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    yamaki_jyu

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    yamaki_jyu

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    フォロワーさんからリクエストいただいた「現パロおにショタほのぼの脹虎」書きました!
    モブ視点、兄本人は終盤まで登場しませんのでご注意ください

    #脹虎
    inflationTiger

    迷子じゃないもん!モデル脹相……最近化粧品ブランドのモデルに選ばれた、真っ赤なリップを宣伝中
    ショタ悠仁……脹相お兄ちゃん大好き! 今日は壊相お兄ちゃんたちとショッピングモールにお買い物に来た、自分が迷子になったと自覚していない迷子
    私……祓本の店舗特典を貰いにショッピングモールに足を運んだモブ、幸運に見舞われる







    とあるショッピングモールの片隅で、私はこらえきれずに小さな歓声を上げた。

    「祓本店舗予約限定ポスター付きDVD買えた~!!生きててよかったあ……」

    パッケージの中でコミカルな笑顔を浮かべる二人組・五条悟と夏油傑とは対照的に、ようやくお目当てを手に入れられた私は感動で泣きそうだ。いや、正直に言うと店舗から出てきた時嬉しさのあまり少し泣いた。
    国民的超人気漫才コンビ・祓ったれ本舗が今までの漫才を収録した初のBlu-ray/DVDを発売すると発表したのがついこの間。当然限定版の予約は即終了。キャンセル枠に滑り込めたのは奇跡以外の何物でもない。

    「今年の運全部使い果たしちゃった、なんて流石に大げさかなー…」

    そうは言っても何度もショッパーの中身を確認し、そのたびに顔がにやけるのは止められない。これじゃいけない、家に帰ったら即行で鑑賞会するって決めたじゃないか! ……でも最後にもう一回だけ祓本を拝んでから。浮かれすぎて、さっきからずっとこんな調子だ。文字通り夢にまで見た悟と傑のパッケージを見つめポツリと呟く。

    「はぁああぁ~、やっぱり顔がいいなあ……。カッコいい」
    「! お姉さんもちょうそうお兄ちゃんのことすきなの?」
    「えっ!?」

    だ、誰だ!? 慌てて周囲を見回せば、足元で小さな男の子がキラキラした目で私を見つめている。突然の出来事にフリーズする私を余所に、ジーンズに真っ赤なフーディー姿のその男の子はもちもちのほっぺを興奮で微かに染め、紅葉のように小さな手で私の持つパッケージを指差した。ぴょんぴょんとまだ小さな体がジャンプするたびに、特徴的な桃色と黒のツーブロックが柔らかく揺れている。背格好からして三歳くらいだろうか。

    「ここにっ、ちょうそうお兄ちゃんがっ、いるのっ!」
    「ほ、本当だ……」

    パッケージの裏面は収録内容を写真のように切り貼りしたデザインになっている。その中の一つに祓本の二人とゲスト数人のトーク番組のカットがあり、確かに件の「脹相お兄ちゃん」も小さく映っている。この子に言われるまで全く気付かなかった。
    脹相お兄ちゃんとは人気モデルの脹相のことだ。抜群のスタイルとどこか浮世離れした雰囲気を纏う個性派モデルで奇抜なファッションも難なく着こなしている。私もそれほどファッションに詳しい訳じゃないけど、脹相は海外のハイブランドの起用モデルとして街中で見かけたりもする。悟や傑とも歳が近くウマが合うのか、時々共演するうちに、いつの間にか脹相のプロフィールも覚えてしまっていた。祓本に負けず劣らずキャラが濃く、物凄いブラコンなので弟について語り出すと止まらない。そんなエピソードから付いた渾名が「脹相お兄ちゃん」だ。なるほど、この男の子は脹相のファンなのか。

    「良く見つけたね、お姉さん気付かなかった」
    「いちばんカッコいいからどこにいたってちゃーんと分かるんだ。ゆうじ、お兄ちゃんだいすきだもんっ!」
    「分かるな~、私も祓本大好きだから二人はすぐに見つけられる自信あるかも」
    「ゆうじもごじょーさんもげとーさんも面白くてすき! この前ゆうじにいっぱいおかしくれたんだよ」

