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    なつゆき

    @natsuyuki8

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    なつゆき

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    【まほやく】「同じ視点で見ていた」が好きで、書いてしまいました。アイドルラジオパロ

    #まほやく
    mahayanaMahaparinirvanaSutra

    同じ視点で見ていたがお送りするラジオ番組、同じ時間で聴いていたの時間です「こんばんは、『同じ視点で見ていた』のネロ・ターナーです。この番組、『同じ時間に聴いていた』は、人気三人組アイドルグループ……あの、これ、台本に書いてあるから読みあげてるだけで、俺がそう思ってるわけじゃねえんだけど……」
    「毎回それウザい。いいから読めよ」
    「あっはい……人気三人組アイドルグループ、『同じ視点で見ていた』がお送りする、ラジオ番組です。初めて聴く人のために一応説明しておくと、毎週俺、ネロ・ターナーと、残りふたりのメンバーのうちのひとりが出演して、ふたりでお送りする形式となっています。今日の担当は」
    「オーエン」
    「……です。なあ、そろそろ俺が必ず毎週いるっていうこの形式、やめない?」
    「は? お前、僕とラスティカのふたりでラジオやれって言ってる?」
    「そうだけど……」
    「ばかじゃないの? 僕の出番が、二週に一回から三週に二回になるでしょ。無理」
    「俺は毎週出てるんだよなあ!?」
    「これ以上仕事増やすとか無理」
    「いや、オーエンの個人仕事が俺より忙しいのはわかってるんだけどさ。毎回俺とのおしゃべりってのもファンサービスとしてどうなのかなって。オーエンと婿さんのふたりしゃべりを聴きたいファンだっているだろ?」
    「別に、ライブとか、テレビ番組とか動画チャンネルとか、いくらでも機会あるでしょ。だいたいネロがいなくてまともなラジオになると思ってるの?」
    「そこはさあ、何度もやれば慣れてくるというか、練習というか……」
    「いやだよ。僕とふたりになってもラスティカは絶対あのままだろ。となると、いつもネロがやってるツッコミを僕がやることになるじゃない。疲れる」
    「俺はそれを毎週やってるんだけどなあ」
    「うるさいうるさい。この話はここまで。ライブの話するんでしょ」
    「あー、はいはい。一旦CM挟んで、この間ファイナルを迎えた俺たちの初めてのツアーの裏話というか、こんなことがあったとかって話をしようと思います」


