「ごめん、待たせちゃった!」
立香が人込みをかき分けて駆け寄ると、斎藤は気にするなとへらへら笑う。
「大丈夫、僕もさっき来たばっかりだよ。遅れそうだって走ってきてくれたんだね、ありがと」
そう言って乱れた息が整うまで待ってくれるし、手に持っていたペットボトルの水をまだ飲んでないからと手渡してくれる。
それを受け取ってありがたく頂くのだけれど、立香の日頃の疑問がまた首をもたげてきた。
「一ちゃん、準備良すぎない?」
「そお?」
斎藤はそんなことはないというが、今回のペットボトルもそうだし、前回はハンカチを忘れたと思ったら隣ですぐ渡してくれたこともあった。その日の気分でデート先を決めたはずなのに、休憩には立香の好きそうな店をしっかり見つけていたりすることもある。
そういう細かな気遣いにいつも驚かされていた事を伝えると、斎藤は少し考えてにっこりと笑った。
「そりゃ、一ちゃんはいつだって立香ちゃんのこと考えてますから」
だから立香の好みの店はいつだって探してるし、やりそうなことだって思いつくのだと言う。
「ま、立香ちゃんの事が大好きなんだーって思っててくれればいいよ」
あまりにさらっというものだから流してしまいそうになったが、意味を理解すると「へ?」と気の抜けるような声が出て顔が赤くなる。
その立香の反応に斎藤はますます楽しそうに笑う。
「おんやぁ、全然伝わってなかったみたいだね?」
そう言って人前だというのに、ぐいっと腰を抱き寄せてすっと顔を近づけた。
「じゃ、今日はじっくり教えてあげる」
耳元で熱っぽく囁かれるともうどうしたらいいのか分からなくなる。
「一ちゃん!」
恥ずかしさに立香は怒ったように言うが、それすらも可愛いと言わんばかりに斎藤は立香をますます抱き寄せた。