魏無羨が死期を悟り、景儀と思追に遺言を残す話「思追、景儀」
昔は雲深不知処中に響き渡る大きな声だったのに、今では蚊の飛ぶ音の方が大きい。
「魏先輩、どうされましたか」
「お前達二人にお願いがあるんだ。もし俺が死んだらこの身体は莫玄羽として弔ってあげてくれ。含光君の墓には陳情をいれてくれないか?」
二人の正座した膝の上に乗る拳はギリギリ音を立てて固くなっていく。
「魏先輩、それは」
「俺はこの身体を借りてるようなもんだ。魂が無くなればこれは莫玄羽だ。俺の死体は遥か昔に跡形も無くなって消えている。だから……せめて藍湛の隣に、陳情を置いて欲しいんだ」
思追と景儀にとって、目の前の人間は魏無羨以外の何者でもない。
しかし、彼は莫玄羽に献舎された死人である。魂がこの器から出ていったら、魏無羨はなにも残らないのだ。
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