    「……はい。あっ、みんな今日から新しいジングルって気づいた? 婿さんがツアーファイナルの翌日に送ってきてさ、なんか興奮して眠れなかったから作っちまったらしい」
    「よくやるよね。僕あの日、帰ったらすぐ寝た」
    「ははっ、俺もだよ。出し切ったもんなあ。えーと、本当にいろいろあったんだけど、何の話しようかな。そういえばツアーの差し入れでもらったご当地の甘いもの、オーエンが片っ端から食べ尽くししちまって俺一個も食べてねえんだよな……」
    「僕が食べるのなんてわかりきってるんだから、自分の分は先に確保しておけよ」
    「どれが一番うまかった?」
    「白くてねばっこいのを、血が渇いた後みたいな色をしたのでぐるっとしたやつ」
    「うーん。それ、どこ行ったときの?」
    「知らない。ネロ、ファンはそれよりも、楽曲のこととか聴きたいんじゃない。『178』のこととか」
    「ええと、そうだ、ファイナルで披露した新曲『178』ですが、これは今のところ音源化の予定はありません。その代わり、今度、ツアーファイナルで歌っている映像を動画チャンネルに上げる予定でいるので、ファイナル参加できなかったって人も、もうちょっと待ってくれな」
    「三人の共作でって言われたときには、絶対無理だって思った」
    「そうそう、これ作曲がラスティカ、作詞がオーエンで、ラップのリリックが俺なんだけど」
    「いや、作詞は僕たちふたりでしょ。クレジットもそうしてもらうことになってるし。何逃げようとしてるのさ」
    「いやあ……ちょっと恥ずかしくて。ラスティカが曲作ったって持ってきてさ、お気に入りだから共作にしたい、歌詞をふたりに書いてほしいなって言ってきたんだけど……オーエン、あのとき露骨に嫌そうな顔してたよな」
    「特別に気に入ってる曲なら全部自分でやればいいのにって思ったんだよ。うちはそういう、仲良しこよしみたいなの違うでしょ。『肩まで』じゃないんだからさ」
    「俺は最初ラップ部分だけのつもりで、歌詞のテイストに合わせた方がいいかなと思って、リリック作るのはオーエンの歌詞ができるまで様子見のつもりだったんだけど。実はある日突然オフの日にオーエンに拉致されて……」
    「迎えに行ってあげたのに、何その言い草」
    「キッチンがついている貸切スタジオ? みたいなところに連れていかれてさ。歌詞できるまで出さないからって言われて、その日一日中ふたりで歌詞書いて歌ってを繰り返して、加えて食事作らされて甘いものも死ぬほど生産させられたんだよなあ。食材の買い出しに行こうとしたら止められて、事務所のスタッフに頼んであるって言われてさあ。本当に出られないかと思ったぜ。結局泊まり込みになって」
    「結果できたんだからいいでしょ」
    「深夜テンションだったから、実際に歌うことになって歌詞を見返したらリハーサルからもう恥ずかしくて恥ずかしくて……」
    「ふふん。僕は『同じ視点で見ていても 見ているものは違うかも』のところとか気に入ってるよ」
    「わーわー! やめてくれよ、恥ずかしい!」
    「どこがお前が考えたのかなんて、反応しないとわからないのに今のでバレたよ」
    「お! 俺は! 『それでも手をつないで踊ろう くるくると』とかいいと思う! あそこで手をこう……差し出す振り付け考えたのもオーエンだし!」
    「……ネロ、お前、番組終わったら白くてねばっこいのを、血が渇いた後みたいな色をしたのでぐるっとしたやつ作れよ」
    「待ってくれよ、だからそれどこで出たやつだよ!? ……あ、はい、メール? メール来てます……あ、すげえ! 『白くてねばっこいのを、血が渇いた後みたいな色をしたのでぐるっとしたやつ』が一体何か当てようとする候補メールがこんなに!? これなんて件名『オーエンのお菓子の比喩を当てようコーナー』って書いてあるけどそんなコーナー別にないからな!?」
    「あ、これかも。この写真の」
    「あ、ああー! なるほど、血が乾いた後みたいな色だわ……じゃあ、曲の後に正解発表します。聴いてください、同じ視点で見ていたで、『紫の帽子とオレンジの夜』」



    「こんばんは、『同じ視点で見ていた』のネロ・ターナーです。この番組、『同じ時間に聴いていた』は、えーと、書いてあるから読むんだけど、人気三人組アイドルグループ、『同じ視点で見ていた』がお送りするラジオ番組です。毎週俺、ネロ・ターナーと、残りふたりのメンバーのうちのひとりが出演して、ふたりでお送りする形式となっています。今日の担当は」
    「今日も聴いてくれてありがとう。ラスティカ・フェルチだよ。こうやって周波数を合わせて聴いてくれて、同じ時間を過ごしてくれているなんてすごいことだね」
    「えーと、うちの婿さんはこういう感じなんで、今日初めて聴いたって人もびっくりしないでくれよな。ああ婿さん、アプリで別の時間に聴いてくれてる人もいるかもしんねえよ」
    「アプリをダウンロードして、時間を捻出して聴いてくれるなんてすばらしいね!」
    「あ、ああ……え、ていうかすげえ、今、婿さんの言葉に合わせてエコーかけたなスタッフ」
    「すばらしい反応だったね。きっと僕の花嫁に違いない!」
    「婿さん!? え、花嫁ってファンへの呼称だけじゃなくてスタッフにも有効なの!? おいおい、スタジオから出ていかないでくれ、あれはあんたの花嫁じゃねえ!」
    「そうなのかい? 遂に見つけたと思ったのだけど……」
    「えーと、一旦CMの後、新曲の話をしようと思います! 頼むよ婿さん、曲の話にはあんたが不可欠なんだから」