    お菓子の下りはよく分からないが、きっとファンサービスの一環か何かだろう。こんな幼いファンまでいるなんて流石祓本だ。にぱっと花が咲いたような笑顔に胸がキュンとする。
    幼児を前に推しへの胸の高鳴りとはまた違うときめきを感じながら、私はそっとゆうじ君の目線と同じ高さまでしゃがみ込む。ゆうじ君が不思議そうにぱちぱち瞬きするたびに、くりくりした飴色の瞳が見えたり隠れたりと忙しない。

    「ゆうじ君は今日はどうやってお買い物に来たの? おうちの人たちは一緒かな?」
    「お兄ちゃんたちと来た! でもえそうお兄ちゃんたちはお買いものでどっか行っちゃった」
    「そっかあ、どこか行っちゃったかあ……」

    多分この子、迷子なんだろうなあ……。私は思わず頭を抱えた。幸いゆうじ君ははぐれた自覚はないようでニコニコと上機嫌だけど、今頃保護者は真っ青になっていることだろう。こういう時、どうすべきなんだろう……。インフォメーションに連絡? 迷子センターってどこ? 必死に知恵を絞る私の横で、ゆうじ君はなおも目を輝かせている。

    「ゆうじはここでちょうそうお兄ちゃんと待ってるからぜーんぜんさびしくないんだよ!」
    「? それってどういう……」

    意味なの、と続けるより先に、突然全く別の音声が私とゆうじ君の会話に割り込んできた。

    『目が覚めるように鮮烈な赤を、貴方にも』
    「ちょうそうお兄ちゃんだっ!」

    ダダダッとゆうじ君が一目散にとある店先のショーウィンドウに駆けていく。モニターに映るのは新発売の新色リップのCM、モデルに起用されているのはもちろん脹相だ。ゆうじ君が熱心に見上げる先で、脹相がそっとリップを唇にのせたその瞬間、黒一色だった背景が、脹相の身に着けるダークスーツが、モニターに映る全てが黒から赤に鮮やかに色を変えていく。そのなかで最も鮮やかな赤のリップをひいた脹相がカメラに向かい、最後にほんの僅かに笑みを浮かべて口を開く。
    『目が覚めるように鮮烈な赤を、貴方にも』
    そこで画面は暗転し今度は別のCMが流れ始める。あっという間の15秒。でも、私もゆうじ君もまだあの脹相の姿が真っ赤なリップと一緒に目に焼き付いたままだ。呆気に取られていたゆうじ君もようやく現実に戻ってきたらしい。パッとこちらに振り向き、一生懸命推しの脹相について拙い言葉で私に感動を伝えてくれる。

    「ちょうそうお兄ちゃんいたっ!赤いおようふくきてた!!」
    「スーツとっても似合ってたね~!お姉さんもCM見ててどきどきしちゃった……」

    興奮冷めやらぬ様子のゆうじくん同様、ファンではない私まで虜にしてしまうなんて脹相お兄ちゃん恐るべしだ。祓本の二人もCMには引っ張りだこだけど、もっと漫才コンビとして家庭向けでコミカルなものが多いから……。いや、悟も傑も顔がいいからこういう方面も絶対似合うしイケると思うけどさ! 
    それでもあの真っ赤なリップのCMに脹相を起用したのは私も大正解だと思う。ゆうじ君もあの鮮烈な脹相の姿をもう一度見たいのだろう。またあのCMが映らないかと一向にモニターの前から動こうとしない。その後ろ姿は小さくとも立派な脹相お兄ちゃんファンだ。
    しかし、私にもいつまでもこうしてゆうじ君の可愛らしい推し活を見守っていられない事情がある。家に帰れば祓本のDVD鑑賞会の予定が控えているし、ゆうじ君とはぐれた保護者の人たちもきっと心配している筈だ。

