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    NaO40352687

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    忘羨ワンドロワンライ
    お題: 『巻き戻る』『反省文』
    所要時間:1時間55分
    注意事項: 道侶後

    #忘羨ワンドロワンライ
    wandolowanRai
    #陳情令
    theUntamed
    #小羨羨は十歳
    littleEnvyIsTenYearsOld
    #冬を前にして虫干し
    dryingInsectsBeforeWinter

    忘羨ワンドロワンライ【巻き戻る】【反省文】 雲深不知処の禁書室の虫干しには工夫が必要である。そもそも人目に触れないように禁書室に収納されているのだ、虫干しと相性が良いはずがない。作業は高位の弟子たちだけで、虫干しの場所には容易に入り込めないように結界を張り蔵書閣付近を人払いして行われる。
     そんな厳重な作業の中、思いもかけない出来事が起きた。見たことがない符が挟み込まれた、目録にない書が見つかったのだ。すぐに藍啓仁によって吟味され、書は百年ほど前のもので、内容は雲深不知処に持ち込まれた相談事を記録したものと分かった。その中の相談の一つに、今では世家としては絶えてしまった近隣の小世家から持ち込まれた『不明の符』の記録があり、おそらくこれが挟み込まれていた符のことだろうと思われた。小世家から雲深不知処に符が届けられた理由は、その符に透かしの雲紋が浮かんでおり、符の裏に何やら謝罪めいた文言が書かれていたためだったが、そこで藍啓仁は頭を抱えた。透かしの紙が使用されるようになったのは藍啓仁がまだ幼い頃からであり、どうしても書の記載とは年代が合わないのだ。
    「魏嬰を呼んでこい」
     藍啓仁が『不明の符』の解読のために魏無羨を呼びつけようとしていたその時、魏無羨はちょうど拗ねてしまった道侶からどうやって逃げ出そうかと考えあぐねていた。
     
     原因は昼餉の時間まで遡る。
     朝から外弟子たちを引き連れて裏山で栗を拾ってきた魏無羨は、厨に頼み込んで栗入りの粽を作ってもらった。それを藍忘機と二人して藍曦臣に届けに行くと、ちょうど藍曦臣は外弟子の一人から結丹の報告を受けていた。結丹を迎えた未だ幼さの残る外弟子の嬉しそうな様子に、側で見ていた魏無羨の心も沸き立つ。思いもかけず藍忘機と魏無羨にまで祝いの言葉をもらい、外弟子は嬉しくてたまらない様子で帰って行った。
     どこの世家でもそうだが、結丹するとまずは宗主から仙剣が贈られる。だが藍氏は剣だけではない。藍氏では入門で抹額を、結丹で仙剣と初めての髪冠を戴き、修為が上がって夜狩に参加できるようになると髪冠の格を上げるのが慣わしである。良かっためでたい――と弟子を褒めていた魏無羨に、藍曦臣は髪冠の儀に参加する事を持ちかけた。魏無羨は藍忘機の道侶ではあっても藍氏の弟子ではないため参列を控えていたのだが、今の外弟子達は内弟子以上に魏無羨から多くのことを学んでいるため、師として参列してはどうかというのである。満面の笑みで『藍先生に相談してみる』と答えた魏無羨は、何の気なしに藍曦臣に問いかけた。結丹して剣を戴くと雲夢では剣の型が全て入った剣舞を披露するのだが、雲深不知処ではそういうことはしないのか――と。
     ここで話は横道に逸れた。藍曦臣は、雲夢で行われた清談会でかつて江晩吟と魏無羨が剣舞を披露したことを覚えていたのだ。
    「では、あれはちょうど結丹した年だったのだろうか、清談会の前夜に行われた宴の席で、江宗主との双子舞を見せてもらった記憶があるのだが」
     魏無羨は首を傾げる。
    「ああ、確か妙に清談会の巡り合わせが良くて。結丹した年と大師兄になった年にちょうど清談会をやる羽目になっていて、虞夫人が披露目を兼ねて余興に剣舞を入れたんだよ。剣舞を入れておけば、舞女を無理にたくさん呼ばなくても良いだろう? 虞夫人は舞女たちを呼ぶのがあんまり好きじゃなかったから」
     金家は毎夜豪華な宴を開催して何人もの舞女を呼ぶが、江家では清談会前夜の宴にだけ数人の舞女を呼んだ。いかに仙師と言っても現金なもので、前夜の宴の余興次第で清談会の参加世家の数が変わったりもするのだ。清談会は世家間の交流を促す意味合いも持つため、毎回、虞夫人が苦心していた記憶がある。
    「あれは私が初めて叔父に伴われて参加した清談会だったから、よく覚えているよ。見目の良い二人の少年が見事な剣さばきを見せていた。一人は見るからに江家の少年という衣装で、もう一人の黒衣の――」
    「それが俺だな。あれが初めて着た黒衣だ。魏家は黒でなくてはならぬと言って虞夫人が立派なものを誂えてくれたんだ」
     記憶の中の舞を思い出したのか楽しげに微笑んで魏無羨の言葉を聞いていた藍曦臣の顔が、魏無羨の背後の藍忘機を見て次第に微妙な表情に変わっていく。
    「魏嬰、私は――」
     私は君の剣舞を一度も見ていない――。
     地を這うような藍忘機の声に魏無羨は顔を引き攣らせた。そして『私だけ魏嬰の剣舞を見ていないなんて』と顔に書いてある藍忘機を前に、『失敗した。言わなければ良かった』と藍曦臣と共に二人して頭を抱える。
     そこに飛び込んできたのが藍啓仁からの呪符解読の依頼である。それはもう飛びつくように、魏無羨は手本のような返事をして蔵書閣へと駆け出した。
     
