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    なつゆき

    @natsuyuki8

    絵とか漫画とか小説とか。
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    なつゆき

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    【ツイステ】フルートを続けている🐺くんと♠️の話
    この後、警察音楽隊の🐺と魔法執行官の♠️になる
    ブロマンスのつもりですが、カップリングとも受け取れなくもないのでお気をつけください。ジャクデュみあり。2(https://poipiku.com/580868/7633118.html

    ピンクッション 1「次の休み、俺に付き合っちゃあくれねえか」
     つい先日大会が終わったばかりで、どこかリラックスした空気の流れる陸上部の部室でのことだった。ふいに投げかけられたジャックからの言葉に、デュースは瞬きを返す。
     運動着から制服に着替えたジャックは通学鞄の中からチケットを差し出した。そこには美しい女性が煌びやかな衣装を纏って印刷されていた。その手の中にある楽器を見てデュースは「あ」と声をあげた。
     ジャックがポートフェストで演奏しようとしていたのと同じ楽器、フルートだ。
    「このフルート奏者なんだが、ヴィル先輩が出る映画に出演するんだ」
    「知ってる。刑事ものの劇場版だろ? ヴィル先輩が犯人役でこのフルート奏者が最初の被害者の役だってニュースサイトで見た。役としてフルートも吹くって」
    「そうだ。撮影は終わったらしいんだが、ヴィル先輩この人と気が合って仲良くなったんだと」
     チケットもらったんだけど一緒に行かない? アタシもひとりで行くよりも感想が言い合える人がいた方がいいし。興味がありそうな人がいるかしら、って考えたときにフルート続けてるってジャックが言ってたのを思い出して。
     ヴィルがそう言ってジャックにチケットを渡してきたのだ。
     ポートフェストが終わった後、ジャックは挫折したフルートを密かに練習し続けていた。努力すれば必ずできるようになる、という自身の思いを裏切りたくなかったのだ。
     朝のランニングで一緒になった折にヴィルには少しそのことを話していた。彼もジャックと同じように自身の努力によって自分を磨き続けている人だと思っていたからだ。案の定ヴィルはいいんじゃない、いつか聴けるものになったら聴かせてちょうだい、とジャックの努力を認めていた。だからこそフルートを聴く機会においてジャックを思い浮かべたのだろう。
    「だがヴィル先輩、この日急な仕事が入っちまったんだと。その映画の番宣で刑事役の人がラジオに出るはずだったんだが、撮影でケガしたらしくて。幸い軽傷らしいんだが……ヴィル先輩が代わりに出ることになったんだ。仕方ないことなんだが、ヴィル先輩もステージに立つ側だから、空席を作るのが気になるって言ってな、できたら誰か誘って行ってほしいと言われたんだ」
    「それで僕?」
     頭をかくジャックに、デュースがまた瞬きをする。
    「ああいうのってドレスコード? とかあるんじゃないか。僕そういう服ないぞ」
    「めかしこんでいく人はいるが、ドレスコードがあるわけじゃないんだと。ただ、良い席らしいから周りがしゃれてて居心地悪いと楽しめないから、ヴィル先輩が手配してくれるって言ってたぞ」
    「でも僕、クラシックとか全然わからないぞ」
    「わからなくても聴くことはできるだろ?」
    「でも、寝ちまうかもしれないし……」
     ああ言えばこう言うデュースに、ジャックは少しいらいらしてきた。自分からの誘いが嫌か、と思うと頭上の耳がぺたりと沈んでいく気配がする。
    「俺もだぞ。家族と行ったのはガキの頃だし、学校で連れていかれる演奏会とかは経験あるが……」
    「僕、一度もない」
    「あ?」
     デュースが遮るように言った言葉に、ジャックの喉から胡乱げな声が出た。
    「だから、一度も行ったことないんだ。クラシックのコンサートどころか、演奏会とかそういうの」
     デュースが純粋に困惑しているという顔で続ける。
    「ミドルスクールのときには行事とかサボってたし、曲とかも全然わからない。作法とか礼儀とかあったらヤバいと思うし、シェーンハイト先輩の代わりなんてとても。サバナクローの人たちはどうだ? あ、でもブッチ先輩は腹に入らないものはいらないって言うだろうか」
    「あー……」
