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    ex_manzyuu88

    @ex_manzyuu88

    (らくがきと小話用)
    あんスタ(腐) 十条兄弟(右固定)と巽要中心

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    ex_manzyuu88

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    要ちゃん元気時空、巽要前提の巽と兄の話。

    かわいくて仕方ない弟の誕生日ケーキ買いに来た兄と、色々気を遣ってくれるユニットメンバーにケーキ買いに来た巽。
    要のためなら敵に塩を送れるようになった兄。

    彼らの最優先事項について 王道のショートケーキや濃厚チョコレートケーキ、煌びやかなフルーツタルトにモンブラン。
     目深にかぶったキャップに伊達メガネとマスクというまぁまぁ怪しい風貌で色とりどりのケーキが並ぶショーケースを睨みつけること約5分。
     まるで親の仇でも見るかの様にケーキを睨みつける客に困惑する店員をアイドルスマイルで黙らせて、HiMERUはひたすらに悩んでいた。
     何故なら今日は七夕で、HiMERUが目に入れても痛くない程溺愛している弟と、初めて一緒に過ごす誕生日なのである。
     今までの人生で最高のものにしてやりたいと思うのはごく自然な事だろう。
     プレゼントを考えながら、この店を選ぶのに約1ヶ月。要の味覚に合わせて選んだこのスイーツショップはクリームだけでなくスポンジも甘い。
     ニキに作ってもらうという手もあるというか、数時間後に貸切にしたシナモンで開かれる要の誕生日会ではニキが腕を奮ってくれるので、実際にはケーキを用意する必要はなかったりするのだけれども。
     要を形作るものは自分が選びたい。そんな、今までに感じる事のなかった愛情は時折暴走気味な自覚もある。
     珍しく素直に、単に愛情の与え方が分からないのだと白状してしまえばキャラ崩壊だと騒ぐ仲間たちに生暖かい視線を貰ったが、少なくともこの中に一般的かつ至極真当な愛情を受けて育った者など居ないと思うのだが。
     閑話休題。
     とにかくHiMERUはたった『一人』の家族として、要に与えられる全てを与えてやりたいのである。
     たとえ昼に誕生日会で食べたのに夜にもケーキを与えるなんて完璧にカロリーオーバーだと言うことを理解していても、どうしたって要の喜ぶ顔が見たい。
     だがしかし、そんなHiMERUに立ち塞がる、一番の問題。ショウケースを睨み続けなければならない理由、それは。
    (​─────要の好きなケーキが分からない……)
     自然とため息が零れる。
     仕方がないと割り切るのは難しかった。
     相手の仕草や言動から、思考を読むのは得意なはずなのに、兄に対してのみ我儘を言わない要に、HiMERUは負け続けている。
     何を食べさせても美味しいと喜ぶし、何を見せてもキラキラと金糸雀色の瞳を輝かせ、殆ど同じ造形をしているとはにわかには信じがたい愛らしさで、こちらが籠絡されてしまう。
     意図したものではないだろう。それが紛うことなき要の本心であるからして、HiMERUにはそこにあるはずの優劣が分からなかった。
    「……いっそ全種類買ってやれば」
    「おや、奇遇ですな」
     幻聴である。
     確かに声の主ならば、要の好きなケーキくらい知っていて、それが世界の常識であるかのように「要さんは〜」とショーケースから正解を指さしてみせるのだろう。
     だからと言って絶対に、例え世界がひっくり返っても、彼を頼るという選択肢は存在しないが。
    「お兄さん?」
     要が目覚めてからは仕事以外で自身をHiMERUと呼ばなくなったのも、リアルに再現しないで欲しい。
     そこについては、爪の先くらいは見直してやったのだけど、幻聴であるはずの存在にざわりと店内が色めき立った。
     どうやら店員の1人が今をときめくアイドル風早巽に気付いたらしい。
     見なくても分かっていた事だが、どうせどこぞの聖人野郎は大した変装もしていないのだろう。
     ともあれこれで無視するのは難しくなってしまった。
     HiMERUは一旦自身を落ち着けるようにゆっくり息を吐くと、分かりやすい営業スマイルで隣を振り向いた。
    「要のケーキは『俺』が選ぶので、巽は帰っていいですよ」
     表情とは真逆の少々棘のある声は勿論態とだが、それで怯んでくれる相手なら苦労はしない。
     HiMERUの言葉にきょとん、としてみせた聖人野郎もとい風早巽は、人好きはするがHiMERUの神経は逆撫でする笑顔を浮かべてみせる。
    「いえ、要さんにケーキを選びたいのは山々なのですが、残念ながら今日はこれから仕事が入っておりましてな」
    「……だったら何故」
    「ALKALOIDの皆さんに差入れを」
    「そうですか」
     正直、巽が仕事なのは知っていた。
     彼に興味があるからではない。今日の誕生日会に巽を呼びたがっていた要がしょんぼりと教えてくれたから知っているのであり、そんな要を差し置いてメンバーに差入れとは最愛の弟を蔑ろにされているようで少々気分が悪くなる。
     巽に要を取られたくはない反面、HiMERUはどうにも巽が要を一番にしない事が嫌だった。
     我ながら面倒くさい自覚はある。けれど安っぽい恋愛ドラマみたいに後から現れたヒロインが全てをかっさらって行くような現実に向かってしまうのならば、それはあまりに不条理だ。
     勿論、巽の新たな仲間たちに非はない。
     要とどうにか仲良くしようとしてくれる彼らには感謝こそあれ、恨みの感情などないけれど、一度は無知な人間共に存在を否定された弟に、それ以上の結末を与えて欲しくないのである。