     
     蔵書閣で事の次第の説明を受けた魏無羨は、手の中の符を眺める。紙には透かしの雲紋――これは雲深不知処で符を書く時に使用する特別な紙である。呪符は描く紙を選ばないのが普通であり、描き方さえ間違えなければその辺の落ち葉に描いても符になるのだが、雲深不知処で特別な紙が使われるようになったのには理由がある。ある時『効力の確かな雲深不知処の呪符である』と嘘の謳い文句で高値で偽呪符が売られたのである。そのため藍啓仁がまだ幼い頃から紙に透かしが入れられるようになったと聞いている。
     魏無羨も見た事のない符であることは確かだ。符の要素は複雑で、いくつかの要素が重なり合って絡み合っていることが分かる。ただ、細部を分解していけば、符の効力を推理することは出来そうだ。
    「読めそうか?」
    「たぶん」
     説明のために残っていた藍啓仁は、魏無羨が符に没頭し始めたのを見て、魏無羨一人を残して虫干しの現場に戻っていく。
     魏無羨は符をひっくり返して裏を眺めた。謝罪文のようなものが書かれているようだとは聞いたのだが、墨は薄く消えかけており、文章は判別できない。読めそうな字だけ追っていくと、何やら懲罰の時に書かされる反省文のように読めなくもない。
    「呪符の裏に反省文って――まあ、確かに俺が教える法術の授業では、うまく描けてない符の裏にはどこが失敗なのか分かるように反省文を書かせるけど、なんだかそれみたいで身につまされるな」
     つまりは、この符は正式に『呪符』として使われるためのものではなくて、新しい符を開発してみて裏にその問題点を書いたような、そういう試作品に近いものなのだろう。そう考えれば見たことがない符であることも納得がいく。
     魏無羨は小さくため息を吐くと、数枚の新しい紙を広げ、要素に分けて描きだしていく。全体を呪符として成立させるための外郭、時間に関係していそうな上部と下部の要素、そして――
    『わん!』
     魏無羨はびくりと体を震わせた。今のは犬の鳴き声ではなかったか。
    『わん! わん!』
    「うわああ! 藍湛! 藍湛! 藍湛!」
     魏無羨は手にしていた筆を放り投げ、符を広げた卓から飛び退く。
    『わん! わんわん!』
     卓の上の呪符が、わんわんキャンキャンと、明らかに犬の鳴き声を上げて、ぱたりぱたりと翻っている。
    「なななななんだよ! なんでよりによってヤツの鳴き声なんだよ! 別に鳴くなら、猫でも鼠でも鶏でもいいじゃないか!」
    「魏嬰!」
     蔵書閣に飛び込んできた藍忘機に魏無羨は縋りつき、卓の上の呪符を指差す。
    「符が! あの符が!」
     藍忘機が卓の上の符を取り上げたその瞬間、符は綺麗な蒼い炎を上げた。
    「藍湛!?」
     光る符を手にしたまま、藍忘機はぱたりと倒れる。
    「藍湛!」
     藍忘機の様子から符が発動してしまったのだと覚るや、魏無羨は蔵書閣を飛び出し、虫干しの現場に戻ったはずの藍啓仁を呼びに走った。
     