     ジャックは合点がいくと、がしがしと後頭部をかく。
    「マジフト部、大会が近いんだよ。ていうか俺たちが大会一番早かったらしくて、他の運動部も空いてない。だからと言って、ヘタなやつにチケット譲って転売とかされたら困るだろ。ヴィル先輩の面識があるやつがいいだろうと思ったんだが、デュースならVRCで手をかけたし良いって言っていたしよ」
     ジャックは言い募りながら、なんだか自分が必死過ぎるようでだんだん恥ずかしくなってきた。しかも、最後に言ったことから、最初からデュースを誘う気でヴィルに打診してたことがバレる、とはっとする。
    「あ、そうなのか」
     デュースの顔がぱっと華やいだ。どうやらジャックの煩悶には気づかなかったらしい。
    「本当は行ってみたいな、と思ってたんだ。この人が出る映画、ドラマシリーズ見ててすごく面白かったし! それに、クラシックのコンサートなんてなんだか『優等生』っぽいだろ?」
     デュースが手を差し出したので、ジャックはようやっとチケットを彼の手に乗せることができた。ほっと息をついてしまう。
    「でも、僕でいいんだろうか、と思ってしまって」
     デュースがへらりと笑う。
     ジャックは俺は最初からお前と行くことを想定していたぞ、と内心でつぶやく。
     デュースがドラマシリーズを見ていたことは知っていたのだ。
    「寝ちまったら起こしてやるから」
    「うん、楽しみだ」
     屈託なく笑ったデュースは何も考えていなさそうに見えるが、実はジャックの懊悩もわかっていそうで、赤くなった顔を隠すべくジャックはふいと視線を逸らした。


     当日、ふたりは鏡を使って輝石の国の中心都市に降り立っていた。
     ヴィルが見繕ってくれた服はジャケットとチノパンだった。デュースは上も下も同じ黒とも青とも言えそうな色で、彼の髪の色によく似合っていた。細身の体躯がより強調されて見える。ジャックは明るいブラウンのチノパンにベージュのジャケットだ。ふたりが並ぶとタイプが違いあまり同級生に見えないので、ジャックには遊び心があるものを、デュースにはぴしりとしたものを選びバランスを取ったという。
     会場は音楽専用ホールで、千人以上収容できる規模らしい。ジャックは会場までの道のりを調べる過程で自分達の座席の価格を調べてしまったのだが、とても学生に出せるようなものではなく、隣で何を見ても忙しなく「わあ!」とか「おお!」と声を上げているデュースには決して言うまいと決意していた。
     一階の演奏者に近い、個々の楽器の音がよく聴こえる位置がふたりの座席だった。プログラムを見ながら、この曲は映画で使われていた、この曲は吹奏楽でよく演奏される、などと解説をし、あの楽器はどんなことに使うんだ、というデュースの質問に答えているうちに座席が埋まっていく。ほぼほぼ満席の中、観客たちのさざめき合いは期待でいっぱいだ。
     ブザーが鳴り、開演が合図される。照明が少し落ちた中でステージが光り輝く。デュースの瞳がその光を反射してなのか興奮でなのか、きらりと光った。
     演奏者たちが入場しポジションについていく。メインのフルート奏者はすぐにわかるほど迫力が違った。ベリーショートの明るい色の髪に少し暗い赤色のドレスがよく似合っていた。
     拍手が響く中、特に隣のデュースは気合いを入れて拍手をしている。ジャックは少々恥ずかしくなり肘で小突いた。かなり奏者に近いこの席で目立ったら、あとでヴィルに報告されそうだと思ったのだが、デュースはきょとんとしていてまるで伝わっていなかった。
     やがて訪れた静寂の中、指揮者が指揮棒をすいと上げてから振った。一瞬の沈黙の後、わっと音とその圧力が降り注ぐ。隣でデュースが息をのむ気配がした。
     良席だからか獣人サービスというものがついていて、聴力が良過ぎてもちょうど良くなるように調整魔法がかけられている。だが音量もさることながら、びりびりとした楽器の生の音圧が圧倒的だった。もしも音が聴こえなくても、この振動で何をどう演奏しているのかわかるのではないかというほどだ。
     デュースでなくてもクラシックなので眠くなるかもしれない、というのはジャックも思っていたのだが、音の奔流に呑み込まれているとそれどころではなかった。
     オーケストラの迫力もすごいが、ヴィルの友人のフルート奏者は圧巻だった。少しだけフルートをかじった今なら、どれだけの鍛え方、練習量、そして経験を積んでいるのか、その一端くらいはわかった。
     曲ごとにフルートのソロがあるが、彼女はどんな曲でもまるで演じているようだった。悲壮感を醸し出し、楽しげな空気を跳ねるように奏で、まるで畏敬の者へ捧げる荘厳さかと思えば親しみやすい曲調もこなす。
