深海の冷たい火「ほう、古書庫というからもっと狭いものを想像していましたが、いやあこれは」
「古書ばかり収めてるわけでもないからな。手前の棚は新しい学術書やまだ本にもしとらんデータの類いじゃから、この国のことも、ここ百年の地上の情勢もわかるぞ」
「あ、兄貴」
そんなことを教えていいのか、と名を呼ぶと、兄王はいい、と軽く手を振りロナルドを抑えた。ドーム型の足を持った変わった蛸の人魚はふんふんと感心しながら床にも書物の積まれた狭い通路を、するすると器用に歩いて行く。後生大事に抱きかかえているシャコガイから顔を出した使い魔が、同じように興味深そうに高い天井を見上げてきょろきょろとしていた。
「こんなに地下深く、天井も高くとなるとカタコンベを思うのですが」
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