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    流菜🍇🐥

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    TF主ルチ。TF主くんが死後に残す手紙を書いたものの、ルチに見つかって処分されてしまう話です。ちょっとシリアスです。

    ##TF主ルチ

    一生分のラブレター テレビを付けると、再現ドラマによるドキュメンタリー番組が放送されていた。余命宣告された男性とその妻の、永遠に続く絆の話である。夫は病に苦しみながらも妻を想い、妻は夫を支え続け、二人は死の間際まで側にいた。それだけなら、テレビではよくある夫婦の話にしかならない。この夫婦がドラマとして描かれているのは、その後の話があるからだ。
     夫が亡くなった後、妻が遺品を片付けていると、一通の手紙が見つかった。そこには妻への感謝の言葉と、家の中にたくさんの手紙を隠したことが記されていたのだ。妻が部屋の中を探してみると、すぐに三通の手紙が見つかった。どれも妻への感謝の言葉と、熱烈な愛の思い出が記されたラブレターだったのだ。
     その後も、家の至るところから手紙は見つかった。探し物をしている最中に、古い本棚を調べた時に、年末の大掃除の最中に、予想もしなかった場所から出てくるのだ。それは何年にも渡って続き、夫の死から五年以上経った今でも、手紙は次々と出てくるらしい。まるで、天国から送られたラブレターのようだと、妻は幸せそうに語っていた。
     その姿を見て、僕はこんなことを考えてしまった。僕がいなくなった後の、ルチアーノのことである。僕がずっと目を逸らし続けてきたことを、そのテレビ番組は突きつけてきたのだ。
     ルチアーノは、無限の命を持っている。見た目は幼い子供の姿をしているが、彼の正体は戦闘を目的としたアンドロイドなのだ。ちょっとのことでは傷すらつかないし、壊れたとしてもパーツがある限り何度でも復活する。エネルギーもモーメントを経由して充電しているというから、簡単に尽きることはないのだろう。何度もパーツを継ぎ直せば、理論上は永遠の時を生きることができるのだ。
     つまり、こういうことである。ルチアーノは、僕が死んだらひとりぼっちになってしまうのだ。神の代行者として任務をするだけの生活を送っていた彼には、友人と呼べる相手がほとんどいない。いや、正確にはそうではないのだ。自身が永遠の命を持つと知っている彼は、意図的に他者との関わりを断っていた。