    「新ジングルにも慣れてきたなー」
    「気に入ってくれたかな? ファーストライブツアーが終わって、これからまた進んでいく僕たちをイメージしたメロディが浮かんだから作ったんだ」
    「はあー、すごいよなあ、婿さん。あんた、スランプっていうのはないの?」
    「ネロは料理をしていてスランプってある?」
    「いやあ、さすがに料理と作曲は違うんじゃねえ?」
    「そうかな? 僕には似ているように思うけれど」
    「受け取る人が喜んでくれるってことでは同じかもしんねえけど。ラップのリリックでうんうん悩んでる俺には、ちょっとわかんねえかも」
    「ライブでやった、即興ラップのコーナーでは口籠ったことなんてなかったように思うけれど」
    「あれは追い詰められるからできるっていうか、でも相当プレッシャーだったんだよ……毎回ツアーで恒例になったらやだな……シノやヒースががすげえ褒めてくれたけど」
    「ああ、舞台で一緒だった」
    「そうそう、『東の国の魔法使い』な。ああ待ってくれ、話が逸れた。新曲の話をしねえと。というわけで、新曲が出ます! 来週の金曜日、22時に動画チャンネルでMVを公開するのでチェックよろしくお願いします。タイトルは……」
    「『白雪の終着』だね。バラードになっていて、僕が作曲、今回の作詞はネロ」
    「この間、ファイナルで披露した『178』って曲のときに、オーエンとふたりで作詞したんだけど……あれのせいで、オーエンに『お前ラップだけじゃなくて作詞もできるだろ』って言われてさあ……」
    「それで今回はふたりそれぞれに歌詞を書いてきてもらったんだ。どちらもすごく良かったんだけれど、今回の曲の僕のイメージに近かったのはネロの方だったから、そちらを採用したよ。でも、オーエンの方もすごく良くてね。オーエンの歌詞をイメージしてもう一曲作ってしまったよ。そちらはカップリング曲になっています」
    「オーエンの方はなんていうか、手に入れられないものに憧れるって感じだったよな」
    「そうだね。ネロの歌詞はもう失くしてしまったものを惜しむ、という感じでね。そちらが今回の曲に近いだろうと」
    「そうやって分析されると恥ずかしいな……ああそうだ、『178』の方も、ツアーファイナルのときに披露した映像が公開されたんだけど、もう100万回再生行ってて、本当にありがたいよ」
    「急上昇に載って、たくさんの人に聴いてもらえたみたいだね」
    「新曲のMVもすごく、神秘的な感じに出来上がっているので……」
    「うん。衣装がとても豪華で、世界観がしっかりしているよね」
    「ああ。できたらこの新曲もたくさん聴いてください。じゃあ婿さん、曲紹介してもらっていいか?」
    「はい。喪失の悲しみを歌う歌ではありますが、悲しいという気持ちをはっきりと自覚するということも大切で尊い……と考えて作りました。たくさん聴いていただけたら嬉しいです。『同じ視点で見ていた』で、『白雪の終着』」




    「こんばんは、『同じ視点で見ていた』のネロ・ターナーです。この番組、『同じ時間に聴いていた』は、えーと、これ本当毎回言いにくいんだけど……人気三人組アイドルグループ、『同じ視点で見ていた』がお送りす、るラジオ番組です。毎週俺、ネロ・ターナーと、残りふたりのメンバーのうちのひとりが出演して、ふたりでお送りする形式となっている……はず、なんですが、今日は俺ひとりです。ちょっときちんと話をさせてほしいことがあって、事務所にも許可とって、メンバーふたりにも相談して、番組のスタッフたちにもお願いして、今日はひとりラジオのかたちになっています。一旦CMを挟んで、最初からちょっと説明したいと思う。楽しい話ではないから、いつものラジオを期待していた人はごめんな。ああ、解散とか脱退とかそういうんじゃないから、安心してほしいです」


