君のせいにできればいいのに「可愛い養い子に恥をかかせたくないから」
「別に強姦されたわけではないから」
「義息子とはいえ、向こうは妖怪なわけで下手に刺激したら何されるかわからないから」
そんなふうに最もらしい言い訳してお前のせいにし続けられればどれだけ都合がいいか。
あれはお前が小学校を卒業するくらいの頃だったろうか。草木も眠る丑三つ時だった。いつもは仕事の疲れで熟睡する俺の意識がふっと浮き上がってしまった。多分何者かの視線が肌に刺さってくるのを感じたからだ。目を開けなくてもすぐお前だって気づいたよ。長年お前たちと関わり続けて見えないものまで見えるようになって、随分感覚が研ぎ澄まされた。お前たちのおかげで妖怪が出入りすることはあれど、この家にはお前とお前の親父と俺しかいないんだ。お前を他の誰かと間違うわけがない。
こんな夜中に義理の父親の顔なんざ見つめて何のつもりだと思っていたら、唇に生温かいものを押し付けられた。自分の体温より少し低いそれは、ろくに手入れもせずにガサガサになった俺のものとは違って瑞々しく弾力があった。やはり若いからか。
いやいや、そんな分析してる場合じゃない。何をしてるんだ、こいつは。動作に躊躇いが感じられないことからこれが初めて、というわけではなさそうだ。一体いつからこんなことしているんだ。何を思ってこんなことを。こんなくたびれたおっさんにすることじゃないだろ。お前の周りには可愛い女の子が沢山いるじゃないか。口吸いする相手なら他にいくらでもいるだろう、お前なら。寝ぼけてあまりよく働いてない頭の中にあらゆる疑問が次々と浮かんでとぐろを巻いていた。
馬鹿なことをしてないで早く寝ろ、さっさと寝ろ。そう念じながら俺がひたすら寝たフリを通していると、衣擦れの音に混じって荒い息遣いが耳をくすぐった。
何なんだ。何をしてるんだ。……いや、わかってる。俺だって男だからお前が今何をしてるかくらい。でもてっきりお前はそういうことをしてないもんだと……。中身は大人でも幽霊族の体の成長はかなりゆっくりだとお前の親父から聞いていたし、普段のお前はそういった欲には全く無縁に思えたから。
猫娘さん曰く、お前は女の子が同じ風呂に入ってきても眉ひとつ動かさないそうじゃないか。そんなお前が……。いやいや、それにしても……そんなこと、俺の横ですることないだろ。やるなら厠か風呂場でしろ!何が悲しくて養い子のそういう行為を目の当たりにしなければならないんだ!すっかり混乱して苦し紛れに口の中でそう叫んでいると、お前が俺の首元に顔を埋めながら何かを呟いた。
「お義父さん……」
不覚にもドキリとしてしまった。これは以前から思っていたことだが、声変わりはまだのはずなのにお前の声は重みがあって酷く艶っぽい。親の俺が言うのもおかしいが。
「はぁ……っ……お義父さっ……んっ……」
俺の首元に顔を埋めているお前の息が切迫していくのがわかる。……熱い。肌に息がかかって熱い。普段は俺より体温が低いくせに。幽霊族もこういうときは体温が上がるのだろうか。次第に聞き覚えのある水音まで響いてきた。
「お義父さ……っ」
さっきよりも上擦った声で呼ばれた。俺にぴったりとくっついているその小さな体がさっきよりも熱くなって小刻みに震える。子供特有の甘い匂いに混ざって汗の匂いと栗の花のような匂いがむわっと漂ってきた。
なんで最中に俺を呼ぶんだ。まさか……………。いやいや、そんなわけないだろ。うちの子に限って。これは夢だ!悪夢なんだ!はやく醒めろ!!醒めろ!!
そう念じてる間に眠ってしまったらしく、気がついたら朝だった。
「おはようございます。お義父さん」
「あ、ああ……おはよう」
居間までいくといつものようにお前が朝飯の支度をしていた。特に変わった様子はなくいつも通りの、あどけない見た目に釣り合わない落ち着いたお前だった。
やはり夢だったのか。とりあえずはよかった。あんな夢を見た自分に失望だが。きっと極度の疲れが悪夢を見せたんだ。絶対そうだ。
ところがその次の晩もほぼ同じ時刻に眠りから醒めてしまった。お前は前の晩と同じように俺にその小さい体をぴったりとくっつけながら……その後は言わずもがな。
俺がお前の行為を意識してしまったからなのか。それとも本当に何かの呪いなのか。皮肉にも、毎晩決まって同じ時間に寝覚めし、お前の行為の場に居合わせることになってしまった。
「お義父さん……っ。愛してます……っ。お義父さっ……!!っ………………」
いつも熱くなった体をくっつけられ。熱っぽい声で呼ばれるのと同時に気を遣られ。雰囲気に呑まれたのかつられ勃ちというものなのか、俺自身も兆すようになってきてしまった。
――そんなに毎晩俺で昂ってくれてるなら、もっと俺の体を使ってくれていいのに。いっそ犯してくれていいのに。
なあ、鬼太郎。実は俺、現実を受け入れられなくてずっと気づかないふりをしてたんだ。子供に欲情する大人なんてクソ以外何者でもないだろ。そんなクソな奴の仲間入りをしたくなくて認めたくなかったんだ。お前の行為を咎めることもできずに受け入れ続けているこの状況をただ「養い子に恥をかかせたくないから」だなんて全てお前のせいにできたらどれだけ都合がいいか。だが、もうそんな言い訳はできない。俺はお前を受け入れてるだけじゃなくて期待までしてしまってるのだから。お前が想ってくれているこの男はそういう最低なクソ野郎なんだよ。