甘え下手塵歌壺内にて...
「あーつーいーぞー」
「パイモン...ちょっと静かにして。暑いのは私もなんだから。」
項垂れるパイモンを横目に、蛍は調度品の作成をしていた。数々の体験、経験により塵歌壺も景色が変わり、広くなった。
おかげで調度品を置ける範囲も広がった。
しかし、気温まではそう都合よく変わることはなく夏になると猛暑となっていた。
蛍は流れる汗を拭いながら、トンカチで釘を打っていく。
パイモンは数分前にダウンして草原に寝転がっていた。
「もう...パイモン手伝わないなら、この後のスイーツ食べに行く約束なしにするからね...」
「イヤだぞ...」
蛍は深いため息をつきながら、子供のように駄々を捏ねるパイモンを見つめる。だが手を動かさなれければ終わらない...。
渋々作業を続けていると...
「よお蛍なんだ苦戦してるな」
と聞き覚えのある声が...。
そこにやってきたのは、一斗だった。彼はニコニコとしながら近寄り、隣に座り込んで何も言わず手伝い始める。
「えっ。一斗悪いよ。」
「何言ってんだ。2人でやればはええだろ空飛ぶチビ助もバテてるみてぇだし、早く終わらせて涼みに行くぞ!」
と豪快に蛍の頭を撫でて、眩しいくらいに微笑む。キュッと蛍の胸が高鳴り、こくんっと頷いて作業を始める。
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「それにしても...ここもあちいなぁ」
と暫く作業をしていたが、一斗も汗をかき始めて
ボタボタと滝のように顎を伝っていた。
蛍は頬がリンゴのように赤くなっていて、少しだけ目が虚ろになっていた。一斗は危険を察知した..
先程から蛍は汗があまり流れていない気がした...
「蛍。」
「一斗...きゃあ...」
一斗は豪快に蛍を抱えあげると、日陰の方にズンズンっと大股で歩き始める。
「一斗下ろして..重いから!」
「はぁ?軽すぎて心配になるってぇの」
と一斗は構わず日陰に向かう。
ドンッと座って、自分の上着を地べたに敷きそこに蛍を横にさせた。蛍の首筋と頬を撫で体温を確かめる。かなり高くなっていて...
「おいチビ助氷と飲み水持ってこいあとこのモラ使っていいから、氷菓子買ってこい」
「わ、わかったぞ蛍しっかり休んどくんだぞぉ」
パイモンは急いで塵歌壺を出て頼まれ物を買いに行ってしまう。一斗は布を取り出して、水で濡らし蛍の頬や首筋に当てて体を冷やしていく。布が暖かくなったらまた濡らしての繰り返しをした...
「一斗...ごめんね。」
「なんの謝罪だ。ったく...キツイならちゃんと言えっての。蛍...1人で抱え込むなって。な」
と一斗らしい明るい笑顔でそう言われて、蛍はぽろぽろと自然と涙が出てしまう。いつの間にか蛍は、『 甘え』を忘れていたのだ。しっかりしないとみんなに迷惑かけてしまうと心の何処かで考えていた...。一斗はゆっくりと涙を拭ってやり、ポンポンっと頭を撫でていく。
「ねぇ...一斗。」
「んなんだ」
「一斗の手...冷たいから、頬っぺた撫でて」
「....ったく...仕方ねぇなぁ」
突然のお願いごとに戸惑う一斗だが、蛍の真っ赤な頬に手を這わせてゆっくりと撫でていく。
「気持ちぃ...」
蛍は一斗の手に擦り寄って、ふにゃんと普段は見せない蕩けた表情を見せる。
「っ....お前...元気になったら覚えとけよ...」
元気になったお話はまた別のお話...。