    「……はい。ええと……ああ、いつも俺だけ毎週出演だとか文句ばっかり言ってたくせに、いざひとりでしゃべるとなると、すっげー緊張してて……本当、ずっとツッコミさせられるとかさ、ぶちぶち言ってたくせして情けねえよな。あのふたりに助けられてた部分あったんだなって、そんなこともわかってなかったんだ。
    ふたりにはそれぞれ、ネロのしたいように、とか、好きにすれば、って言われたよ。なんだか投げやりに聞こえるけれど、この距離感がちょうどよくて活動できてるんだよな。
    ……ええと、話しておきたいことっていうのは、この間発表のあった、俺が主演する映画、『シー・ローバ・スクアーマ』のこと。
    ダブル主演ということで、もうひとりの主演は『漆黒の暁』のブラッドリー・ベイン。その発表があってから、SNSですげえ……なんていうか、良くない感じでトレンド入ったり、変なネットニュースが出たりして、それで、これは俺の口から説明した方がいいかなと思って、こうして、場を設けてもらった、って感じです。ブログで発表とかも考えたし、この番組後に更新もするつもりだけど、ラジオにしたのは、ここが一番、俺の思っていることをきちんと伝えられそうな気がしたからなんだ。
    みなさんも知っての通り、俺と……ブラッドはもともと幼馴染で、二人して応募したアイドルオーディション番組でデビューの権利を掴んだ。ブラッドに言われてよくわからずに応募書類出しちまって、ぼけっとしていた俺なんかにたくさん投票してくれて、あのときは本当にありがとう。結局俺は脱退ってかたちを取ってしまったけど、そのことは本当に感謝している。ブラッドとの組み合わせで応援してくれた人が多くて、俺なんてブラッドに引き上げてもらったようなもんだとわかってるけれど、嬉しかった。
    どうしていきなり脱退したのかっていうのは、ずっと明言を避けてきた。以前にやった、アイドルグループ六組合同の舞台、『魔法使いの約束』のとき、あのときも俺とブラッドリーの共演だって今回みたいにかなり話題になったけれど……あのときの俺はまだ、当時のことを話す余裕がなかったから、完全スルーさせてもらっちまった。不安なファンの人もいたと思う。ごめんな。
    オーディションの結果発表でブラッドが一位を取って、なんとか俺もデビュー圏内に生き残りデビューが決まって……俺たちグループメンバーは歌やダンスだけでなくて、演技のレッスンもしていたそんな頃の話だ。
    ブラッドは一番人気だったから、いきなり主演映画が決まって撮影までしてたんだ。警察官の役でさ、けっこうアクションも派手で……で、大騒ぎになったから知ってると思うけど、アクションの撮影中に大怪我して顔に傷を負った。
    あいつは本当に無茶ばかりするやつで、ああいうことって初めてじゃなかったんだ。俺はあの映画にはチョイ役で出るだけだったけど、ハラハラして見て、本人に忠告もした。それでもブラッドはどこ吹く風でさ、怪我なんてしやがって、挙げ句の果てに男前が上がっただろなんて呑気に言う。
    俺はカッとなって大喧嘩さ。あの頃のことはうん、こうやって話すって決めても、うまく振り返れそうにない。俺は結局脱退することになったし、グループメンバーは散り散りになった。ブラッドのデビューも白紙に戻って、結局全部俺がぶち壊しちまった。みんなの人生をめちゃくちゃにして……でも俺は、器が小さいからさ。オーディション番組の出資者から訴えられるんじゃないかとか、そういう、自分の保身ばかり考えて、こそこそ隠れてた。アルバイトして食いつないで、アイドルやってたってバレそうになったらバイト先をころころ変えて。
    そんなときに、ラスティカに僕と組まないかいって声をかけられたんだ。
    無理だって思ったよ。ブラッドがいなきゃ俺なんて何もできないだろとか、今更どの面下げてもう一回アイドルをやるなんてとか、考えてさ。
    でも、ちらっとさ、訴えられたら賠償金? とかさ、アイドルでもしてないと払えねえよなとか思ったんだよな。即物的で我ながらやんなっちまうんだけど。
    いや……わかんねえ。未練、あったのかな。歌うこと、踊ることに。
    で、今の事務所が用意してくれた、ラスティカとオーエンとの話し合いの場に行った。そうしたらこのふたり、俺がいなきゃ駄目だ! って思っちまって。理由はまあ、言わなくてもわかるよな。作曲とか妥協しないところとかさ、そういう才能は飛び抜けてるんだけど、常識とか生活力とか空気読むとかもう、壊滅してるふたりだし。
    ……今思うと、ふたりとも、俺がいなくてもどうにかした気はするんだけど。
    結局それも、言い訳というか、自分の中での、体裁の良い理由だったのかもしんねえ。
    ファーストツアーを終えて、ふたりと息も合ってきたな、なんて場面が増えてさ……そんなときに、この映画の話をもらって。
    もうひとりの主演がブラッドだって聞いても、心が波立たなかったんだ。
    『魔法使いの約束』で元相棒の役柄で演技して、過去のこと含めてだいぶいろいろ話したってのもあると思う。
    だからと言って、ブラッドとアイドルグループ再結成ってのはないよ。ネットニュースの記事内に出ている『関係者』なんてのはでっち上げだ。俺たちは今、それぞれのグループでやりたいことをやれている。妄想や憶測で記事書かれても困っちまう。それだけ、しっかり言っておきたかった。
    きちんといい演技するからさ、映画、楽しみにしておいてほしい。よろしくお願いします」




