FF14未来幻想譚「ミコト」
囁くように呼びかける。
「あ……う……?」
呼びかけられた少女は白金色の髪を揺らしながら日差しから顔を背ける。
寝ぼけ眼のその瞳に、自らが映るように顔を寄せ、再び名を呼ぶ。
「ミコト、朝だよ」
「う、うぅん……」
未だ夢から覚めきれない、白金色の少女に微笑みを浮かべ、黒髪の少女、アザミは昨晩の騒ぎに思いを馳せた。
「たまの休息だ。酒でも飲んであることないこと騒ごうじゃないか」
サンクレッドが発案した突発的な飲み会に、暁の面々は様々な反応を示した。
「そうですね……久々に明日は何事もない身、たまにはサンクレッドにお付き合いするのも宜しいでしょう」
軽いサンクレッドの提案に、一番に乗ったのは意外なことにウリエンジェだった。
「あら、そういうことなら私もお邪魔しようかしら」
ついでヤ・シュトラが妖艶に微笑み、
「私とアリゼーは、まだお酒には早いのでね。それ以外でもよければご一緒しよう」
「ちょっと!勝手に決めないでよね!……行くけど」
アルフィノとアリゼーも参加することとなった。
「ふっふっふー!そうとなれば数多のギルドで修行した、もちろん調理師ギルドでも名声を博した私の出番でっすね!」
タタルが威勢よく気張り、いつも通りといえばいつも通りの暁の面々が揃った。
「あの、わたしはお酒はちょっと……苦手なので……」
ミコトが誇示するも隣に座する友人が許さなかった。
「ミコトはちょっと舐めただけで寝るからな。今晩はコイツ役に立たんぞ」
「アザミ!」
机をバンと叩き立ち上がったミコトの糾弾の声もどこ吹く風と聞き流した黒髪の少女、アザミは視線をサンクレッドに向けて問うた。
「酒はワインで良いか?醸造所にアテがある。エールが良いならそれにも心当たりがあるが」
「言うじゃないか、アザミ。強い酒には心当たりがあるか?食事の材料はタタルと……俺とウリエンジェで手配しよう」
「承った」
短い返しにサンクレッドはニヤリと笑い、続けて問う。
「掛けるか?誰が最後に残るか」
「最初に、ならミコトに全額ベッドのところだがな。勝負するなら受けて立とう」
「アザミ!?」
ミコトの悲痛な叫びを再び受け流し、暁のメンバーは飲み会と合いなった。
「見事なまでに最初に潰れたな」
誰にともなく溢した呟きは、おそらくミコトに向けられたものだろう。
「わたしだってお酒くらい飲めるもん!」
と言い張って聞かなかったミコトに、タタルは恐る恐るといった風に薄めたエールを差し出した。
ぐっと飲み干した瞬間に顔を真っ赤にしてブっ倒れた。
「8割がたソーダ水で割ったエールで倒れるとは……思いもしなかったのでっす……」
タタルがぱたぱたとタオルで仰いでやるうちにも、顔を赤くしたり青くしたりぶつぶつと何事かうめいているミコトがいる。
「じゃあ早速、勝負といこうじゃないか、アザミ」
「臨むところだ」
そんなミコトを他所に、サンクレッドとアザミは酒比べに興じる。
まずワンショット。
「このくらいで根を上げられちゃあ勝負にならないからな」
サンクレッドが不敵に笑うのと、アザミが酷薄な笑みを浮かべるのは同時だった。
「良かったのか?わたしは、強いぞ」
「負けんぞ」
アザミの知る限り、一番強い酒を持ってきたつもりだったが、サンクレッドは一息で飲み干した。
二杯、三杯、四杯と続けるうちに一緒になって飲んでいた暁メンバーは次々と辞退した。一部トイレに駆け込んだものもいる。
ウリエンジェやヤ・シュトラに関しては最初から勝負に関わるつもりがなかったようで、紅茶を飲み出している。
「やるじゃあ……ないか……」
「なんだサンクレッド。もうギブアップか?」
「まだまだ」
挑戦者だった者たちもギャラリーに加わり、生来の冒険者魂に火をつけたのか掛けまで始まった。
胴元はタタルである。
15杯目を超えた頃、
「ひっく……サンクレッド……なかなかやるじゃあないか……ひっく」
「アジャミこしょ……やるじゃあにゃいか……」
既に二人ともぐでんぐてんである。
「くくっ……呂律が回ってないじゃないか……ひっく……そろそろギブアップしたらどうだ?」
「そっちこしょ……しゃっくりがとまらなくなってるじょ……」
「じょ……」
ひひひと品の無い笑いを上げるアザミに釣られて、サンクレッドも笑い出す。
暁の面々は、アザミが飲みすぎると笑い上戸になるとここで初めて知った。
「さぁ、次だ」
「のじょむところだ」
どう見ても勝敗は決しているのだが、サンクレッドはそれでも挑み続けた。
結果。
20杯目を目前にして、サンクレッドは倒れた。
なみなみに注がれた酒を前に机に突っ伏し寝始めたのであった。
「勝ぁったぞぉぉぉ!!!……ひっく」
勝利の雄叫びを上げるアザミに、ハラハラと見守っていた暁の面々は歓声を上げる。
しゃっくりで微妙に締まらなかったのは言うまでもない。
アザミはツカツカと、酔っているとは思えぬ確かな足取りでミコトの元へと歩み寄り。
角を擦り合わせた。
「勝った、ぞ……」
何者にも負けない。
この白金の少女が居る限り。
誰にも、何にでも打ち勝ってみせる。
そういった気迫のようなものを一瞬見せた後、アザミはミコトを抱き寄せたその姿勢のまま、スヤスヤと寝息を立て始めたのだった。
昨晩の騒ぎはどこへ行ったのか。
静謐な朝はミコトとアザミ、二人だけだった。
傍観に徹していたウリエンジェあたりが運んでくれたのだろう。
二人は砂の家にある一室に寝かされていた。
アザミも正直、サンクレッドを負かしたところまでしか覚えていないが、この白金色の髪を持った少女を前に、二日酔いなど秒で吹き飛んだ。
守らねばならない。
何物にも変えて、しかし自分の命は引き換えず。
二人笑ってこの地に再び降り立つために。
そうしてアザミは、白金色の少女に呼びかける。
「ミコト」
「あ……う……?」
呼びかけられた少女は白金色の髪を揺らしながら日差しから顔を背ける。
寝ぼけ眼のその瞳に、自らが映るように顔を寄せ、再び名を呼ぶ。
「ミコト、朝だよ」
「う、うぅん……」
未だ夢から覚めきれない、白金色の少女に微笑みを浮かべ、黒髪の少女、アザミは昨晩の騒ぎに思いを馳せた。