     自分がしっかりと主張する曲もあれば、聴くものに委ねる余地を残したものもあった。重たい曲や難解な曲の後には軽い肌触りの曲と全体の構成も考え抜かれていて、フルコースの料理のようにさまざまな品を提供しながら一本筋の通ったものも感じる。
     もちろん、彼女だけでなく多くの人が関わりこのコンサートは作り上げられているのだろう。だが、彼女の意向がしっかりと反映されているのを感じる。
     天賜の才と、それに違わぬ弛まぬ努力。
     すげえ、とジャックはいつの間にかため息をついていた。通りで、ヴィルがこの人を気にいるはずだ。
     アンコールでは彼女がひとりで登場した。
     演奏したのは世界規模で有名なスタンダードナンバーだった。
     切なく、しかし希望のあるメロディー。
     会場全体を包み込むような音色に、いつの間にかジャックは涙腺が潤んでいた。やばい、隣に座る友人に見られないだろうか、と思ってちらりとデュースを見ると、彼の頬に伝う涙がステージから差す光を反射させていた。
     慌てて視線を戻す。なんとなく、後からからかえるような涙ではなかった。
     続いてぐすり、という控えめな鼻をすする音を、ジャックの耳は捉えていた。



    「彼女とても喜んでいたわよ」
     後日、ランニングしようとやってきた早朝の学園で、ヴィルと顔を合わせるとそう告げられる。
     コンサートが終わった後には、スタッフに声をかけられて楽屋まで招待されてしまったのだ。どうやらフルート奏者の彼女がぜひヴィルの友人の感想を聴きたい、と言ったらしい。
    「クラシックコンサートに来るのはある程度お金に余裕がある年齢層が高めの人が多いでしょう? 学生の感想を聞きたかったんですって。驚いたでしょう」
    「はい……むしろ光栄でしたが、なんか俺たち、失礼なことをしてなければいいんですが」
     ヴィルはふふふ、と笑うと言った。
    「デュース、大号泣だったんですってね」
    「はい、本当、すみません。本人前にしたら感極まっちまったみたいで」
    「いいのよ。あんなにストレートに感動を伝えられる機会もなかなかないって喜んでたもの。さすがにあの超有名曲をまるで知らなかった、って言ってたのには驚いたみたいだったけど」
     アンコールで演奏された曲について、デュースは聴いたことはあったようだが曲名や歌詞を知らなかった。星に祈り、孤独な魂を慰め、夢はきっと叶うと歌う曲だ。
     僕は去年、学園でスターゲイザーを務めたんですが、そのときに見たとてつもない星空を思い出しました。
     デュースは真っ赤な目をしながらフルート奏者に訴えたのだ。
    「不思議なものよね。歌詞も曲名も知らなかったのに、そこに歌われているものを当ててしまうんだもの。あの子、そういうところあるわよね、たまに地道な検証をすっ飛ばそうとするのは悪癖だけど、感覚で核心つくことがあるのよ。彼女ね、フルートの音色で聴覚を超えることが目標なんですって。演奏を聞けば、感触を、味を、香りを、そして光景をも得られるような、そういう演奏をしたいって言うのよ。だから今回の演技もその肥やしにするのって言って、相当準備してきてたわ。業種は違うけどスケジュールのきつさはわかるもの、畑違いに軽々しく入ってこられても困るわって思ってた自分を殴りたくなった。だからね、デュースの感想本当に嬉しかったんですって。自分のやりたいことができている手応えがあったって言ってたわ」
    「デュースの方もすっかりファンになっちまったみたいで。物販でCD買っちまって今月の小遣いがないって嘆いてました」
     ジャックは胸を撫で下ろした。さすがに楽屋で泣いて大声で騒ぎ過ぎた気もしていたのだ。デュースの素直さをそのままに受け止めてくれる人でよかった、と思っていると、ヴィルがじっとこちらを見ているのに気づく。
    「で、ジャックはどうだったの?」
    「え? 俺っすか」
    「もうひとりの彼はなんだか仏頂面だったから、もしかしてお気に召さなかったのかしらって言ってたから」
    「えっ、そんなわけが」
     ジャックは慌ててぶんぶんと手を振った。デュースの心配ばかりしていて、むしろ自分が悪印象を持たれる可能性をまるで考慮していなかった。そしてはたと思い当たる。
    「俺、よく睨んでいると勘違いされるので……もしかしたら、そう見えちまいましたかね」
    「彼女は私の友人よ? 人の表情はよく読める方だと思うけど」
     ヴィルが鼻を鳴らして眼光鋭くこちらを見遣る。
     しばらく睨み合い、やがてジャックは項垂れた。
    「……ヴィルさん。どうか、ご友人には伝えないでもらえますか」
