Brother’s breakfast「朝食にはふつう、卵だろう? ちょうどそこに卵があったからポーチド・エッグにした。それだけだ」
「じゃあ兄さんは、自分がいちばん好きな紅茶を勝手に淹れられて勝手に飲まれてもいいのか? そうじゃないはずだ。あれは何の変哲もない鶏卵だけど、僕がいま世話している動物にとっては貴重な栄養源、たんぱく質なんだ!」
僕とニュートはトランクの前で、まるで旅行前に観光順路について連れと揉めるみたく――少なくとも何も知らない人間にはそう見えるはずだ――、ぐぬぬと互いを見合って両者一歩も引かず、件の卵について口論していた。
きっかけは、共同で使っているキッチンに新鮮な鶏卵が二個、置き去りにされているのを見た僕がそれを使って朝食を作っただけのこと。
しかしそれが、ニュートのトランクの中で今も鳴き声をあげている新入りの動物用の餌だったというのだ。
「あんな場所に置いていたお前が悪い」
「それは、そうだけど……」
ニュートの口が元来よりますますへの字に下がるのを見て、これが兄の負い目というものなのか、僕は次第に悪気を感じ始めた。年長者たるもの、ここは頭を下げるべきだろう。謝りの算段を頭の中で立てていると、
「兄さんに……兄さんに魔法動物の何が分かるんだ」
ああ、この弟は本当に素直で、優しい偏屈屋で、いじっぱりだったことを忘れていた。本心では無いことを分かっていながら、僕は諭すように口にした。
「彼らを誰よりも愛しているお前のことは、これでもよく分かってるつもりだ」
頭をぽん、と撫でてやると、ニュートはまたしても不服そうな顔をした。この顔を愛おしいと思ってしまうのもまた、兄の兄たる贔屓目といえるのかもしれない。
「マイ・リトル・ブラザー、どうか怒らないでおくれよ。今度は僕も彼らの世話を手伝うから、それで彼らへの理解を、お前への理解をより深める。どうだ? それで許してくれるか?」
「……彼は本当に卵をおいしそうに食べるんだ。兄さんにも、……見せたくて」
「そうか、そうか。僕はそれを見ているお前の喜ぶ顔も見たいぞ」
ばつが悪そうにうなじに手を添えてぎこちなく表情を和らげた、不器用な弟に微笑み返す。
「さあ、なかなかに罪深い朝食になってしまったが、どうだ、せっかくだし一緒に食べないか。その後で良ければ、トランクの中にぜひ招いてくれ」
僕にとって、愛に満ち溢れたあの世界の水先案内人はお前だけだから。