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    鯖目ノス

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    鯖目ノス

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    神様K暁の短い話
    思い立って3時間くらいで書き上げたやつ。

    #K暁

    其れは朝月夜と共に来る呼び声あれ?と思ったのはなんの気もない時だった。
    夢から覚めてパチンと目を開けた瞬間。
    起き上がって身支度を整えようとした時。
    いつも通りの格好を鏡で見ている間。
    何も変わらない自分。何も異変のない自分。なのに拭えない何か。
    違っていないのに違っている。何かが引っかかる感覚。
    しかしてそこに不安はない。違和感はあるけれど。
    うーん?と首を捻ってみるもわからず思案に耽っていると、寝室の戸がすらりと開いた。
    思考が尾を引きつつもそちらに目線を移すと、日頃から世話を焼いてくれるお歯黒べったりの山茶花が三つ指をつきながら深々と頭を下げてそこにいた。

    「おはようございます奥様。今朝は随分と遅起きでいらっしゃますね」
    「おはよう山茶花。起きてはいたんだけどね…なんかちょっと考え事してた」
    「考え事にございますか。何かお悩みで?」
    「いや…うーん。まあ、うん。大したことじゃないんだけどね…」
    「奥様らしくありませんね。言いにくいことでございましょうか」
    「そういうわけじゃないんだけど…」

    口ごもる暁人に山茶花は不思議に思いつつもじっと待った。長い付き合いだ。必要なことはきちんと口に出すことがわかっている。
    では個人的なことなのだろうか。しかしこれもまた長い付き合い故に悩み事でも話してくれる。元々はそうして欲しいと山茶花から申し立てたことではあるが、暁人はどれだけ時が進んでも律儀に守ってくれた。
    ではどうしたのか。待ち続ける山茶花に、暁人は腹に決めたようでようやく口を開いた。

    「ねえ、今日の僕なんかおかしいと思わない?」
    「………謎かけでしょうか?」
    「あ、いやそういうことではなくてね」

    どこか落ち着かない様子を見せる暁人にただただ首を傾げた。
    おかしい、おかしいと言われてもと頭のてっぺんからつま先まで眺めてみるも皆目見当がつかない。

    「?」
    「だよなぁ」

    もやもやと蟠りを抱えながら、仕方なくいつも通り厨へと急いだ。
    朝昼晩の献立を誦じながら後方に続く山茶花へ意見を求める。魚中心にするか、肉中心にするか、野菜中心にするか。魚は前日刺身にしたから却下。そういえば狩へ向かった山犬が上等な猪を仕留めたと報せがありましたよ。いいねそれ、夜は猪鍋にしようか。なら朝はさっぱりしたもので。
    そんなやりとりをしている最中、台所に向けていた足が途端に止まった。どうしたのだろう、と山茶花が前を向いたままの暁人の顔を覗き見る。しかし当の暁人は口をつぐんだままじっと耐えるような顔をして踵を返してしまった。

    「っ…ごめん山茶花、あとお願いするね」
    「奥様!?」

    静止する声も虚しく、暁人は来た道を早足で戻ってしまった。取り残された山茶花は呆気にとられたが、すぐに気を戻して近くにいた二口女に朝餉の指示を出した。それから白湯の準備も。


    「…奥様?」

    入りますよ、と声がけをするも返答はなし。仕方がなく部屋に入ると、暁人がこちらに背を向けたまま壁に寄りかかって座り込んでいた。思わず青白い顔からさっと血の気がひく。
    何事かと思い駆け寄ると、さらに青白い顔の暁人が何かを堪えているように口元に布を当てて浅く息をしていた。
    慌てて医者か薬かと立ちあがろうとしたところを腕を掴まれる。

    「…大丈夫。ちょっと貧血なだけ」

    そうは言われてもと言い淀んだ彼女に、念を押すように大丈夫だからと言われてしまえばどうすることもできない。大人しく傍らに座り持参した白湯を差し出すと、一気にあおってしまう。医者やらなんやらに言わずとも龍神様にはお報せすべきかと言いたかったが、いいからと言われるだろうと口には出さずにいた。

    「ごめんね急に」
    「いえ…それより先ほどは如何されたのでしょう。突然足早に発たれたものですから驚きましたよ」
    「うん、それなんだけどね。台所に行こうとした時に朝餉の香りが漂ってきたじゃない?それで突然気持ち悪くなっちゃって」

    なんだろうねと笑う彼に山茶花は眉を顰めることしかできなかった。どうにもこの方は朝から調子が悪いと見える。大事をとって今日だけでも休まれたほうがいいと進言しようとした瞬間、バサリと大きな羽音を立てた何者かが縁側へと降り立った。

    「何者!?」

    バサバサと降り立ったそれは手を広げるくらいの大きさの真っ黒な鳥だった。まるで鷲や鷹のような風態のそれは暁人を庇い立つ山茶花を漆黒の瞳で見上げた。

    「『突然の訪問申し訳ない』」
    「…ええその通りです。事前に連絡もなく寝屋に入り込むなど無礼極まりない」

    いきりたつ山茶花をどうどうと諌めつつ、暁人は巨大な烏に目をやった。

    「その声、南山の大天狗様ですね?」
    「『いかにも。眷属を使った突然の無礼、改めて謝罪しよう。しかし龍神の伴侶殿に急ぎ伝えねばならんことがあったでな、許してもらいたい』」
    「僕に?何用でしょう」

