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    同棲している💛💜のお話。
    なんてことない冬の朝。

    #Lucashu
    #CASHU_LS

    朝に弱い君のために。 .

    まだ重い瞼をゆっくりと持ち上げ、ひんやりとした空気から逃げるように毛布を肩まで引き上げた。
    いつもは朝早くからランニングに出かけるルカも、さすがにこの寒さではそうもいかない。
    枕の付近をごそごそと探りスマホを手に取ると、眩しい光で薄目になりながら時刻を確認する。どうやらアラームが鳴る数分前に目を覚ましたらしい。得をしたのか損をしたのか。いまいち答えの分からないまま騒ぐ寸前のアラームを止め、ルカは自身の隣に視線を落とした。
    こちらに体を向けながら静かに寝息をたて、寒さに背を丸めるかわいい恋人、シュウ。
    つんつん、と柔い頬を優しくつつくと、少しだけ開かれていた口がきゅっと小さく結ばれた。そんな子どもみたいな仕草が可愛らしくて、ルカは愛おしそうに目を細める。
    シーツに落ちた髪を掬いあげ肩の後ろへ流すと、そのまま頭を撫でるように髪に指を滑らせた。いつもは綺麗に形作っている髪が無防備に垂れ下がっている。そんな姿を自分に見せてくれることが今更ながら嬉しくてたまらなかった。
    一通り寝顔を眺め満足すると、ルカはシュウが目を覚まさないようにゆっくりとベッドから抜け出す。この頃急に寒さが厳しくなったが、ルカにはそれを我慢して早くリビングへ向かう理由があった。


    「うぅ〜さむっ…。」
    冷気に手のひらを擦り合わせ、足早にリビングのストーブをつけた。そしてパタパタとキッチンへ移動し、戸棚からサイフォンを取り出す。手早くコーヒー粉を準備し、水を入れたフラスコの下に灯した火を潜り込ませた。忙しい朝はハンドドリップで済ませることが多いが今朝はたっぷりと時間がある。
    フラスコの水はカップ1杯分、もちろんシュウのためだった。以前のシュウはコーヒーだったらなんでもいいからと適当に大容量の物を選んでいたが、ルカがこのサイフォンをプレゼントしてからは幾分かこだわるようになったらしい。シュウが先に起きた朝には、サイフォンでコポコポと沸くコーヒーをじっと観察する後ろ姿を見ることが出来る。だがそれは秋までが見頃で、冬はめっきり減ってしまった。理由はひとつ、シュウが寒さに負けるからである。同棲し始めた頃は、生活習慣を直す良いきっかけにもなるからとルカに合わせて朝起きていたが、ここ一週間ほどでそれは途絶えてしまった。それでも昼には起きてくるが、「ルカが朝起きるならその時間に僕のことも起こしてほしい。」と何度も強請られ、ルカはその姿を思い出すと可愛らしくて心のどっかがきゅんと鳴るのだ。


    こぽりこぽり、とフラスコが心地よい音を鳴らす。ロートを添わせ沸騰しているのを確認し、しっかりと差し込んだ。シュウに美味しいコーヒーを飲んで貰いたい、と淹れ方を勉強したルカの攪拌は見事なものである。
    二度の攪拌をし、ロートからコーヒーが抽出される。コーヒー液が徐々に無色透明だったフラスコへ落ち、あっという間にその色を塗り替えてしまった。
    落ちきったのを確認したルカは、次にストーブの前へ腰を下ろす。ソファからシュウお気に入りの毛布を手に取り、端を持って広げストーブの前に構えた。静まり返ったリビングで、じっくりそのまま待つ。まだシュウが起きてくる気配はなかった。
    掴んだ指先がじんわり熱くなってくる。それを合図に、温まった面を内側にし冷えてしまわないようくるくると巻いて抱き抱えると、それを持ってルカはまた寝室へと向かった。


    *


    「シュウ〜、朝だよ。」
    寝室は相変わらずひんやりとした空気に包まれていた。軽く身震いをし、案の定まだ眠っていたシュウの肩をぽんぽんと軽く叩く。少し待つとゆっくりと開き、薄い隙間からアメジストがルカを捉えた。
    「ん…おはよるか…。」
    「おはよシュウ。体起こせる?」
    そう言いながら先程あたためた毛布を広げてみせると、シュウはまだ目を瞑ったままのそりと体を起こした。そしてそのまま、ぼすんっと毛布越しにルカの胸に倒れ込んでくる。それを毛布で包み、ぎゅっと抱きしめた。
    「…あったかぁ。」
    「うん、あっためてきた。」
    遠慮なく飛び込んできたところや、まだ目を瞑っているのを見るに、完全に体を預けているのがわかる。
    さっきまで冷気に晒され冷たかった頬に触れると、ほんのり温かくなっていた。