     
    『若い』と思ったと言ったら叔父は失礼だと怒るだろうか――と藍忘機は首を傾げた。明らかに若い叔父と、明らかに未だ少年に近いような兄の姿に藍忘機は困惑する。周囲の人々の様子には困惑を隠せないが、いま居る場所には見覚えがある。蓮花塢だ。ただし、過去の蓮花塢である。蓮花塢の広間の中央で和かに談笑しているのは江晩吟ではなく、江楓眠だ。
     通りがかった仙師に会釈されて、なるほど自分は実体として相手に見えているようだ――と藍忘機は理解する。この異様な状況が符によって起きただろう事は理解できた。そして、おそらくこれは蓮花塢で清談会が行われているという事であり、兄の年齢から察するに――。
     藍忘機の目は、広間の片隅で大人たちの様子を窺っている少年二人の姿を捉える。
     つまりこれは、兄が話していた『初めて叔父に伴われて参加した清談会』であり『江宗主との双子舞を見せてもらった』清談会である。呪符の効果が何刻保つのか分からないが、少なくとも結丹したての、初めて黒衣を纏ったという十歳の道侶の姿を目にする機会を得た事だけは確かだった。
     
     幼い魏無羨は、想像していたよりずっと華奢で目ばかり大きく、今でも好んで着る束袖の黒衣を纏い、舞を披露するためか赤い髪紐以外に数本の赤い飾り紐を細かく髪に編み込んでいた。体が小さいため細身の随便ですら大きく見える。随便にも剣舞のために赤い飾り紐が付けられていた。隣にいる江晩吟は魏無羨より体が大きく、こちらは全身を江氏らしい紫で装っている。日頃から常に一緒に居るからだろうか、動き方も振る舞いも似ていて、まるで双子のようだ。
     広間で江楓眠は息子たちが結丹した事を嬉しそうに語っている。そこここで杯を差し上げて祝いの言葉がかけられるのに、江楓眠は笑顔で応える。そして、虞紫鳶の側近が琵琶を掻き鳴らすと、顔を見合わせた二人の少年は小さく頷き合って広間の中央に立った。
    「江氏では、節目には先祖に剣舞を奉納する慣いがあり、この子達も結丹後に舞いました。今宵は二人の披露目を兼ねて、皆様の世家の武功と繁栄を祈って舞を披露します。我が息子と、私のかつての腹心の息子です」
     江楓眠の言葉に、漣のように小さな囁きが湧く。その多くは『ではあの黒衣はやはり魏長沢の』という言葉であり、『引き取って息子のように育てているという話は本当だったのか』という囁きだ。
     ビンと琵琶が掻き鳴らされたのに合わせて、スラリと剣が抜かれる。細身の随便と、仙師らしい輝きを放つ三毒は、ピタリと胸の前に真っ直ぐに差し出された。
     同じように剣を振り、同じように突いているはずだが、やはり個性は出る。特に同じくらいの背丈で同じ型を舞うと、その違いは顕著だ。江晩吟の突きは力強く、剣の一振は強く重たげだ。江氏にしては珍しく速さより重さを感じさせるのは、三毒そのものがどちらかというと重い剣だからだろう。反して魏無羨の突きは鋭く微塵のズレもない正確さで、一振はしなやかで速い。これは随便自体が切れ味と突きに特化した細身の剣であることも大きい。どちらも未だ幼いと言える歳であることを考えると、さすがは江氏の剣技というべきだろう。そもそもこの歳で結丹することも稀な事なのだ。
     ビンと琵琶の音色が変わると、二人は向き合い、攻防を舞い始める。魏無羨は重い三毒の剣撃を受け流し、身を翻してポンと蜻蛉を切ると、地に足を着けた途端に鋭い突きを出す。江晩吟はそれを下から跳ね上げて躱す。舞というにはあまりに激しく速いその攻防に、数人の息を呑む音が聞こえる。突きにも躱す動きにも、幼さや拙さは微塵も感じさせない。これを『剣舞』と言ってのけることができるのは、型と同時に実践を重視し、実力主義を徹底する江氏の他にはないだろう。江氏では、型を極めてもそれを実践で活用できなくては意味がないのだ。先ほどの型の気配を残しながらも、攻防はその場で臨機応変に入れ替わる。既に舞というよりは試合の様相を呈し始めた剣技は、時折火花のような剣光を発し始めた。
    「この幼さでこれは」
     見事というより他あるまい――小さく呟かれた叔父の呟きを聞いて、藍忘機はひっそりと微笑む。
    「そこまで」
     ビンと琵琶が鳴り、ピタリと二人の剣が止まる。魏無羨の随便は江晩吟の喉元を、江晩吟の三毒は魏無羨の頭上を捉え、実践であれば相討ちに成りかねない。そんなギリギリの攻防でありながら、本人たちはまるで悪戯が成功したかのようにキラキラと笑っている。
     剣を納めた二人に惜しみない拍手が贈られると、二人呼吸をそろえて綺麗な礼をする。その時、ふと魏無羨の視線が姑蘇藍氏の白い衣を捉えた。
     魏無羨はキョトンと大きな目を見開くと、小さく首を傾げる。その大きな目は藍忘機を捉え、何度か瞬くと、ふわりと花のように笑った。
     この笑い方は、いま、両手の中に居る時の道侶の笑い方だ――そう藍忘機が思い至った途端、スッと背後から何かに抱きすくめられるように世界は消え、ゆっくりとまずは音が、そして光が戻ってきた。
     