    「いいけど。何が気に食わなかったわけ?」
    「あのフルート奏者の人は何も悪くないです。演奏は本当にすばらしかった。ただ、俺が、勝手に」
     ジャックは首に巻いたタオルをぐっと掴んだ。
    「悔しくなっちまったんです」
    「へえ?」
    「デュースを、あんなに揺さぶったあの人が。あの人の演奏が……悔しくて」
     自分も練習している、フルートという楽器だったから余計に、だろうか。
     比べても仕方のないような高みにいる人に対して、悔しいと思ってしまった。
     ジャックは本来、嫉妬とは無縁だ。感じないわけではないが、それすら原動力にして己の高みを目指すことを至高としていた。
     なのに、ただただ悔しく、やりきれない。そんな感情の処理の仕方は知らなかった。
     演奏を聴き、デュースの反応を目の当たりにし、ジャックは自分の感情と折り合いをつけられぬまま彼女と話したので、うまく取り繕えなかったのだ。
    「だから、フルートの練習を増やしました。陸上部も、マジフトも、授業の予習復習もあってそりゃああの人やヴィルさんに比べるべくもないですが、俺のスケジュールだってパンパンだってのに……何やってんだって思いながらも、必死に練習しました。でも、当たり前だけど全然近づかないんです。それがまた悔しくて、俺は……」
     俯いて言葉を紡いでいたジャックだが、じっと自分を見つめる気配を感じヴィルを見遣った。
     ヴィルは顎に手をやると艶やかに微笑む。ジャックはなぜか、嫌な予感がした。
    「前言を撤回するわ。彼女に伝える」
    「え」
    「だって、こんないいこと教えてあげないわけにはいかないじゃない! あなたの演奏は、趣味でフルートをやっていただけのアタシの後輩を本気にさせたのよ、なんて。誰かが自分の後を追いかけてくれる、こんな喜ばしいことないもの。彼女、大喜びよ!」
    「ま、待ってくださいヴィルさん! そんな、俺の演奏なんて本当、あの人と並び立てるようなシロモノじゃ」
    「自分を卑下するなんて全くアンタらしくないわよ、ジャック」
     ヴィルはジャックを視線で黙らせるとぴしりと言った。
    「そりゃあ、今はもちろん及ぶべくもないわ。でも五年後は? 十年後は? アンタがやろうとしているなら、本気なんでしょう?」
     ぐ、とジャックは詰まった。
     まるで、これからの努力でヴィルを押し退けてステージの中央に立つような俳優になって見せる、と言っているようなものだ。きっと幼いときからそれだけに時間も労力もかけてきた彼や彼女にしてみれば不遜もいいところだろう。
     だが確かに、本気でないなら自分は最初からやらない。
    「音楽についてだからこの表現は正しくないかもしれないけれど、勝ちたいのね。彼女の演奏に」
     ヴィルの瞳がぎらりと輝いた。それは、ステージの上で戦う彼だからこそ使う表現だ。大それたことを、と思いながらもジャックは否定できなかった。それを否定することは、努力をして、何かを成すことをひたすら目指す、自分の矜持を曲げることと同じだ。
    「はい。俺は……」
     ジャックは観念したように呻いた。
     口からため息が白い息となって上がる。つんとした冬の始まりの匂いが、ジャックの鼻をついた。
    「勝ちたい、です」
     あの男の、大事なものを揺さぶりたい。
     ジャックの脳裏に、涙を流したデュースの横顔が浮かぶ。
     その様子に、とても満足そうにヴィルが深く頷いた。
     足を止めて話こんでいたからか、いつの間にか朝の冷たい空気が身体にまとわりついている。ふいに吹いた風にふたりはぶるりと震えた。
    「さ、走りましょ。千里の道も一歩から。アタシは応援するわ。きっと彼女もね」
    「あの、ヴィルさん、やっぱりできたら彼女には言わないでもらえたら……」
    「ダメよ、こんな面白い話聞いたら彼女ますます燃えて演奏に磨きがかかるもの。機会を逃すのは世界の損失よ!」
    「それっていつまでも俺勝てなくないですか?」
    「あら、手加減した相手に勝ちたいなんてそんな低い志なの? 」
    「そういうわけじゃねえっすけど! ああもう、言わないって言ったじゃないっすか!」
    「アタシ、今回の映画犯人役だからヴィランなのよ。だから前言撤回なんてお手のものなの」
     朝焼けにけぶる学園の道をふたり走る。
     ジャックは地面を踏み締めながら、これから行く長く険しい道のりを予感していた。
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