高校生入間銃兎と飯。「いらっしゃい」
がらがらと少し立て付けの悪い引き戸を開けると正反対な柔らかな声に迎えられる。そのまま空いている席に座ると安っぽい透明のコップに入った水を持って注文は何か問われた。メニューを見ることなく唐揚げ定食を注文すると「ふふ、ご飯は大盛りね」と嬉しそうに笑ったので少し心がじんわりと温かくなった。
毎週日曜、図書館帰りは必ずこの定食屋に来ている。家と図書館の間に位置している好立地である上になんと言ってもボリュームがあって安いのが良い。そして味もどことなく懐かしい気持ちになるのだ。世間一般でいう実家の味は俺の場合この店かもしれない。あとこの店が好きな理由として、この店を切り盛りしている夫婦の柔らかな雰囲気もある。帰る家はあるとはいえ、親戚をたらい回しにされ今の家に来た経緯もあり居心地が悪い。それに比べここは俺の名前すら知らないのに優しくしてくれる。そんな優しさが親からの愛情と酷似していて、心の拠り所となっていた。
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