    「藍湛! 戻ったか!」
     覗き込む魏無羨の背後に、苦虫を噛み潰したような藍啓仁の顔を見つけて、藍忘機はゆっくりと起き上がると、静かに礼をする。
    「ご心配をおかけしました。どうやら符の効果で過去視をしたようです」
    「過去視」
    「おそらく」
     藍忘機が符によって見た光景を話すと、藍啓仁はため息を吐く。
    「確かに、事実としては合っておる。しかし符で自由気ままに過去を見せるのは至難の業だ。普通は目的となる場所も時間も指定されていてようやく成功するかどうかというものだ。しかも、相手に実体として捉えられていた――という部分が解せぬ」
    「やはりその部分が特殊な符――ということでしょう」
     藍忘機の手の中の符は、発動と同時に燃え、既に残っていない。
    「魏嬰、思い出せる限り思い出して符を復元し、裏に藍忘機に起きた事実を書き留めよ。きちんと細かく検証すべきだ」
    「はい、藍先生」
     魏無羨は再び卓に向かい、記憶の中の符を復元していく。
    「でも、あの『ヤツ』の鳴き声はなんだったんだ? まさか符の要素に『ヤツが鳴き出す』部分が含まれてるのか? なんで『ヤツ』なんだ? 鶏でも、驢馬でもいいから、別の鳴き声にしとけよ」
     ブツブツと文句を言いながら符に向かっている魏無羨を眺めて、藍忘機は幼い姿を思い出す。確かに藍忘機の姿を捉えて、藍忘機と分かった上で幼い魏無羨は笑った。
    「良い剣舞だった」
     満足げな藍忘機の声に、魏無羨が吹き出す。
    「まさか剣舞を見てもらえるとはなぁ。結丹したてでも、なかなかのものだったろう?」
    「うん」
     魏無羨は符を裏返し、発動して起きた出来事を簡単に書き、いくつかの疑問点と反省点を列挙した。
     
     
    「魏無羨!」
     翌日、雲深不知処には藍啓仁の声が轟いた。
    「符と書を何処に持ち出した! 持ち出しは不可と言っておいたろう!」
     魏無羨はキョトンと目を丸くし、禁書室に向かう壁を指差す。
    「藍先生、昨日禁書室に一緒に入れに行ったじゃないか。蔵書閣には今来たばかりだからさすがに持ち出せないよ。そもそも、起きたばっかりで大慌てで来たんだよ?」
     藍啓仁は誤解を謝るべきか寝坊を叱るべきか逡巡する。
    「禁書室に自由に入れるのは、藍先生と藍宗主と藍湛と俺だけど、藍宗主はこっちには来てないだろうし、藍湛は朝早くから仙督の仕事で出かけてるし。そもそも符を試したいんだったら、書まで持ち出す必要ないだろう?」
     一理ある――と藍啓仁は頷き、ある可能性に思い至って、まじまじと魏無羨の顔を見つめた。
    「魏嬰、まさかとは思うが――」
    「藍先生、いま、俺もその可能性に思い至ったんだよ。そもそも、あの符自体が時間を遡る要素があったしな。そう考えると、透かしの雲紋も裏の反省文も、確かに納得できるんだよ」
     あの書は、たぶん、如何なる手段を使ってか百年の時を飛び越えて過去に向かったのだ。二重に存在してしまうため書は消え去り、『不明の符』は小世家の手に渡る。そして相談事として雲深不知処に持ち込まれて、禁書室の片隅で時を過ごし、とある虫干しの日に見つけ出されるのだ。
    「藍先生、結局あの符は誰が最初に描いたことになるんだ?」
    「儂に訊くな、馬鹿者」
     二人は同時に禁書室の隠された扉を見つめ、どちらからともなく深いため息を吐いた。
     どこよりも清潔で清廉な雲深不知処だが、長年の霊気に浸された場所には常に怪は付き物――ということだろう。
    「禁書室にもそろそろ祓いの儀式が必要だな」
     藍啓仁はため息を吐きながら呟くと、さてその時間と人手をどう捻出しようかと、頭を悩ませ始めた。
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    NaO40352687