     自分一人で幸せにしてやれると豪語出来ればいいのだけれど、あの日ステージで巽と隣合った要の幸せそうな表情を知っているから、それが到底無理な事だと理解している。
     ましてや好みのケーキすら知らない兄だ。同じ土俵どころか、いっそため息すら出ない。
     なんて事を考えていれば出来るだけ穏便に作っていた表情も、自然と固くなる。
     そんなこちらの心情を知ってか知らずか、HiMERUを見た巽はゆったりと目を細めた。
    「最近、優先するものが出来た俺に色々と気を遣ってくれましてな。何故か今日が仕事になってしまった事も謝られてしまいました」
    「……」
    「要さんもアイドルですから、誕生日会に行けない事よりも仕事を休むと言ったら嫌いになってましたと言われたくらいですし、一彩さんたちが気に病む事はないのですが」
    「弁明しろと言った覚えはありませんが」
    「俺が聞いて欲しかったんです」
    「言い訳を?」
    「いえ、要さんとの話を」
     ジトリと目を坐らせたHiMERUとは反対に清々しい顔をした巽は、彼にしては珍しく態とあんな話をしたのかもしれない。
     目の前の綺麗な顔は相変わらずムカつくが、先程まで感じていた苛立ちは何処へやら。巽が要を優先していることがユニット内では周知の事実であるという事に頬が緩みそうになる。
     それが癪だったので、要はちゃんと悲しんでましたけどね、と伝えれば何故か巽は嬉しそうだった。
     時間帯のせいか自分たちの他に客はなかったけれど、そろそろこれ以上の長居は店の迷惑だろう。
     HiMERUが先に来ていたせいなのか巽は一向に店員へ話しかける素振りもなかったから、仕方なしにこちらから声を掛けてやる。
    「巽は仕事でしょう、こちらは急いでいませんからお先にどうぞ」
     あくまでも巽に気を遣ったというスタンスで。まさか要の好きなケーキが分からず悩んでいただなんてバレたくないので、HiMERUは少し横に避けながら腕を組んだ。
     怪しむ素振りもなく礼を言った巽は、しかしショーケースの一点に目をやると何かに気がついてこちらを振り返る。
     見れば、一種類だけ残り1個のケーキがあった。
     それにHiMERUが気付くのと、不味いと思ったのはほぼ同時。
     ここで巽が口にするセリフなど、いつもの常套句に決まっている。俺の知ってる要さんは、だ。
     そうか、あれか。あれが要の好きなケーキなのか。
     こんな形で知りたくはなかった。せめて要の口から教えて欲しかった。
     お前は残り1個のそれを要が好きだから譲るとわざわざ口にするんだろうよ聖人野郎、とは口に出来なかったが、ひとさじの悪意もなさそうな男に白目を向きそうになる。
     しかし、巽の言葉は少々予想外のものだった。
    「要さんは、きっと好きなケーキも変わってしまったのでしょうな」
    「……ぇ」
    「お兄さんと行ったお店の料理や、お兄さんが買ってきてくれたスイーツがどれだけ美味しかったか、いつも力説されていますので、きっと俺の知らないものに変わっているのだと思います」
     一瞬、何を言われているのか分からなかった。
     言葉の意味を咀嚼するように何度も瞬いて、巽の顔を凝視して、にっこりと笑い返される。
     つまりそれは、要の好きなケーキは兄と再会した事で変わってしまったと、だから巽も知らないのだと、そういう事だろうか。
     何も言っていないのに、今日に限って察しのいい巽が肯定するように頷いてみせる。
     気付いてしまえばジワジワと頬が熱くなり、思わずマスクに隠れて見えないという事も忘れて手のひらで隠すように覆ってしまった。
     嬉しい、と思ってもいいだろうか。
     要の「好き」の中に、兄の存在が関わっているという事に。 
    「学園時代は俺の作った食事を好きだと言ってくれたのですが」
     負けてしまいましたな、と全く悔しくなさそうな声音で付け足され、HiMERUは思わず条件反射で巽を睨みつける。
     ただし、今回だけはマウント野郎めと罵るのをやめにして、ポーズだけのため息をつくだけに留めてやった。あくまでも『今回だけは』だが。
     HiMERUはいつまでものほほんとこちらを見ている巽を軽く押しやってショーケースの前に立つと、店員へフルーツタルト3つを注文し、手渡された箱を少々無愛想に押し付けた。
    「ここはフルーツタルトが有名なので、皆さんに」
    「ありがとう、ございます。しかし……」
    「代わりに要へのケーキは巽が選んで下さい」
     文句ありますか、と付け足せば、驚いた表情が嬉しそうに綻んでいく。
     ただでさえ下がりがちな目尻が愛おしいものを想うように細められ、優しく上がる口角。
     溶けるように揺れた紫水晶はじわりと深まって、彼が最愛の人へ向ける愛情と同じ深度をしているのだろうと思った。
     先程からこちらを盗み見ている店員がそんな巽に頬を染め、ボーッとした目で見ているが、残念ながら彼は世界一可愛らしい存在にとっくの昔に落とされている。
     その証拠に、熱っぽい視線には全く気付かない巽はショーケースしか見ていない。
    「たくさんあって迷ってしまいますな」
     困ったように笑う彼は、きっとHiMERUと同じように1番が分からないだけなのだろう。
     終いには「全部、は駄目でしょうか」なんて呟くものだから、同意見という事は告げずに誰にも見えないように靴を蹴飛ばしてやった。
    「ちゃんと選んで下さい。不本意ですが、貴方からだと知れば要も喜びます」
     それもまた、HiMERUの​───否、要の兄としての本心だ。
     だからきちんと選んで貰わなければ困る。
     兄はどうしても、弟の喜ぶ顔が見たかったので。

     END

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