りつ夢りつ夢
部室の整理をしていたらいつの間にかとんでもなく時間が過ぎていたようで明るかったはずの空はすっかりまっくらになっていて少し怖くなる。もう6月も終わり掛けで日の出ている時間が長くなっているはずなのにこんなにも暗いのは相当な時間になってしまっているのだろう。スマホの電池も切れてしまっているし学校の時計も外を見て暗いのに驚いて慌てて出てきたものだから見ておらず正確な時刻がわからない。だからと言って今から時間を確かめるためだけにわざわざ今まで歩いてきた道をまた戻るのはいやすぎる。街頭の明かりを頼りに光源の少ない道を歩く。
いつもならもっと早く帰っているからこんなに暗くなるとは思っていなかったけれど思ったよりもずっと光がない。
「街頭増やしてくれないかな…」
独り言をつぶやきながらこんなところに夜遅くに一人でいる不安をやり過ごそうとした。一つ隣の道を行けば明るいところを進めるがそうすると家までの道筋がながぁい坂を上って下って上って下って……となるので今の疲れ切った自分にはとてもつらい。しかしこのまま歩き続けるのは精神的にも身体的にも休憩が必要そうなのでコンビニに寄ることにした。
来店ベルが鳴り夜のシフトの店員のやる気のないいらっしゃいませの声と冷房が私を迎える。最近は暑い日が増えて比較的涼しくなる時間でも暑い日が増えた。今日は比較的暑い日で暗い道を一人で歩く不安で気づかなかったが結構汗をかいていたようだ。涼みながら休憩しようと店の中を進む。
「あんたこんな時間に何してるの?」
けだるげな雰囲気の声が訝し気な空気をまとって私にかけられた。
「さ、くまくん?」
ステージで見るようなあまい表情とは違う少し冷たい視線はいつも通り、のように見えるが普段よりもっと冷たくも見える。
「あ、えと」
「今、何時かわかってる?10時過ぎてるけど」
「えっ!?」
驚きのあまり大声を出してしまい目の前の彼からの視線が余計に温度を下げた。あわてて頭を下げて店員のほうへもすみません、と声をかけると不機嫌な声で言われるあまりうるさくするなという言葉に肩を縮こませる。
「送ってくから何か買うなら早くして」
「や、悪いし大丈夫!」
「俺に女の子を一人で帰させるわけ?」
そういわれると困ってしまう。彼は騎士としてのアイドル活動をしている。もし今私と彼が話しているところを誰かに見られていたとして、そしてここで別れて帰ったとしたら。
彼自身にも彼のユニットメンバーにも悪いことが尾びれ背びれを生やされてないことないこと書き散らされることだろう。彼の人気を傷つけてしまうようなことをするのは本意ではないため本当に申し訳ないがお願いすることにした。
ささっと飲み物を購入し送ってくれる彼にもせめてものお礼として購入。入った時と同じようにやる気のない声を背中で受け止めながら並んで店を出ると自動ドアが開くと同時にむっと熱気が襲ってきて二人して顔をゆがめる。彼は暑いのが苦手だから早く帰らなければならない。せめて少しでもましになるようにとぬるくなってしまう前に彼用に購入した水を渡した。
きょと、としていたもののすぐに受け取りありがとうと返事をしてぱきっとキャップを開けると水を飲み干す。ごくり、と動く喉ぼとけを見てこんなにきれいな顔をしているのに男の子なんだなぁと思うとどきどきと胸が高鳴った。
りつくんとは昔近所に住んでいるということで仲良くしていて、引っ越してしまった今では遠くなってしまったもののそれまではよく一緒にまおくんも含めて遊んでいたものだった。引っ越してからも仲良くしようと約束していたけれど学校も離れてしまったため一緒に遊ぶ時間は無くなり、中学生になって行動範囲が広がって会えるようになった時にはりつくんは今のような冷たい反応をするようになってしまっていた。
まおくんは気にすんなよ、と言ってくれていたけれどずっと彼のことが好きだった私にとってはとてもつらいことで、久しぶりにあったことで緊張したものになっていた私の態度はよりよそよそしいものになってしまったのだった。その時の空気感はいまだに引きずってしまっており曲がりなりにも幼馴染だった者同士の間に流れる空気としては異様だろう。
黙り込んだまま家まで歩く私たち。ふと少し先を歩くりつくんが行こうとした道に気づくと声をかけた。
「まって、そっちからだと遠くなるからこっちの道を…」
「いや?」
「え」
「俺と長く歩くの嫌なの」
「そんなことないけどでもりつくん暑いの苦手だし…」
そんなことをぶつぶつと話す私の手をつかんでりつくんはずんずんと先に進んでいく。
「俺が良いって言ってるんだから暑いとか気にしないし」
繋がれた手に気を取られて引っ張られるまま歩いている私の先を進むりつくんの表情は全く分からない。それでも握られた手はしっかりとつながれていた。
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いつの間にか着いていたいた自宅の前で彼が帰ってしまった後も呆けているとガチャっと音がして母親が顔を出した。
『あんたおそくまで凛月くんに迷惑かけて……まったく』
「え、なんでりつくんと一緒にいての知ってるの」
『コンビニであんた見つけたから送ってくれるって連絡くれたのよ』
いつの間に、もしかして会計してるときだろうか、それとも手をつながれたことでぼーっとしていた時になのか。わからないままだが遠回りの道をゆっくり歩いたせいで汗はかいているし足は疲労がたまりきっている。衝撃と疲れで食欲もないしさっさと風呂に入って寝てしまおうと脱衣所に入って服を脱ぐ。
体を洗って湯船につかって体をほぐしていると先ほどのりつくんの大きな掌の感触を思い出してしまった。ざばっとお湯に頭を突っ込んで忘れようとするが余計な音が何も聞こえなくなったせいで俺と歩くの嫌なのと言った声、そして俺が良いって言ってるんだから気にしないし、と言った声が思い出された。
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「まーくんまーくんまーくん」
「おおうどしたどしたいきなり電話してきて」
「………手」
「手?」
「あのこと手、繋いじゃった……」
「は!?まじで!?いつの間にっいってぇ足打った!!」
「どうしようねれないかも……」