    ──全く。僕は相当な愚か者だよ。まさか、人間に対して心を許してしまうなんてね。僕はもう、神の代行者ではいられない。君が責任をとってくれよな

     いつだったか、泣きながら目を覚ました夜中に、彼はそんなことを言って自嘲的に笑った。それは冗談のつもりだったのだろうけど、僕にとっては冗談なんかじゃ済まなかった。自分がしていることの非道さを、その言葉は辛辣に突きつけて来たのだ。
     僕は、彼にとって特別な存在なのかもしれない。そう思って優越感に浸ることもあるが、現実はそんなに能天気な話ではないのだ。僕の存在は、確実に彼の心を蝕んでいる。そしてその侵食は、僕がいなくなってからが本番になるのだ。
     穴が空きそうなほどに画面を見つめてから、僕は頭の隅で考える。僕も、ルチアーノに手紙を残したらどうだろうか。テレビで紹介されている夫婦のように、たくさんの手紙を残すのだ。今の僕は危険な状況に身を置いているから、いつ死ぬかも分からない。たくさんの言葉を残せるように、明日から用意を始めることにした。
     手紙を残すと言っても、今から隠すわけにはいかない。色とりどりの便箋に書いたラブレターは、空き缶に入れて押し入れの隅に隠した。隠したと言っても、ただタンスの裏に置いてあるだけだ。ルチアーノの観察眼なら、すぐに見つけてしまうだろうと思った。
     案の定、彼はすぐにその手紙を見つけ出した。お風呂から上がって自分の部屋に向かうと、ルチアーノが待ち構えていたのだ。部屋の入り口で仁王立ちすると、ぎろりと僕を睨み付ける。何事かとドキドキしていると、例の空き缶を差し出した。
    「おい、なんだよ。これ!」
     缶をガタガタと振りながら、彼は鋭い瞳で僕を見上げる。怒りの理由が分からなくて、僕は困惑してしまった。視線を左右に逸らしながら、問いかけの言葉を探していく。その様子を見て、ルチアーノはさらに怒りを露にした。
    「なんだよ。そんなに狼狽えて、やましいことでもあるのか?」
     至近距離まで詰め寄られて、僕は言葉を失ってしまう。すぐに我に返ると、慌てながらも返事をした。
    「無いよ! どうしてそう思ったの?」
    「だって、これってラブレターだろ! こんなに集めて、いったいどうするつもりだったんだ!?」
     勢いよく言うと、彼は缶の蓋を開ける。そこに入っているのは、僕が用意したラブレターたちだ。一日一通ずつ書いてはいるけれど、まだ十通ほどしか完成していない。
     その姿を見て、僕はようやく理解した。ルチアーノは、この手紙を僕が誰かから受け取ったものだと思ったのだろう。ラブレターを集めていると誤解したから、彼はここまで怒っているのだ。
    「違うって。誤解だよ。これは、僕がルチアーノに送るために書いたんだ」
     そう言うと、僕はそのうちの一通を手に取った。一番目の手紙として部屋に残すための、最初の説明の手紙である。ピンク色の封筒に赤いシールを貼った、いかにもなラブレターだった。
    「ほら、開けてみて」
     手紙を受け取ると、ルチアーノは疑り深そうな目で封を開けた。中の便箋を取り出すと、視線を動かして文字を追う。後半を読む頃には、仄かに頬が染まっていた。
    「確かに、ラブレターだな」
     すっかり覇気を失った声で、ルチアーノは僕に言う。恥ずかしがっているのは、勘違いのせいなのだろうか、内容のせいなのだろうか。後者なのだとしたら、少し恥ずかしく感じてしまう。
    「ね。ラブレターでしょ」
     そう言って缶を受け取ろうとするが、彼は応じなかった。両腕で抱え込むようにして、僕の前から引き離す。不思議に思っていると、ほんのりと頬を染めたまま怖い顔をする。
    「何のつもりで、こんな量の手紙を書いたんだよ。何か変なことでも企んでるんじゃないか?」
     またしても、僕は答えに迷ってしまった。僕の計画は、企みと言えば企みかもしれない。でも、決して悪いことではないと思うのだ。
    「変なことは企んでないよ。ただ、たくさん手紙を残しておけば、ルチアーノが寂しくないかなって思って」
     僕の答えを聞いて、彼は怪訝そうな顔を見せる。不満そうに口を尖らせると、抗議の言葉を発した。
    「君は、僕が寂しがり屋だって言いたいのか? 君と離れ離れになったからって、寂しがったり泣いたりなんてしないぜ」
    「そうじゃないよ。これは、僕がいなくなった後に読んでもらう手紙なんだ」
     僕は、簡単にこれまでの経緯を説明した。テレビで見た夫婦のことと、僕の方が先にいなくなってしまうという現実のことだ。僕がこれだけ悩んでいるのだから、ルチアーノだって考えない日は無いだろう。丁寧に説明すれば、分かってもらえると思ったのだ。
    「ふーん。そう言うことか……」
     話を聞き終えると、彼は静かに呟いた。少し考え込んでから、缶の中の手紙に視線を向ける。中の手紙を掴むと、ぐしゃぐしゃと音を立てて握り潰した。
    「えっ!?」
     突然のことに、すぐには身体が動かなかった。一瞬遅れて、彼から手紙の缶を奪い取る。急いで蓋を閉めるが、手の中に残された手紙たちは、握力でぐちゃぐちゃにされてしまっている。両手が空くと、彼はその手紙を破り始めた。
    「何するの! せっかく書いたのに!」
     悲惨なことになっていく手紙を見ながら、僕は抗議の声を上げる。これは、僕が心を込めて書いたルチアーノへのラブレターなのだ。彼が一人になった後に寂しくないように、思い出をたくさん詰め込んだものである。
     ルチアーノは、破った手紙をゴミ箱に放り込んだ。そのままの流れで、僕から缶を奪おうとする。さすがに中身は守りたかったから、両手を伸ばして死守した。
    「そんなもの残されても、何の役にも立たないだろ。僕は要らないよ」
     辛辣な言葉に、少し胸が痛んだ。僕が心を込めて書いた手紙も、彼にとってはどうでもいいものなのだろうか。
    「どうして? 思い出の品は、あればあるほど嬉しいでしょう?」
     悲しみを抱えながら尋ねると、彼は真っ直ぐに僕を見た。少し強い口調で、真っ正面から言葉を吐く。
    「人間が残せるものなんか、僕にとっては一瞬で消費される程度でしかないんだよ。そんなものを残されても迷惑だ」
     そう言われたら、僕には何も言い返せなかった。彼の言うことも、一理あるような気がしたのだ。永遠の命を持つルチアーノにとって、僕の残す全ては一瞬の瞬きでしかない。下手に思い出を残しても、悲しみを増やしてしまうだけなのかもしれないのだ。
    「そっか……」
     悲しくなって俯くと、ルチアーノは僕の手から缶を奪った。投げ捨てるように床に置くと、僕の首筋へと腕を回す。
    「君は、手紙なんかを残す必要はないんだよ。僕と君は、同じ闇に落ちるんだから」
     耳元で囁かれた言葉は、僕には理解できなかった。聞き返すよりも先に、彼は僕の側から離れていってしまう。缶の中身に手を伸ばすと、中の紙を切り始めた。
     その後ろ姿を眺めながら、僕は首を傾げる。彼の言葉は、いったい何を意味しているのだろうか。考えてみても、少しも見当がつかなかった。
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