    「『同じ視点で見ていた』のオーエンと」
    「ラスティカ・フェルチだよ」
    「もうSNS等の告知、見て知ってると思うんだけど。いつもはこの番組、ネロと僕たちふたりのうちのどちらかひとりとでお送りしてるんだけど、昨日、ネロが体調不良になって」
    「はい。それで今日は急遽、僕たちふたりでお届けしています」
    「なんか、先週の放送で、きちんと話をするってことになってからずっと異常に緊張してたみたいなんだよね。終わって気が抜けたみたい。情けないよね」
    「そんなことはないよ。でも、体調不良を隠してたのはいけなかったね」
    「そう、昨日は新曲のインターネットサイン会だったんだけど、青白い顔して現場来てさ、大丈夫だできるって一点張り。ちょっと突いたらクラゲみたいにくたくたになっちゃって面白かったな」
    「オーエン、その後すごい形相でネロにたくさん着込ませてタクシー呼んでマネージャーつけて帰らせていたよね。見事な手際だったよ」
    「……そういうのいいから。ということで、ネロはおやすみ。今日はもう大丈夫になったって連絡きたから、心配しすぎないで。きっと今頃、ハラハラしながらこのラジオ聴いてるかもね」
    「というわけで、CMが開けたら僕たちふたりでトークしようと思うよ」


    「あれ、台本はどこにいったかな? まるで僕の花嫁のように消えてしまった」
    「いいいい、いらない。ネロじゃないんだから、好きに進めさせてもらう」
    「ええと、打ち合わせしたときには、今日はもうふたりで自由に話をしてくださいってことだったよね。最近何かあったかな」
    「待って。ラスティカ、今日のアイライナー、もしかしてクロエの?」
    「ああ、さすがだねオーエン」
    「ふうん。いいんじゃないロゼブラウン、お前に合う」
    「あのアイライナーの広告のパッケージ、それぞれ個性的でとても素敵だよね。クロエの可愛らしさと、ときに見せる大胆さが、光り輝くように表現されている」
    「ふん。まあ確かに、悪くなかったんじゃない」
    「この間、西の魔法使いでパジャマパーティをしたんだけど、そのときにクロエがこれをくれたんだ。みんなでメイクし合ってね、楽しかったよ」
    「パジャマパーティ? 集まって一体何をするのさ」
    「そうだなあ。他には恋の話とかをしたよ」
    「おっ前……仮にもアイドルが……」
    「北の魔法使いはやらないの?」
    「パジャマパーティを? それとも恋の話を?」
    「どっちもさ。楽しかったよ、僕はミスラに突然告白されたらどうするかと考えた。花嫁がいるから断るだろうけど、と答えてね。後は、レノックスが本気の告白をするときは照れているか、真顔かとか」
    「恋の話って、そういう……? くだらない、僕たちがそんなことするわけないでしょ」
    「北の魔法使いで、パジャマパーティはしなかったのかい?」
    「僕たちはせいぜい怪談噺だよ。恐いものを言っていくんだ」
    「へえ! それは面白そうだね。何を愛しいと思うのかと同じくらい、何を恐いと思うのかは個性が出るもの」
    「怪談噺でも面白がれるの、本当『西の魔法使い』って感じだよな。ただ、ブラッドリーのは全然恐くなかったな……」
    「メイクは? メイクはしなかったの?」
    「するわけないだろ。だいたい、双子の担当のブラックはけっこう発色が良くて、僕っていうよりもあいつだろって思って、いらないからあげるって言ったのに、アーサーからもらったからいいって、なんなんだよ本当」
    「へえ、誰のことだい?」
    「別に、誰でもいいでしょ」
    「彼を語るオーエンの口調、花が綻ぶように危なげで、何ものにも変え難いね」
    「……いったいなんなの」
    「え? ああ、はい、そろそろ曲?」
    「……」
    「……」
    「……これって、どうやったら曲が流れるんでしょうか」
    「曲紹介をしたらいいじゃない?」
    「どっちが?」
    「どっちでもいいんじゃないの?」
    「いつもネロが振ってくれるから、忘れてしまいました」
    「ま、いいや。曲流して、タイトル? 言わなくてもわかるでしょ、聴いてるの僕たちのファンなんだからさ」




