のそれは醜い嫉妬で、周りを困らせるなら自分は解刀を申し出る、とまで言ったんだ。恋心が好きな人を殺すことすらあるんだ。それが本気だとわかった俺は嫉妬を隠し始めた。ある時は山姥切国広の手を握りしめて、ある時山姥切国広を抱き締めて。どうしたって皆の大好きな山姥切国広であることをやめられない。だとしたらもっともっと俺を見てもらえばいい。久しぶりの演練で山姥切国広は申請を出しに一人で行った。それから帰ってこなかった」
    「なぁ、伽羅は今も好きなのか」
    「どうだかな」
    「俺は初期刀になった方がいいか」
    「……あいつはあいつ。お前はお前だ。きっとわかる日が来る」
    「うん。そろそろ出口を探そう」
    「ああ」
    立ち上がった伽羅は俺を抱き締めていなかった。自然と俺は大倶利伽羅の前に立ち、大倶利伽羅が持つ本体に手を重ねた。
    「斬ったらいける気がする」
    「俺も今それを言おうと思ってたんだ」
    空間を斬るなんて普通はあり得ないことだが、このときだけは何も怖くなかった。


    ぱっと明るくなった。ここは演練会場。目先には人間の死体の山。
    「あるじさま、大倶利伽羅と国広がかえってきました!」
    かえり血を浴びて薄桃色になった今剣がジャンプしているのが遠目にわかる、
    「よぉ、やっとお帰りか」
    血まみれの日本号が穂先に人をぶら下げてこちらを見る。
    そのなかで少しも汚れていない主が指揮を取っていた。
    「俺たちはいつの間に戦場へ戻ったんだ」
    「わからない」
    「キレてる主を止めるのが先だな」
    大倶利伽羅が当たり前のように俺を抱えて主の元へ。
    霊力を放出しながら指揮を取っている主は、その大量の霊力によって刀が傷ついてもすぐに直してしまう状態にあるようだった。
    「主!」
    国広が主の腰に飛びついた。すぐに俺も主に殴りかかる。倒れ行く主から国広を引き剥がした。
    「ただいま主」
    「国広ぉ、伽羅ぁ……」
    「この惨状はなんだ。あんたらしくもない」
    「この軍の一部が首謀者達で、今まで四千近く刀を誘拐していたんだ。その中に俺の国広も含まれる」
    「国広は俺のだ」
    「小さい国広いるじゃんかよ~」
    「俺は俺だ!」
    主を立たせると日本号が首謀者を引っ張ってきた。
    「見たことある顔だね。僕の本丸の昔の担当さんじゃないか」
    ねぇ国広。
    主が虚空に向かって話しかけている。とうとうここまで来てしまったのかと憐れみが出てくる。
    主が柏手をひとつ、ふたつ、みっつ。それは鍛刀をするときと同じだった。
    「言ってなかった? 僕はハッピーエンドが大好きなんだ」
    ふわりと桜の花弁が舞っている。限界するには持ってこいの霊力と場だった。
    「山姥切国広だ……俺の主が迷惑をかけたな伽羅」
    「……国広……」
    「国広!」
    「ああ、小さな俺。やっと抱き締めることができるな」
    どんと飛び込んだ俺をなんなく抱き締める。山姥切国広は強く抱き締めてくれる。
    「国広、国広」
    「伽羅も来いよ」
    「……っ」
    「大きな赤ちゃんだぁ」
    「ちょっとうるさいぞ主」
    「はぁい」


    首謀者達を半分ほど殺してしまった俺たちの本丸は、政府預かりになった。謹慎という名の政府所属の本丸になり、これからいろいろな事件を解決していくのだが、これは割愛。

    「国広、こっちこい」
    「伽羅!」
    俺は山姥切国広。図体も大きくなって、昔からいる山姥切国広と相違なくなってきた。それでも伽羅の膝の上へ。
    「大倶利伽羅、俺もか?」
    「俺の国広だ」
    俺も山姥切国広。一度溶かされて、主に無理矢理顕現されている。こんな刀剣男士モドキでも伽羅の膝の上へ。

    『あんたは俺の膝の上』

    おしまい
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