タイトルまだわかんないよ今日はいつもより遅くなってしまった。もう皆帰っているに違いない。
荷物を運び入れるピアーズに、「退屈させてしまったな」とクリスは謝った。
「いえ」
首を振るピアーズに、「少し飲んでいくか？」とクリスは誘った。
クリスの家で酒を飲むのは久しぶりだった。
クリスは隊員と親しく交流したことから、皆で集まって飲むこともあったが、このところ彼は隊を離れていることが多かった。
あの日以来だ。
カウチに身体を預けて二人で飲む。クリスはバーで飲んだ時と同じウィスキーで、ピアーズは冷蔵庫に残っていたビールをいただいた。
ハーフパンツに履き替えたクリスの膝が目に入って、少し落ち着かない気持ちになった。視線を外すピアーズに、勘違いしたクリスが「すまない」と謝る。
太ももに貼られたパッチから目をそらしたと思われたのだろう。
「not pretty, huh
まだ生々しい傷が隙間から見えた。
「違う、違います！」
困ったように笑って手近なブランケットをかけて視界から外そうとするクリスを慌てて止める。
「隊長の傷は前線で戦った証です」
気持ち悪いなどと思うわけがない。彼に憧れて集まったアルファのメンバーなら誰でもそうだ。
「thanks
肩を叩かれ、照れくさくなってうつむく。
「そういえば、何か難しい問題があるんですか」
話題を変えようと口を開く。
律儀なところがあるクリスは基本的に書類を残さない。だが、珍しく今日は未決裁が残った。
帰りが遅くなったのも、おそらくその書類のせいだろう。
訊ねるピアーズに、クリスは僅かに眉を上げた。
「気付いていたのか」
息を吐きだすように言ってグラスを置く。
「次の任務だ」
クリスの答えに背筋を伸ばす。
「簡単ではないだろう。しかも、俺はこの脚だ」
後方支援になる、とクリスは自分の手を組んだ。
言葉を止め、額を絡めた指に押し付ける。
「大丈夫ですか？」
ピアーズの問いにクリスは口を噤んだ。
グラスを取り、一口傾ける。
無意識にか、傷を手で押さえている。
クリスが支援、同行した隊は大きな被害を被ったという。
1個小隊が投入され、半分が死んだ。前代未聞だ。
B.O.W.は日に日に強化されていく。数も多い。
未知の脅威と対峙するのは簡単なことではない。
「キャプテン、大丈夫です」
俺たちは大丈夫です、と繰り返す。
そんな部下を見てクリスの瞳が曇ったことにピアーズは気付かなかった。

クリスがサインした任務は、B.O.W.開発の疑いがある工場の急襲作戦だ。
ヘリまで見送りに来たクリスが、「必ず全員で帰れ」と隊員に声をかけた。
キャビンから見るクリスは、離陸と共にみるみる小さくなった。
何にでも人間は慣れるらしい。
はじめはあれほど恐ろしかったB.O.W.も、今は冷静に見ることができた。
位置を確認し、撃つ。これまでと何も変わらない。
『東に2体、アルファ-2が始末しろ』
ヘッドセットからクリスの指示が聞こえる。
ジェフが測位し、ピアーズが引き金を引く。
『ナイスシュート。ピアーズ、ジェフ、腕を上げたな』
クリスの声。
「脅威を排除。隊に合流します」
手早く片づけて立ち上がる。
「キャプテン」
ヘッドセット越しに呼びかける。
「俺が皆を守ります」
大丈夫です、と繰り返す。
「全員帰ります」
アサルトライフルを構え、合流ポイントに向かって走った。