    「こんばんは、『同じ視点で見ていた』のネロ・ターナーです。先週はお休みいただいちまって、本当、すみません。ただの知恵熱だったみたいで、鼻とか喉とかは大丈夫。バッチリ下がったから、心配しないでくれよな。さて、この番組、『同じ時間に聴いていた』は、一応、人気、かもしれない三人組アイドルグループ、『同じ視点で見ていた』がお送りする、ラジオ番組だ。毎週俺、ネロ・ターナーと、残りふたりのメンバーのうちのひとりが出演して、ふたりでお送りする形式となっています」
    「今日の担当は、僕、オーエンだよ」
    「よろしくお願いします」
    「はー。今週は何もしなくていいんでしょ」
    「ダメだからな!? ていうか先週だって何もしてないようなもんだろ!?」
    「へえ。ピンチヒッターで出てあげた僕たちふたりに対して、そういう口をきくんだ、ネロは」
    「うっ……そのことはもう、クリーム量産で手打ちってことになっただろ……!」
    「だいたい、聴取率も良かったって聴いたよ。まあ、だからって何回もやる気はないけど」
    「俺、先週の放送リアルタイムで聴いてたんだけど、下がりかけてた熱がまた上がるかと思ったからな……本当」
    「なんで?」
    「なんで!?」
    「けっこうたくさんしゃべったと思うんだけど」
    「しゃべってはいたけどさあ……! 」
    「おまえだって、よく話が脱線するじゃない」
    「いや、ラジオなのに見えないアイラインの話し出すし、『西の魔法使い』って一体なんなのか説明してなかったし、挙げ句の果てに曲紹介ぐだぐだで……ああ、ええと、一応説明しておくと、先日発表されましたが、六組のアイドルグループでの合同舞台、『魔法使いの約束』の第二幕の上演が決定しました。その舞台のストーリーに出てくる五つの国にはそれぞれ特色があって、俺たち二十一人が演じる魔法使いはみんなどこかの国の所属なんだ。ラスティカやクロエは『西の魔法使い』ってわけ」
    「そんなの、検索すれば出てくるでしょ」
    「偶然聴く人もいるだろ? だいたい、ビジュアル撮影とかパンフ内の対談、動画のコンテンツ撮影のために最近は国ごとにけっこう集まってたんだけど……先週はまだ情報解禁前だったのに、ふたりがそのあたりの話を始めるから、俺もうヒヤヒヤして……」
    「ラジオ聴かなきゃいいだろ」
    「聴かないなら聴かないで落ち着かないんだよ……」
    「本当、ネロって『東の魔法使い』だよね」



