それは、常に頭の中にある疑問点だった。
「どうしてイデアさんはマジカルペンを携帯していないんですか?」
アズールは思った以上にイデアのことを知らない。知らないことを知りたいと思うのは人の性であり、人魚の好奇心であり、愛情の一部でもある。
寮長の証である杖はあるんですか、とぼんやりと聞けば、イデアはあー、と適当な声を出した。
「ないよ」
「ない? 入学と同時に配られたのでは?」
「持ってない。拙者が、この学園に入学する資格がないってことですわ」
淡々と告げられた事実にアズールは駒を取り落としそうになった。昼下がりのうららかな教室で、いつもの口調と変わらずに言われた言葉が強く突き刺さる。
どうしてだろう。今目の前にいるイデアがとても遠い気がする。知らないことを知りたいと思った、イデアのことを知っている自分になりたかった。だというのに、何も教えられないことにアズールは唇を噛む。
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