鯉月SS 米が炊けてきた香りに月島の意識がふわりと浮上する。微睡みながら、台所の物音に少し耳を傾けて、また目を瞑る。起きていっても「もう少し寝ていろ」ときっと言われてしまう。
鯉登が朝食作りを買って出てから久しい。月島としては丁寧な朝食を必要としていたわけではなかったし、鯉登もすぐ飽きると思っていたが、予想は外れ月島もすっかり温かい料理で一日を始めることに甘え慣れてしまった。
布団の中から朝食の気配を感じつつ、ふと始まりは雑炊だったことを思い出す。ある日目が覚めると、珍しく先に起きていた鯉登が前日の晩御飯だった鍋をアレンジしていた。やってるうちに楽しくなったのか、また野菜やら米やらを入れて、味付けも足し、最後に卵でとじていた。その時に、確か月島は言ったのだ、朝食の匂いで目が覚めるのは初めてだと。
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