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    リンネ

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    リンネ

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    #忘羨ワンドロワンライ
    お題「道案内」

    #忘羨ワンドロワンライ
    wandolowanRai

    夜気の迫る音 そこは暗く、冷たい場所だった。
     耳の奥で金属音が鳴り続けるような無音、或いは本当に、鳴っているのかもしれない。
     痛い、と思った。
     藍忘機は耳を塞ぎ、その無音の痛みから逃れた。
     とにかくここがどこなのか、どういった場所なのかを把握する必要がある。
     現実味のないその暗闇から夢だとも思ったが、肉体の感覚は現実だと訴える。
     いつここに迷い込み、どれくらいここにいるのか。
     何かを、何か大切なものを探していたはずだ。

    「魏嬰」

     大切なものなど、わかり切っている。藍忘機にとって最も大切だと言えるのは彼ひとりに他ならない。もちろん、彼以外がどうでもいいと言う訳ではないけれど、もし彼か彼以外の全てかを選べと言われたら迷わず彼を選ぶだろう。
     だから、自分が探しているのはおそらく彼だ。そう結論付けて藍忘機は歩き出す。どこへ向かうでもない。当てずっぽうに、彼の元へ。
     いっそう闇が深くなり、気温も下がったように感じる。吐く息は白いのだろうがそれも見えはしない。
     ただ、それがむしろ彼に近付いている気がして足を早めた。

    「……こんなところで、何をしている」

     闇を裂くように聞こえた声。藍忘機にしては動揺したように大きく振り向いた。果たしてそこに、探し求めた彼の姿はあった。
    「ははは。含光君もそんな顔をするんだな。どうした?迷子ちゃんか?不安そうな顔をして」
    「……うん」
     短く答える。
     迷子、と言うのは間違ってはいないのだ、きっと。
    「お前はこんなとこにいちゃいけない。ここはすごく寒いだろ?お前はもっと暖かい場所に戻らなくちゃ。迷子なら俺が道案内してやる」
    「君は……、君も、一緒に戻るのか?」
    「んー……、どうかな」
    「君がいなければ、私はまた迷い込んでしまう」
     正道を行けと、家規が、近しい人々が、自分自身が言うけれど。正しさの意味を、見失う。
     己の歩んで来た道を恥じたことはないけれど悔やむのは何故だろう。
    「藍湛」
     ひどく優しい声音だ。憐れんだような、困惑したような。
    「ほら、行くぞ。その足はまだ動くだろう?」
     差し伸べられた指先に触れれば氷のように冷たい。思わずぎゅっと握り締めた。本当は彼ごと抱き締めたかったのだけれど。
    「痛いよ藍湛。まったく加減てものを知らないのか?」
    「すまない」
    「おいてけぼりになんかしないから安心しろよ」
     彼は藍忘機の手をしっかり握り返して笑った。
     ああそうだ。
     彼はいつもこうして笑いかけてくれていた。
     安堵とまではいかない溜息を吐き、藍忘機は彼の示す道をついて行く。
     次第に暗闇が薄くなり、春の訪れかのように寒さも緩む。やはり彼の行く道は正しい。なのに。
    「ここでお別れだ、藍湛」
    「魏嬰?」
     彼は藍忘機の手を振り払った。
    「もうここからなら迷ったりしない。お前はこの先に行くんだ」
    「君は」
    「俺とお前は違う」
    「何も違わない」
    「そうだな。だけど、道は違うんだよ」
     肩を竦めた彼の背後から、ひやりとした空気が忍び寄る。
    「魏嬰、一緒に」
    「……信じる道の辿り着いた先で、いつかまた会えることもあるさ」

     そうじゃない。
     私は、君と。

     伸ばした手は再び彼に触れることはなく、濃い闇の虚空を掻いて落ちた。

     ───。

     ふと、その手が暖かいものに包まれているのに気付く。
     闇だと思っていたのは目を閉じていたからで、そっと瞼を持ち上げれば眩い光の中だった。
    「藍湛、大丈夫か?怖い夢でも見たのか?」
     そこには藍忘機の伸ばされた手を掴んだ彼がいた。
     いつもは藍忘機がすっかり身支度を終えた頃にやっと目を覚ます彼が先に起きていて、こんな心配そうにしているのを見れば自分が魘されていたのだろうとわかる。
    「怖い夢……、でも、君が、助けてくれた」
    「俺が?」
    「うん」
     そう頷けば、彼はとびきりの笑顔を向けてくれる。
    「君の言った通りだった」
     その笑顔に藍忘機も唇の端を少し引き上げた。

     信じる道の、辿り着いた先。

     やはり、君は正しかった。

    「おはよう、魏嬰」
     朝がこんなに待ち遠しいことを、教えてくれた人。
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