    きょとりと首を傾げた暁人に烏は流暢に口を開いた。

    曰く、今朝方大天狗の統べる山で『件』が生まれたという。『件』は人の顔をした仔牛の妖怪で、生まれた際予言をして息絶えるという。基本的には災害や疫病などの悪い予言ばかりが多いわけだが、今回は違ったらしい。

    「『いとめでたき事、お喜び申し上げる』」

    告げられた内容に、暁人は目を見開いた。



    その頃、居間では数百年ぶりの緊張感に包まれていた。
    ドッドッドと誰かの鼓動が強く響く。気を抜けば口から情けない声が出てきそうだ。隣の奴が唾を飲み込んだ音が嫌に耳に残る。その反対の奴が身じろぎした衣擦れの音が神経を逆撫でる。後ろの奴が鼻を啜った一瞬すら腹立たしい。前の奴が震えて歯をガチガチと鳴らす音も気になって仕方がない。この場で音を立てること自体が罪になりそうな勢いで、全員がその男が醸し出す怒気に呑まれていた。

    「………」

    男は尚沈黙しているが、その腰から伸びる太い尾が苛立たしげに床を叩くたびに誰もが震え上がる。
    そんな周囲に目をやることもせず、男は…龍神は隠さずにいる苛立ちのままに静かに鎮座していた。

    なぜ彼がここまで苛立っているのか。それはしばらく前から続く悪天候とそれに付随する河川の氾濫、及びそこから発生する負の感情から出でる意思なき魔の処理に奔走していたからである。
    悪天候自体は凛子からも申し訳ないと謝罪を受けている。しかし今回に限っては彼女だけのせいではないため渋々ながら受け入れたのだ。主に遠い都から流れてくる負の空気が土壌と風を汚している。あの場所は昔から魔都と言われるほどに悪い気を溜め込みやすいのだ。それがなんの因果か風に乗ってこちらにも流れ込んできている。多少のことならまだしも、近年稀に見る濃度に辟易とせざるを得なかった。
    そんなわけで、ここ数日の間まともにゆっくりできずにいる。溢れ出した魔の存在を狩り尽くすために前線に立つこと続けて丸2日ほど。ようやく帰路に着いたものの、漂い来る瘴気混じりの風に今一度発つことを余儀なくされている。

    (いっそ都の人間残らず絶やしてやろうか…!)

    前線に立つ間、愛する伴侶と顔を合わせられていない。本当はすぐさま会いに行きたいのは山々なのだが、悪い気を纏った体で会いに行きたくなかった。そんなわけで、暁人が台所にいると見越していつ出ることになってもいいように比較的玄関に近い居間で小休憩をとっている。ちなみに彼がここにいることは決して伝えないようにと近くの妖怪たちには箝口令を敷いている。

    はぁ、と思わず漏れたため息に同じく休憩するように命じた妖怪の兵たちがびくりと肩を震わせる。龍神ほどではなくとも皆鍛えられた兵なのでこれしきのことで怖がられても困るのだが。
    一度喝を入れるべきかと腰を上げた瞬間、戸が勢いよく開け放たれた。

    「KK!」
    「暁人!?」

    会いたくても会えなかった伴侶がキッと顔を強張らせて立っている。その背後には珍しくオロオロと狼狽した様子の山茶花が続いた。

    「おま、なんで」
    「そういうの後。とりあえず座って。山茶花、皆にお茶と何か食べやすい甘いもの出してあげて。疲れてるだろうから」

    承知しました、と手を二度叩いた山茶花の合図でぞろぞろと女中姿の妖怪たちが現れて盆に乗せた茶と和菓子を兵たちに配っていった。
    その間、どこか気まずい顔のKKを凪いだ目で暁人はじっと見つめている。

    「…まあ、会いにきてくれなかったのはちょっと怒ってるけどね」
    「うっ…すまん」
    「いいよ。珍しく気使ったんだろうし。でも僕も会いたかったよ、短い間でも」
    「悪かった」

    張り詰めていた空気感が和らいだ。それに伴って一言も喋らなかった兵たちも他の使用人たちと口々に談笑を始める。皆戦い続けて疲れていたのだ。

    「僕たちのために頑張ってくれたんだよね。お疲れ様」
    「まだ終わってないがな」
    「そうだね。だからこそここに戻ってる間は気を休めてほしいって思うよ」
    「…ああ、わかってる」

    暁人から受け取った茶を口にしながら、久方ぶりの伴侶との時間を堪能する。
    本当は二人だけでじっくり時間を過ごせればいいんだが

    「あ、それなんだけどね」

    パッと顔を上げた彼がそこまで言って言い淀む。何か悪いことでもあったのだろうか。
    もじもじと指先で遊ぶ伴侶に愛おしさを感じつつ早く言えと急かしたらどこか恥ずかしそうにしながら内緒話をするように耳に口を寄せた。

