理解するには難がある昔、ルーチェくんにスゴく怒られた
その時は、夕方から深夜にかけて観測しようと思って、星がよく見える場所に行こうとした
そしたら途中で坂から転げ落ちて、擦り傷と切り傷がたくさんできたし、服も破けて血まみれになっちゃった
でも痛くなかったから、気にせず星を観測した
星がキレイだったから
だから、ずっとそのまま観測してた
そしたら
「……ステラ?」
深夜2時をまわった頃
少し寒いなぁって思ってたときに、声がした
振り向くとルーチェくんがいて、ビックリしたような、怒ってるような、泣きそうなような、そんな顔をして立ってた
「あ、ルーチェくん!」
ルーチェくんが迎えに来てくれた
彼の持ってるランタンは、暗い夜でも
ピカピカと光る一番星のように輝いてる
そろそろ帰ろうと思ってたけど、真っ暗だからどうしようかなと悩んでたのだ
ニコニコとルーチェに近づくユニステラ
彼に近づき、一緒に帰ろうと手を伸ばす
すると、ルーチェに手を叩き落とされた
「ステラお前、どうしてそんなに血まみれなんだよ…っ!?」
「え?えっとね~、ここに来る途中で坂から転げ落ちちゃったんだ~」
えへへ、と答えるぼくにルーチェくんは怒鳴る
「なんでそんな大怪我して血まみれなのに戻ってこないんだよ!」
「え?だって痛くなかったし、それより星を見たかったからさ~」
「…っ、バカ野郎」
「そんなに怒らないでよ~、ひどいな~」
ぼくには、どうしてルーチェくんが怒ってるのか分からない
だって痛くなかったし、今は血も止まってる
両手も両足も全部動くし、ジャンプもできる
目も見えるし、耳も聞こえるもん
この”姿形”としての機能は、何一つ損なわれていないはずなのに
そう思い、自分の体をキョロキョロと見る
至るところに擦り傷と切り傷があることと、
半透明な白のシャツとブルーのTシャツが血で真っ赤に染まってること以外は問題ない
あとは服が少し破れてるくらい
だから何とも思わなかったけど
一つだけ分かった
「分かった~!お洋服血だらけにしちゃったから怒ってるんでしょ、ルーチェくん!」
そう言うと、ルーチェくんが顔を顰めた
でも何も言わないから、たぶん正解だ
無言は肯定?って本で読んだもん
「…早く帰るぞ」
「え~?折角だから一緒に観測しようよ!」
帰ろうとするルーチェの手を、今度こそ掴み
望遠鏡の方へと引っ張るユニステラ
しかし、またもや手を叩き落とされた
「あんな壊れた望遠鏡で何を見るんだよ」
ルーチェくんが指差す、ぼくの望遠鏡
「…壊れてないよ~?」
どこも壊れてない
使えるし、役に立つ
だって今の今まで星を見てたから
「どう見ても壊れてるだろ……三脚が折れてるし、鏡筒もヒビが入って欠けてる」
「え~?」
「どうせレンズも割れてて、何も見えないだろ」
「なんで?」
いつだって星は見える
空の彼方や、雲の狭間
月の反対側や、ぼくらの足元
ファインダーが壊れていても
レンズが割れていても
鏡筒本体が欠けていたとしても
ぼくには、いつだって
「ぼくには見えるよ?」
笑顔を崩さず、真っ直ぐ答えるユニステラ
そんな彼を見て、ルーチェは思った
あぁ、こうなってしまったら
彼には何を言っても無駄だ
ステラはもう、俺を見ていない
俺の、その向こう側を見ている
彼は時々こうなる
見ているようで、見ていないし
空想的な話をする時もある
それを人はロマンチストと呼ぶのか
どうしたって俺には分からないけれど
彼は望遠鏡のくせに、何も見えていないんだ
「…分かった、それでいいから早く帰るぞ」
諦めて彼に帰宅を促し、返事を待たずに振り返って帰り道をスタスタと歩き出す
「あ!待ってよルーチェくん~!」
「走るなよ転ぶぞ…………おい、望遠鏡は?」
俺の隣に追いついたステラを見る
彼は手ぶらだ
後ろを見ると望遠鏡は先程の場所にある
他の観測道具も散らかったままだ
「どうして持ってこないんだよ」
「え?だってルーチェくんが壊れてるって言ったから、もうゴミだし置いてきた~」
ルーチェは驚いた
手のひら返しとはまさにこの事
確かにルーチェは壊れていると言ったが、
ユニステラが壊れていないと言い張るなら
そのまま持ち帰れば良いと思った
けれど彼は、あれはもう”ゴミ”だと言った
壊れてしまえば、興味をなくす
要らなくなれば、即座に捨てる
まるで、何も知らないような笑顔で
彼は真っ直ぐに、笑う
罪悪感も、執着心もないくらいに
「…明日の朝、回収してこいよ」
「ゴミなのに~?」
「…ゴミならゴミで、そのままにするな」
「それもそっか~!じゃあ明日拾って捨てとくよ~」
今度こそ、帰り道を歩き出す
隣には、ワーワーうるさいユニステラ
「あ!ルーチェくん見て~!流れ星だ~!」
「前を見て歩けバカ」
「だってスゴいよ~!ほらほら~!」
「分かったから、少し静かにしろよ」
はしゃぐユニステラをチラリと見る
危機感もなく騒ぐ純粋すぎる彼が、いつか突然壊れてしまうんじゃないかと心配になる
それこそ、先程の望遠鏡のように
「ねぇルーチェくん、手繋いでもいい~?」
「嫌だ」
「なんで~?ルーチェくんのケチ~」
「ケチで結構だ……って、おい!嫌だって言ったろ!」
断ったのに、手を繋がれた
「えへへ~、ルーチェくんの手って暖かいよね~」
「……はぁ」
仕方がないから、このまま帰ろう
どうせ言っても理解してもらえない
物事を理解しない赤子のように
血まみれのまま無邪気に笑う彼は
本当にタチが悪い