    「ゆうじ君、そろそろお家の人たちのところに戻らない?」
    「んー…ゆうじ、もっかいちょうそうお兄ちゃん見るぅ……」

    イヤイヤとフラれてしまう。でもそれを見越して私はそっとゆうじ君の前に自分の携帯を差し出した。画面に映るのは勿論、あの新作リップのCMだ。

    「ちょうそうお兄ちゃんだっ!」
    「この脹相お兄ちゃんのCM見ながらお家の人のところまで行く人―?」
    「はーいっ!」

    先程のグズりはどこへやら、ゆうじ君は紅葉のように小さな手を勢いよく振り上げた。そのまま動画の再生ボタンを押してゆっくりと歩き出せば「お兄ちゃんだっ!」と嬉しそうに小さな足音がトコトコと私のあとを追ってくる。これじゃまるでハーメルンの笛吹だ。ゆうじ君のいたいけな気持ちを利用するようでちょっぴり申し訳ないけど、親御さんたちと再会させるためである。どうにか自分を納得させてゆっくりとのんびりと、出会ったばかりの同担の幼児を連れ歩く。
    時折後ろからパチパチと脹相への拍手が聞こえてきたり、歓声が上がったりする。どうやら
    推しを前にしたファンの反応に年齢は関係ないみたいだ。くすくすと笑う私と楽しそうにその後ろを付いて歩くゆうじ君。そんな私たちの様子を、ショッパーから覗くDVDパッケージの祓本二人も面白そうに見守ってくれている。
    勿論、本当はそんな訳ないって分かっている。けれど何故だか、そんな気がした。

    *** *** ***

    「悠仁ィィィイ——!! 怪我はしてない!? 急に姿が見えなくなったから私も血塗も心配したんだよ……!」
    「あっ! えそうお兄ちゃん!」
    「えっ、お兄さん!?」

    お父さんじゃないんだ!? 
    迷子センターでゆうじ君と一緒にご家族を待っていた私の前に現れたのは、筋骨隆々の男性だった。ガタイがよくて(身長2メートルはありそうだ)、ピアスにモヒカンのような髪型。近寄りがたい外見なのに、今はその大きな体を屈めて心配そうにゆうじ君の体をあちこちをぺたぺた確認している。どんなにいかつくても、その姿は幼い弟を心配するお兄さんそのものだ。
    でも迷子の自覚がない悠仁くんは、くふくふ笑って身を捩るばかり。きっと大好きなお兄さんに遊んでもらっているつもりなのだろう。

    「えそうお兄ちゃんくすぐっちゃヤダッ! んふふっ、はは!」
    「こら暴れない。全く、一人で迷子になったんじゃと心配したんだよ」
    「ゆうじ一人じゃないもん!ちょうそうお兄ちゃんと待ってたよ」
    「兄さんと? でも兄さんは今日は仕事のはずだけど……」
    「嘘ついてないもん! ほら、ちょうそうお兄ちゃんいる!」

    見て見て、とゆうじ君が掲げたのは私のスマホだ。お兄さんを待つ間、ゆうじ君は飽きもせずずっとあのCMを見ていたから、画面には真っ赤なスーツを着こなす脹相がまだこちらに向かって微笑んでいる。何度も見て飽きないのか、なんて疑問は推しの前では無意味だ。

    「ちょうそうお兄ちゃんとお姉さんといっしょにちゃーんと待ってたもん!」
    「どうやら弟がお世話になったようですね。私は悠仁の兄の壊相と申します。貴女には何と御礼を言っていいやら」
    「い、いえ、そんな大したことじゃないですし本当にお構いなく……!」
    「貴女が末の弟を見つけてくださり本当に感謝しています。もし悠仁の身に何かあれば兄弟に顔向けできないところでしたから、是非御礼を受け取っていただきたいのですが……。やはり難しいでしょうか?」

    にこりと紳士的に微笑む壊相さんに意図せず心臓がどきりと跳ねる。……どうしよう、外見とは裏腹に物腰柔らかな態度に既に絆されてしまいそうだ。ここまで言われて固辞したら申し訳ないかな、でも御礼欲しさに悠仁くんを保護した訳じゃないしな……。どうやって角が立たないようにお断りするか悩んでいると、ふと遠くから大声で誰かを呼ぶ声が響いてきた。……ん? この声、どこか今日散々聞いた気が……。

    「悠仁ィィィイ——!! 迷子になったと聞いたが無事か!? 怪我はないか!? 壊相から連絡があった時は、お兄ちゃんは、もう気が気じゃなくて……!」
    「ちょうそうお兄ちゃん!」「兄さん!」
    「えっ、お兄さん!?」