    「あのね…」

    小さくて聞き取りにくい声がボソボソと告げられる。なんだ?とさらに聞き取ろうと顔を寄せたら頬を染めてもう一度唇を寄せた。

    そうして告げられた言葉にKKの時間は止まった。

    「それは…本当か?」
    「こんな嘘、冗談でも言わないよ」
    「間違いないんだな?」
    「さっきわざわざ南山の大天狗様が伝えにきたよ。件の予言がでたって」

    それを聞いたKKは座っていた暁人の腰を勢いよく抱き上げた

    「っでかしたぞ、暁人!!!」
    「わぁっ!?」

    彼は今までの鬱屈とした空気を振り払うが如く喜色満面で伴侶を高く掲げて振り回した。それに慌てたのは傍で見守っていた山茶花である。

    「龍神様!そのようにされましたら奥様のお体に障ります!!」
    「そっそうだな、悪かった」
    「ふふふ、大丈夫。」

    僕“たち”そんなに柔じゃないよ、と腹を摩りながら暁人が微笑む。その優しい顔に思わず愛おしさが溢れそうになる。これこそ自分が何よりも守りたいものだとそれだけで染み入った。
    グッと拳に力を入れる。この穏やかな時間を守るために戦うのだと、そう思うだけで力が湧いてくる。

    「それなら尚更、お前たちのために頑張んないとな」
    「あんまり無茶しないでね。心配で眠れなくなっちゃうから」
    「ならよく眠れるように子守唄でも歌ってやるよ」
    「予行練習?」
    「まあな」

    くすくすと笑う伴侶を抱き寄せて頬と額に口づけを落とす。一度目は彼らの安らかな時間を願うため、二度目は自分達の無事の帰還を約束するため。恥ずかしそうに身を捩って怒る様をお守りがわりに目に焼き付けた。

    「っし、そろそろ発つ。皆の者、準備しろ」
    「お見送りするよ」
    「いや、お前は安静にしてろ。体に障ったらよくないだろ」
    「さっきも言ったけどそんなに柔じゃないから大丈夫。それよりもKKのかっこいいところ見せてあげたいじゃない?」

    そんな風に言われてしまえば反論もできない。仕方がないので玄関先までと言うと、少しだけ不満げにしながらもわかったと頷いた。

    「旦那様のご武運をお祈りいたします」
    「ああ、お前も健在で。戻ったらよく見せてくれ」
    「ならすぐ帰ってきてね」

    武具に包まれたKKの右手を持ち上げて指先に口付ける。神にとって祈りこそ力になる。たとえそれが同じ神相手だとしてもだ。祈りを受け取った右手をグッと握ると、ゆるりと開いて伴侶の頬に滑らせた。手甲越しにも伝わる熱がじわりと沁みた。


    行ってくる、と飛び立つ集団の影を目で追いながらほうと息を吐き出した。

    「“君たち”のとと様は格好いいんだよ。誰よりも強くて、優しくて、頑張り屋さん。だから、安心して出ておいでね」

    未だ膨らんでいない腹部を優しく撫でていると、傍で待機していた山茶花が羽織をかけてくれた。それは暁人の伴侶がよく肩からかけているものだった。薄らと香る匂いにもうすでに影もない姿へと思いを馳せた。
    帰ってきた時にどう労ってやろうかとも考えながら。


    それから一年ほど後、屋敷に小さくもやんちゃな影が増えて一同手を焼くことになるわけだが、それはまだまだ先のお話。
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    MEMOフォロワーの雨映さんとお話してて話題にあがったK暁の猫パロのネタが湧いてきたのでとりあえずざっくりメモ。
    なんか、こんな感じの絵描きたい......
    本編後全員生存エンドで紆余曲折あってお付き合い後同棲を始めたK暁の世界線。K暁と猫2匹のほのぼの平和物語。
    以下思いついた設定↓

    KK→仕事(怪異退治)の帰りに怪我をした猫を発見。何となく既視感を覚えてお持ち帰り。そのまま飼うことに。我が子のように可愛がる。デレデレ。最近何処の馬の骨か分からない男(猫)連れてきてうちの娘(オス)はやりません状態。

    暁人君→同棲人がどこからか拾ってきた猫に戸惑いながらも懸命に看病するうちに愛着が湧いてそのまま飼うことに。デレデレ。自分と同じ名前なのでたまに自分が呼ばれたのかと思って反応してしまうのがちょっと恥ずかしい。

    猫1(あきと)→元野良猫。車と事故にあって右側(特に顔と腕)を負傷。倒れてるところをKKに保護されてそのまま飼われることに。怪我は治っているが後遺症で右目が少し見えずらくなっている。名前は模様が何となく嘗ての暁人君に似ているということでKKが勝手に暁人と読んでたら定着してしまった。通称あき君。飼い主大好き。最近野良猫と仲良くなって家に連れてきた。
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