[へし燭]おとない 長谷部の下宿は親族の持つ家の片隅にある離れで、さほど多くはない学校の友人たちもよく酒や肴を手に押し掛けてきては、ささやかな宴と洒落こんだ。
そのなかでも一際足繁く訪れるのが、光忠だった。
学部も違う光忠と知り合った経緯はすっかり覚えていないが、今や親友といってもよいほどだった。
皆で賑やかに宴を催すのも言うほど嫌いではなかったが、彼と二人で語り明かす夜は格別だ。長谷部が学んだばかりの事柄や興味を引かれた出来事を語ると、相槌を打っては楽しそうに聞いている。それを見ると、不思議と胸がぎゅうっとなるようだった。
ある日、郷里から幼馴染みがやってきた。
寺の次男坊で、仲が良いとは言えない男だが、家の使いで出てきたから泊めろという。
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