    もしかしてファンからの愛称とかじゃなくて、悠仁君と脹相ってマジモンのご兄弟!?
    迷子センターに駆け込んで来た人物は、あの脹相お兄ちゃんだった。
    高くすっと通る鼻筋の個性的な痣、特徴的な髪型のツインテ―ル、今日だけで何度も耳にした低く耳どおりの良い声。おまけにがっしりとしているのにとんでもなく細い腰回りとくれば、間違いない。
    あまりの展開についていけない私を余所に、脹相さんはすぐに悠仁君を見つけガバッと力いっぱいに抱き締める。その勢いたるや、さながら恋愛映画のクライマックスシーンだ。ぎゅうっと力いっぱい抱き締められた悠仁くんも推し、もといお兄ちゃんに会えて嬉しそうに抱き上げられたまま足をバタつかせている。

    「悠仁が迷子になったと聞いて、お兄ちゃん仕事場を飛び出してきたんだ。突然だからビックリしたか、悠仁?」
    「だーかーらっ!ゆうじはまいごになってないもんっ!」
    「そうなのか? でもなんともないならお兄ちゃんも一安心だ」

    むん、とむくれる悠仁君を脹相が宥めるようによすよすと撫でる。そうすればご機嫌斜めだった悠仁君もたちまちご機嫌に早変わりだ。そのくらい脹相お兄ちゃんが大好きなんだろう。推しから神ファンサをもらったと思えば納得だ。

    「兄さん、こちらの女性が悠仁を保護してくれていたんです。丁度いま、何か御礼ができないかとお話してるところだったんです」
    「弟が世話になったそうで助かった。俺からも是非礼がしたいが何か希望はあるか?」
    「い、いえ、御手を煩わせるほどじゃありませんので……」

    いくら劇場に通い詰めて祓本を間近で見た事があっても、本物の芸能人と面と向かって話すなんて恐れ多すぎる……! なにせこっちは吹けば飛ぶような一般人である。
    ところが、だ。私の緊張などどこ吹く風と言わんばかりに、舌ったらずな声が辺りに響く。

    「お兄ちゃん! お姉さん、ごじょーさんとげとーさんのファンなんだって、ゆうじおしえてもらったよ」
    「流石俺の弟、悠仁は物知りだな」

    ! 同担だと思って出会い頭にペラペラ推しについて語ったのが完全に仇になってる! 冷や汗を流す私をよそに、悠仁君はお兄さんに褒められ得意げに私が祓本のファンなこと、今日はそのDVDを買って嬉しいこと、新作リップCMを悠仁君と一緒に見たことなどを語り始める。直接祓本に伝わった訳じゃないけど、お知り合いの耳に入るだけで恥ずかしさで死ねる……! 赤くなったり青くなったりする私の前で、一生懸命な悠仁くんの語りに、脹相さんも優しく相槌を打っている。

    「それでね、真っ赤なおようふくのお兄ちゃんもすごくカッコ良かったんだよ! お姉さんもそう言ってた! ごじょーさんとげとーさんもいいけどちょうそうお兄ちゃんもステキだねって!」
    「悠仁にもお姉さんにもそう言ってもらえるなんて光栄だ。教えてくれてありがとな、悠仁」

    いつもの無表情はどこへやら、笑顔の悠仁君につられるように脹相さんも嬉しそうに笑っている。CMのような微笑みとは違う、心から愛している人へ向ける血が通った笑顔だ。沢山ラブコールを貰った脹相さんが、そっと悠仁君のまろい額にちゅっと可愛らしいリップ音付きのキスをお返しする。それはまるで、可愛らしく誰よりも熱心なファンへの最大級のお返しのようだった。当然、推しから特大のファンサービスを貰った悠仁君は大変だ。
    「わあっ!」と額を両手で抑え脹相さんの腕の中でジタバタと暴れている。けれど嬉しさと恥ずかしさに任せて暴れても、脹相さんがしっかりと悠仁君を抱き上げて離さないから、どうやら最後には悠仁君も観念したみたいだ。ふにゃふにゃと顔を緩ませ、最後は大好きな脹相お兄ちゃんに甘えるようにむぎゅーっと首元にぴったり抱き着いてしまった。そんな微笑ましいやり取りのさなか、また新たな人物が兄弟団欒の輪の中に入ってくる。