    DONE忘羨ワンドロワンライ
    お題: 『仙薬』
    所要時間:58分
    注意事項: 道侶後
    忘羨ワンドロワンライ【仙薬】「止血するには、まずは押さえるってことは学んだよな? 傷口が汚れているなら洗う。毒があれば搾り出して、毒の全身への侵食を進めないように必要以上に体を動かさないこと。刺し傷で絞り出すことが難しい場合は、切開して絞り出すか、吸い出す。――では、今日はその次、丹薬についてだ」
     魏無羨はポンと丸めた教本で自らの肩を叩く。
     今、魏無羨の前に並んでいるのは、これから夜狩に参加を許される予定の若い門弟たちだ。彼らは実戦の前に薬剤の講義を受ける。詳しい内容は薬師が教えるが、初歩の初歩、最初の授業を担うのは夜狩を指揮する高位の門弟と決まっている。今日は魏無羨にその役目が回って来た。
    「夜狩の際には、全員に丹薬袋と止血粉が支給される。もちろん、自前で中の薬を増やしてもいいが、丹薬袋に最初から入っているのは三種類だ。霊気が尽きかけた時のための補気丸、血を流しすぎた時の補血丸、そして霊気をうまく制御できなくなった時のための理気丸だ。理気丸を服用するときは、霊気の消耗が激しくなるので補気丸も一緒に服用することが望ましいが、混迷しているときは補気丸ではなく直接霊気を送る方が安全だ。霊気には相性があるので、日頃から気を付けておくこと。年齢、顔立ち、背格好、血統、似ているもの同士の方が相性はいい」
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    NaO40352687

    DONE忘羨ワンドロワンライ
    お題: 『神頼み』
    所要時間:1時間45分
    注意事項: 空白の16年中
    忘羨ワンドロワンライ【神頼み】 藍景儀は十一を過ぎてしばらくして結丹した。幼い頃から同室の藍思追が同期で一番早く結丹して以来、絶対に自分も結丹するのだと心に決めて、毎日苦手な早起きを頑張り、得意ではない整理整頓も礼法の授業も励んだ。その甲斐あってか思追に遅れること二か月で結丹し、同期の中では二人だけが、今日からの遠出の勤めに参加する。これは結丹した門弟が正式に夜狩に参加できるようになるまでの期間に行われる、夜狩の準備段階だ。
     幼い時から雲深不知処で寄宿生活をする門弟達は、あまり世間慣れしていない。特に藍思追と藍景儀は共に実家が雲深不知処の中にある内弟子で、雲深不知処からほど近い彩衣鎮にすら、年に数回、兄弟子に連れられて出かけたことがある程度だ。夜狩をするとなれば、街で休むなら宿を自分たちで取り、街がないなら夜営を自分たちで行わなければならない。もちろん、食事の準備も自分たちで行うことになるし、夜営に適した場所を選び、様々な采配を行うのも自分たちだ。夜狩では常に列をなして行動できるわけではない。最悪、その場で散開して帰還する羽目になったとしたら、一人で安全を確保しながら雲深不知処に向かわなくてはならない。そのためには地理に慣れ、人に慣れておかなくてはならないのだ。こうした夜狩に必要な知識を遠出の勤めを繰り返すことで習得し、剣技や邪祟の知識などを習得してはじめて、姑蘇藍氏の仙師として夜狩の列に連なることができるようになる。
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