「輝ニってさ〜、オオカミじゃん?」
「……は?」
比喩表現なのはわかっているが何故そんな発言に至ったんだろうか。よほど怪訝な顔付きを向けていたのか、胡座の上に肘をたて、そこに顔を寄せていた拓也が慌てて「いやっ違うくて!」と言葉を繋げた。
「ほらっ!"ウルフ"って、オオカミだろ?」
「…ベオウルフモンの話か」
手元のデジヴァイスへと目線を下げカチャリと揺らす。確かに、ベオウルフモンにはまんま狼が入っているし、言われてみたらヴォルフモンもガルムモンも狼っぽく見えなくもない。十闘士それぞれにモチーフ等があるのなら、光の闘士は狼なのかもな。
「…それが、どうした」
「そんな睨まなくていいじゃんか…」
「お前が突拍子もない事を言うからだろ」
仮眠を取った後、見張りを買って出た拓也と交代すべく出向いたのだ。おしゃべりしてないで早く休みに行けばいいのにと思いながら、焚き火へ薪をくべる。パチリと弾ける音のあと、何がそんなに面白いのか、へらへらと笑った顔のまま会話を続け出した。
「いや〜お前ってさ、オオカミってより…わんこ、ってのが似合うよな」
「よーしわかった、表でろ」
「おお〜怖い怖い…」
今度こそギッと睨みを効かせてみたが拓也の笑みは崩れない。くすくすと笑い、帽子を脱ぎながらゆっくりと立ち上がった。
「まっ冗談はさて置き…ふあ〜……見張り、よろしくな」
「……」
ようやく眠る気になったのか、ぐっぐっと伸びをしてみんなが寝ている方へと脚をむけた。
は?なんだったんだ今のは。
言い逃げする気か…?
そのまま見送ればいいのに、何故か負けたような気になった俺は、ひらりと振ってきた拓也の手首を掴んだ。
「えっ…なに、」
「…あんまり調子良い事言ってると、そのオオカミにパクリと食べられてしまうかもしれないぞ」
「へっ」
呆けた顔をみせる姿に、満足げに笑みを浮かべながら両手を顔の横にやって、爪を立てるように五本指に力を込めた。
「ガウッ」
一瞬流れる沈黙。薪がもう一度弾けた。それをきっかけに拓也がわなわなと震えだし、ぴゃっと飛び上がる。
「なッ…なッ、なにっ?!」
「くっ…あははっお前!なんて顔してんだ」
「ばッ…はっ、はぁあ?!」
「声落とせよ、みんなが起きてしまう」
毛を逆立たせる勢いで睨みつけてくる。そういうお前の方こそ動物みたいだぞと口を開きかけたとこに背中を向けられ、小声で「寝るっ、おやすみ」とスタスタ歩いて行ってしまった。
「……なにがしたかったんだ、アイツ」
腑に落ちないとこはあるけれど、俺一人しか起きてない空間じゃ当たり前に誰からも返答はない。その代わり、パチリと薪が返事をくれた。
「拓也お兄ちゃん、なにかあったの?」
「んー?別になんもないけど…?」
「じゃあどうして輝ニのこと避けてるのよ」
「はッ…さっ避けてなんかねーからっ!」
「嘘つけ、お前輝ニに対してだけ妙によそよそしいぞ」
「…何かあったのか?」
「さあ…まったくわからん。俺、何かしたのか?」
「俺に聞かれても…」