こわがりやのためのおまじない どれほど縮こめても小山のように陰を作る身体を困り努めて気配を殺しながら、ヨンスはきつく目を閉じた。星影だけのひかる夜中に目蓋の裏側を赤くするものはない。かなた叫喚を聞く耳を両の手で塞いでしまえば、なまあたたかな暗闇だけが五感を支配する。そうして眠りつくのに似た呼吸にじっと身をゆだねて、すると、ぼやけた闇の鼻先に熱い汗が匂いした。一つそれを覚えた、途端にヨンスの鼻腔を、饐えた脂、こびりついた鉄錆に灰と炭、湿った土、それから、もう遠く失われた煙草の残り香が、鮮やかな輪郭をともない立ちのぼる。手のひらには絶えなく血潮が、耳の奥には轟く鼓動がいや聞こえ、いつか全身で他人のそれを感じていたことを、その安堵をヨンスは思った。そしていま力強く鳴り響くそれらが、自らの身の内にいまだ大切にあることを。
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