    「さて、CMも開けてここからはフリートークです」
    「僕は先週けっこうしゃべったから、ネロの番ね。どうせ東の魔法使いもやったんでしょ、パジャマパーティ」
    「えっ!? なんで……俺言ってないよな?」
    「西と中央がやったって聞いたからね。東はそういうの好きじゃなさそうだけど、話を聞いたらやりたがりそうなやつがいるでしょう」
    「……はあ。いいのかな、これ。ファウストもヒースもシノも、ブログとかSNSとか、ライブのトークとかでもどこでも話してないみたいだから、言わない方がいいのかなと思ってたんだけど」
    「クロエがブログで、『東の魔法使いもパジャマパーティやったんだって!』って書いてたから、知ってるやつは知ってる」
    「えっ? 『りんごと血しぶき』のブログってファンクラブ会員限定じゃなかったか?」
    「……」
    「あっ……すみません! えーと、そう、シノがやりたいって言い出して! 『東の魔法使い』でパジャマパーティをしたんだ。だけどパジャマパーティって言っていいのかね……途中でちょっと、ヒースとシノが揉めて、結局夜食作って夜更かしして……みたいな」
    「……もうちょっとなんか、ファンが喜びそうなエピソードないの? ヒースクリフとシノがケンカする、なんて日常茶飯事過ぎるでしょ」
    「ファンが喜びそうな? えーと、夜食の中で、どのメニューが一番人気があったかとか、そのレシピとか……?」
    「おまえ本当にアイドルのやる気ある?」
    「えっ、違った? なんだろ……ファウストとヒースが同じ寝床で、俺とシノが床で寝ようとしたとか、えーとあとは……そうそう、パジャマに着替えようってときにメイクを落としてなかったって言って、ファウストがメガネに手をかけて……そのときに気づいたんだけど、ファウスト、あのパッケージのモデルしてるアイライナー使ってたんだよ、ブラックブラウンの! もっとよく見せてくれよって言って顔近づけたら、近いって怒られてさあ。あれすっげーいいよな、ファウストはキレイって感じだからもちろん似合ってるんだけど、あのメイクのままでパジャマ着てくれたらカワイイって感じもして絶対いいと思ってさあ、でも嫌だって突っぱねられて」
    「ネロ」
    「え、何?」
    「情報の振り幅が大き過ぎ。今絶対トレンドヤバいことになってるし、おまえはあとでファウストに怒られるよ」
    「ええっ、むず!」




    「こんばんは、『同じ視点で見ていた』のネロ・ターナーです。この番組、『同じ時間に聴いていた』は、これもう普通に言っちまうんだけど、人気三人組アイドルグループ、『同じ視点で見ていた』がお送りする、ラジオ番組です。毎週俺、ネロ・ターナーと、残りふたりのメンバーのうちのひとりが出演して、ふたりでお送りする形式です」
    「今日の担当は、ラスティカ・フェルチ。よろしくお願いします、僕の花嫁」
    「よろしくお願いします」
    「今日は、先日放送された音楽番組の話をしたいと思っています」
    「何組かのアイドルグループでコラボして、それぞれの持ち歌を交換して披露したんだよな」
    「僕たちの『タクトは軽やかに』という曲を、『巻き毛ちゃん』が披露してくれたね。僕たちは『漆黒の暁』の『Monochrome』を歌って踊ったよ」
    「『漆黒の暁』は世界観がしっかりしてるから、苦労したよな。まあ、そのへんの裏話をできたらと思います」