    「兄者ァ、頼まれてたもん貰って来たぞぉ」
    「けちず兄ちゃん!」「「血塗!」」

    あっ、この人も悠仁君のお兄さんなんだ!?
    驚く私の前で血塗さんが取り出したのは一枚の化粧品のフライヤーだった。そこに写っているのは当然

    「赤いちょうそうお兄ちゃんだ!」

    嬉しそうに声を上げた悠仁君が見守るなか、脹相さんがあの新作リップのフライヤーにペンを走らせる。サインして悠仁君にプレゼントかな、なんて微笑ましく眺めているとそのフライヤーがずいっと自分の前に差し出された。そこには、いつの間にかあの真っ赤なリップまで添えられている。リップの外箱にもさりげなくサインを済ませてあるのだから、きっとこれが一流の人間なんだと思わず感心してしまった。

    「弟を助けてくれた俺たち全員からの御礼だ。遠慮せず受け取ってほしい」
    「あ、ありがとうございます……」
    「それから悠仁が個別に礼がしたいらしくてな。もしよければ、これも」
    「メモ用紙?」
    「それはね、ゆうじがあとでお姉さんにお礼するためなんだ! おてがみ書くには、じゅうしょとお名前がひつようだってゆうじ知ってるんだ」

    手渡されたのはまっさらなメモに首を傾げる私に、すかさず悠仁君が助け舟を出してくれた。無理にはいいからなんて脹相さんは言うけれど、こんなに可愛くお願いされては断れなかった。自分でも不用心かなと思うけど、これもきっと何かの縁だろう。悪いようにはされないだろうし、と楽観的に考えて宛名と送付先を書き付けたメモを悠仁君に手渡した。

    「それじゃ悠仁君ばいばい! もう迷子になっちゃダメだからね?」
    「悠仁っ、迷子じゃないもん!!」

    迷子センターの一角に響いた自信満々の宣言に辺りはドッと笑いに包まれた。

    *** *** ***

    あの偶然の出会いから数日、今日も今日とて私は祓本の推し活に忙しい。
    迷子だった脹相の弟を保護した!なんてSNSに書けないし、騒ぎ立てるつもりもないが……。

    「あ~あ、次の祓本のワンマンライブ行きたかったなあ~……」

    スマホに映る「落選」通知にがっくりと肩が落ちる。こういう時、例えば私にも伝手があったら関係者席とかに行けるのかな、なんてふと考える。最も、そんな伝手はこの世のどこにもないんだけどね……。激戦を勝ち抜き当選した子を祝う気にもなれず、スマホを伏せる。
    祓本で負った傷は祓本でしか癒せない。よーし今日も祓本ライブDVD見ちゃうぞ、と再生ボタンに手を伸ばす、その時だった。ピンポーンと玄関のベルが鳴る。

    「書留? 一体何だ……って、これ……!?」

    と封筒を覗き込んだ瞬間、五条悟と夏油傑と目が合ってフリーズする。えっ、ちょ、ちょっと待って……!? 慌てて封筒を逆さにして中身を改める。
    そこには私が夢にまで見た祓本のライブチケットと手紙が入っていた。手紙には元気いっぱいの字でこう書かれている。
    『おねえさんへ  このまえは ありがとうございました とっても たのしかったです  ゆうじ』
    数日前の出来事を思い出して思わず頬が緩んでしまう。大きくのびのびとした字をなぞっていると、下の方に脹相さんからの言葉も一緒に添えられていた。曰く、弟を助けてくれて感謝していること、祓本が好きだと伺ったので御礼として彼らのライブチケットを贈ること、などなど。手紙を読んでいるうちに事態を理解した私はこらえきれず歓声を上げた。

    「やった~~~!!!! 祓本のライブに行ける~~~!!!」

    感動で泣きそうだ。いや、正直に言うと手紙を読み進めている時嬉しさのあまり少し泣いた。そんな私を見て、DVDのパッケージに映った五条と夏油が今日も可笑しそうに笑っていた。

    なお祓本のライブに行けると分かり驚喜した私は、まさか当日、ご用意された席が最前ど真ん中であると知りまた感涙するとはこの時知る由もなかった。
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