    これがルカの最近の楽しみだった。普段のシュウはどちらかというと甘え下手であまりくっついてきたりはしない。人との距離は割と近いためこちらから寄っていっても離れたりはしないが、ルカはシュウ自らが甘えに来て欲しかったのだ。そこで、この頃の寒い気候を上手いこと利用し思いついたのがこれだった。
    ストーブでしっかりあたためた毛布を寒い寝室へ持っていき、広げてまっていると恋人が寄ってくるので、それをぎゅっと抱きしめて懐におさめる。なんとも動物に仕掛ける罠のよう。そして極めつけはリビングで待つ淹れたての美味しいコーヒーである。

    ルカはこのためなら冬の寒さなんてへっちゃらになるし、コーヒーの淹れ方だってマスターする。
    そして寝ぼけているのか腕の中ですりすりと胸に頬を寄せるシュウが可愛くてたまらない。最高の朝。

    「リビング行こうか、このまま連れてくよ?」
    「ん……。」
    きちんと返事をしたのを聞き、シュウの膝裏に腕を差し込んでひょいと持ち上げる。もこもこに包まれている姿が赤ちゃんみたいだなぁと、毎朝思っているのは内緒である。ルカは安定するようしっかり抱き抱えると、そのまま寝室を後にした。


    *


    「はい到着。ちょっとまってて。」
    リビングは過ごしやすい室温になっていた。
    また眠ってしまいそうな毛布の塊をソファへ降ろし、キッチンにコーヒーを取りに行く。
    フラスコに触れると、多少は落ちているものの寝起きには飲みやすいであろう温度だった。淹れた直後よりは冷めているけれど、人肌よりは全然あたたかい。この確認もなんだか赤ちゃんのミルクを用意しているみたいだなと、ミルクとは正反対の色をしたコーヒーを見て思う。それの相手がいつもしっかりしているシュウなのだと思うと自然と頬が緩み、それを抑えながらまだ新しい真っ白なカップにコーヒーを注いだ。

    「コーヒー淹れたよ、ここ置いておくね。」
    「ん、るか…。」
    カップをテーブルに置き、シュウの隣に腰掛けた。すると時間が経って毛布が温かくなくなってしまったのか、自分より高い温度を求めて片腕にくっつてくる。
    「ふふ、まだ寒い?」
    全てが確信犯である。ルカは内心ガッツポーズをしながらも、感情を押し殺し優しく笑みを浮かべた。
    でも結局それだけじゃ足りず、シュウのことをそっと抱き上げて自分の膝に乗せる。寝室でやったのと同じように抱きしめると、シュウがふにゃふにゃ笑った。
    「んふふ、るか体温たかいよね。あかちゃんみたい。」
    「………そう?」
    「うん、さいきん毎朝おもってた。」
    それは今のシュウだけど?と思ったしなんなら口から出そうだったけど、それを言うと離れてしまいそうだからなんとか飲み込む。毛布に包まれて人の膝の上でふにゃふにゃ笑って、目は開いてない。これを赤ちゃんと呼ばずになんと呼ぶのか。
    「シュウまだ寒いんでしょ。コーヒー飲んだらあったまるよ。」
    「…ん、ありがとう。」
    どうぞ、とカップを渡せば、まだ眠そうなぽやぽやした顔でひとくちコーヒーを飲むシュウ。いつも片手なのになんで両手で持ってる?もしかして実は自覚ある?
    「…どう?おいし?」
    「うん、るか上手。」
    ありがと、と一言添えられたカップを受け取りテーブルへ戻す。ルカは褒められてしっぽぶんぶんである。


    しばらくそのまま二人でくっついて、抱きしめたままなんとなく体を揺らせば、また落ちていく瞼。そして耳をすませば、微かに聴こえる小さな寝息。
    「ふ、また寝ちゃった。」
    あんなに起こして欲しいと強請ってきたのに、ちょっと誘導すればまるで揺籃に乗せられたみたいに眠りに落ちていく。
    なんて無防備なのか。信頼してくれているのが丸分かりで、逆に心配になってしまうほど。
    けれどそれが可愛くて、愛しくて、たまらなくて。

    幸い今日の配信は昼過ぎからだからそれまでに起こしてあげればいいかなんて思いながら、あどけない顔に頬を緩める。
    「おやすみ、シュウ。」
    さらりと前髪を避け、おでこに軽くキスをした。
    直後、ルカの顔がぶわっと赤くなる。
    「なっ、なにやってんの俺…!!」
    完全に無意識で、自分でも驚いた。
    シュウは寝てるし、この家にいるのは二人だけだから別に誰に見られた訳でもないのに。恥ずかしくてどんどん顔が染まっていく。


    けれどいつの日かこれが冬の間の日課になるし、ルカは恥ずかしくてこの話を墓場まで持っていこうとする。知っているのは自分だけ。
    と、思っているだけ。実は起きてたり。起きてなかったり。

    そんな二人の冬の朝。



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