    「はい、というわけで、この間の音楽番組で曲交換というのをやったんだけど……なあ、婿さん、ちょっと聞きたいんだけど」
    「なんだい?」
    「ああいう場合さ、婿さんは元の漆黒の暁がやってる『Monochrome』に寄せて踊る? それとも、自分の得意な感じで踊った?」
    「そうだね、漆黒の暁に寄せる、というより、『Monochrome』という曲はコンセプトのイメージが強いから、そこから外れないようにというのは気をつけたかな。僕はどちらかと言うとしなやかなダンスが得意なんだけれど『Monochrome』には合わないだろう、とか」
    「あー、なるほど。婿さんは曲の世界観を再現する方に行くと」
    「そうだね。僕の最優先事項は、曲を表現することだから」
    「なるほどなあ」
    「シャイロックから話を聴いてね、あの曲は、サビとメロの強弱の違いを意識しているということだったから、僕もそこは抑えたんだ」
    「えー、そういうの教えてくれよ……」
    「大丈夫さ、きみのダンスはブラッドリーをとても意識していたからね。自然と強弱はできていたよ」
    「え、ほんとに? 意識してなかったんだけど、そうやって冷静に分析されると恥ずかしいな……」
    「ところで、どうしてそんな質問を?」
    「いや、巻き毛ちゃんが俺たちの『タクトは軽やかに』をやってくれたじゃん」
    「ああ! 文字通り、とても軽やかだったね。まるで小鳥たちがラインダンスをするようだった」
    「曲交換が決まった後、巻き毛ちゃんのファウストから呼び出されてさ。『どうしてもきみのように力を抜いた感じに踊ることができない!』って言うんだよ」
    「ああ、確かに、ファウストはきっちり踊るイメージが強いね」
    「そうなんだよ。MVのコメント欄とか見ててもさ、ファウストのが一番わかりやすいってファンもみんな言ってるだろ? まるでお手本みたいでさ。俺がたまに『先生』って呼ぶのはダンスの振りがいつでも正確無比だからなんだよ。だから俺は、俺みたいに踊る必要はないって言ったんだ」
    「そうだね。ファウストのダンスはとても魅力的だと思う」
    「だろ!? でも先生さあ、せっかくのコラボ、せっかくの曲交換なんだから、ファンはきみのように踊る僕を期待してるはずだって言うんだよ」
    「なるほど。一理あるね」
    「でもさあ、ファンはさ、俺がやると気だるげに見える振りが、ファウストによってびしっ!ばしっ! と決まるところも見たいと思うんだよなあ」
    「ううーん。確かに、どっちも捨てがたいね」
    「それで練習に付き合えって言われて何度も踊らされてさあ。ファウスト最初から本当にもう完璧なんだよ。練習する必要なんかないって何度も言ったんだけど。何なら俺の方が振り曖昧だった」
    「でも付き合ってあげたんだね、ネロ。ファウストのダンス、普段のネロに近かったもの」
    「いやあ、この間トレンドに入っちまったの怒られて、逆らえなかったっつーか……そういや、婿さんがかわいがってる仕立て屋くんもよかったよな。あの衣装、コラボのために仕立て屋くんがデザインしたんだって?」
    「そうなんだ。三人の魅力がさらに引き立っていたね。本当は服の製作まで全部やりたかったらしいけれどさすがに間に合わなかったと言っていたよ」
    「さらさらちゃんの『サマーコレクション』、セーラー服のMVでお馴染みの楽曲をやってたんだよな」
    「まるで、夏の日差しのように素晴らしかったね」
    「今回、普段のりんごと血しぶきとはだいぶ違うテイストなのに、ものにしてたよな。オーエンも珍しく、『ふん、いいんじゃない』って言ってたし。騎士さんは褒められたってわからなかったみたいできょとんとしてたけど」
    「クロエもとても喜んでいました」
    「今回は曲交換だったけど、せっかくりんごと血しぶきのセーラー服もできたんだから、さらさらちゃんと合体して七人で披露、とかやってみてほしいよな」
    「実はクロエ、二十一全員分の服のデザインをしてたよ」
    「えっ。相変わらずすげえな……もう今度は、二十一人で『サマーコレクション』やる?」




    「こんばんは、『同じ視点で見ていた』のネロ・ターナーです。この番組、『同じ時間に聴いていた』は、人気三人組アイドルグループ、『同じ視点で見ていた』がお送りする、ラジオ番組です。毎週俺、ネロ・ターナーと、残りふたりのメンバーのうちのひとりが出演して、ふたりでお送りする形式です、が……」
    「やあ。オーエンと」
    「ラスティカだよ。今日は三人でお送りするよ」
    「はい。この通り、今日は三人でお送りしたいと思います。というのも、大きなお知らせがあるからです。CM挟んで、それからお伝えします」


    「はい、では早速お知らせをしたいと思いま……なんだ、オーエン」
    「ずっと敬語になってるよ。似合わないからやめて。だいたい、公式SNSでもう発表済みじゃない」
    「はは……それでもなんか、緊張しちまって」
    「だいじょうぶです、ネロ。いつも通りに」
    「ああ……ええと、実は、俺たちの初のドームツアーが決定しました! 本当、夢みてえなんだけど、マジです」
    「ふん。やることは一緒でしょ」
    「会場が広いからね。その分、動きなど確認しなくちゃいけないことは増えるよ」
    「ふたりとも、現実的だな……あれ、ふわふわしてんの、俺だけ……? 東の魔法使いの仲間、ヒースやシノ、ファウストにもたくさんお祝いしてもらいました。それでもまだ、本当にやるのかなって気持ちが大きいんだけど」
    「西の魔法使いたちに言ったら、お祝いにイルミネーションでメッセージを表示させてくれるそうですよ。楽しみですね」
    「ふふん、騎士様にうらやましいだろってメッセージ送った。歯ぎしりしてればいいんだ」
    「めちゃくちゃ浮かれてるな!? あーえーと、チケットの発売はまだ先なんだけど、絶対いいものにしたいと思ってるので、ぜひ来てください。これからもよろしくな」
    「よろしくお願いします」
    「ふん。勝手に着いてくれば」
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