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    terra_worlded

    @terra_worlded

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    terra_worlded

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    🍍と🍶がただ酒を飲んで🍍が🐋との思い出に浸る話。いつか絵にしたい…

    世界一美味い酒の味「良い酒が手に入ったんだ。ついでにお前の顔を見ようかと」
     目の前に立つ赤髪の男はのは世間では四皇と呼ばれ恐れも憧れも抱かれている偉大な海賊。のはずである。
    「一緒に飲もう!んでもってうちのクルーになれよ!」
    「いい加減諦めな、赤髪。しつけぇよい」
     だはは、なんて口を大きく開けて笑うがこの男が右手で振るう一振りで数多の名の知れた海賊や海軍を沈めてきた。放たれる覇王色の覇気は半端な者ではこの男の前に立ち続ける事すら難しい。余程の事がない限り牙を出すことはない獣だが友好的な姿に勘違いをしてはいけない。
    「まぁ酒に罪はねぇし。……どこかで調達したいと思っていたんでな。仕方ねぇよい」
     偉大な獣は満面の笑みでそうこなくちゃ!とズカズカと家の中へ入る。たまたまなんて言っているが今日が何の日か知ってここへ来ている。
    「お前も一緒に墓参りに来るかよい?」
     今日は親父とエースの墓を立てて丁度一年半が経つ日だった。
     
     
     
     シャンクスが持ち寄った酒と村の花屋で仕入れた花束二つを持って丘上の墓地へ二人で向かう。今日は雲一つない晴天で気持ち良い風も吹く日だ。道中他愛もない話をする。暫く遠ざかっていた海賊界隈や赤髪海賊団や村での出来事。最近歳を感じる……。なんてくだらない呟きにはざまぁみろと悪態をついてやる。
     着いた先で酒と花束をそれぞれの墓石の前に備える。この場所に来るとついつい長居をしてしまいがちだ。花を手向けたシャンクスに向かって村へ戻ろうと声をかけると驚いた顔をした。
    「もうか?いいのか、今日は……」
     やっぱり意図的に今日訪ねて来たんじゃねぇか。という獣の優しさは言葉に出さない。
    「近いんだから来たい時にいつでも来れる。お前が持って来た酒、俺も早く飲みてぇからよい」
    「ははっ、マルコって実は結構酒好きだよな」
    「まぁな。それに……今日はここにいるとなかなか戻れなさそうだ」
     一年半という時間の間に色々な事があった。小さなことから大きなことまで、たくさん。今日はそれが溢れて止まらなくなりそうな予感がした。半年、一年。節目の時の墓参りの時はいつもそうだった。村人が心配するぐらい墓前から動く事が出来なかった。だから正直助かった。今回は一人ではないことがありがたかった。
    「……そうか。んじゃ、戻ろう。美味いつまみが欲しいよな〜。ルウが言うにはチーズとかハムが合うみてぇなんだよ」
    「計ったようなタイミングで気持ち悪ぃんだが美味いチーズならあるよい。近所の人からお裾分けでもらった。ハムもいい店を知ってる。ワインなのかよい?」
    「いや、なんかすげー手間暇かけて製造してる果実酒だとさ。入手困難でそこいらの高価な酒なんか霞むぐらいの価値らしいぞ」
     今日は楽しくなりそうだな!なんてケラケラ笑う男は俺の数歩後ろを歩く。まるで俺が振り返らないように後ろに立つ。こいつがいなければ後ろ髪を引かれる様に何度も振り返っていたかも知れない。そんな姿をコイツに見せたくないというどうしようもない小さなプライドが出た。それで良かった。
     そのせいで前を向いて歩ける日だった。
     
     
     
     真昼間から始まった酒盛りは当初の予定より大分豪華になったつまみと二人で飲むには多い酒で現在進行中だ。気付けば太陽は沈み遮るものが少ない環境で満天の星が輝いている。生き物の気配すら感じぬほど夜が濃い。
     シャンクスとはこまめに会う仲ではないがあの戦争以降、他の家族が聞いたら驚くか揶揄うぐらい顔を見る機会が増えた。ふらりと現れて墓参りすることもあれば特に用事はないが立ち寄った。など言って船を数日停泊させたこともある。
     話すことなんてそこまでない。なんて思っていたが不思議と話題は尽きなかった。シャンクスにとって思い入れの強い麦わらの話やエースの話。知る人が少ないおでんや、冥王レイリー、スコッパーギャバンの話。親父の話も聞きたがったしロジャーの話が出てくることもあった。
     シャンクスにはシャンクスの。マルコにはマルコの旅があり共有できる時間がお互いにはあった。
    「しかし、本当美味いよなこの酒。甘い?けど甘すぎねぇっていうか何か不思議な美味さだよな」
     シャンクスが持って来た酒は確かに美味かった。長い間浴びるほど飲んだ中で間違いなく忘れられない味の一つにはなる。言う通りチーズにもハムにも良く合う。「マルコ、いつも診てくれるお礼!」なんて笑顔で袋に入れてくれた食べ頃の果物にも良く合う。自分の好物は生憎この村では生産されていないので今日の酒盛りには並んでいないがきっと希少であろうこの酒に合う気がする。
    「確かに美味いよい。言うだけあるな」
     ダラダラと長い時間をかけて飲んでいるせいなのかシラフではないが泥酔までもない。何とも言えない状態が心地良かった。
    「だよなー。久々にこんな美味い酒を飲んだな。つまみが進むよ」
     シャンクスは珍しく泥酔をしていない。大体前後不覚になるまで飲んで潰れているのに。二人で飲む時は適当に放置して転がしているし、赤髪海賊団を交えて飲む時は誰かしらが介抱している。(ベックマンのいい加減学べという苦言を耳にタコが出来るぐらい聞いている気がする)
    「マルコはさ今まで飲んだ酒で一番美味かった酒ってあるのか?」
     何だ唐突に。シラフだったらそう言って相手にしなかったかもしれないが、美味い酒とつまみによる心地良い酔いでシャンクスの質問に向き合ってしまう。正確な年数は忘れたが海賊船に乗船してから今日までたくさんの酒を多くの人と飲んだ。初めて飲んだのは確か見習いの頃だった。こんなに不味いものを何で大人たちは好んで飲むのか全く理解できなかったが、気が付いたら周りからは酒好きだの酒豪だの散々言われている。自覚も充分にある。
     安酒から高級な酒。ワインにウイスキー、ラム酒。焼酎から珍しい酒まで幅広く飲み、それなりに自分の拘りや好みなんかも出来た。数ある思い出の中で今でも一番に思い出すのはやはりあの日だ。
    「あるよい……。忘れられねぇ味だ」
     
     
     
     オヤジが珍しく俺だけを街の酒場に連れ出した。あの時自分はいくつだったか。確か見習いとして乗船して十年ほど経った頃だったことをぼんやりと覚えている。
     停泊している街はオヤジが昔から不定期に訪れて暫く滞在している。海軍の監視がそこまで厳しくなく街の住人はならず者の海賊にも優しくしてれる変わった人たちだった。大体は海賊と分かると怯えるか煙たがられる事が多い。
    「この街の皆は白ひげの旦那にはお世話になったんだ。だからみーんな、旦那のことが大好きなのさ」
     昼間に立ち寄ったパン屋のおばちゃんが豪快に笑いながらそう言った。マルコが白ひげのクルーだと分かった途端、たくさんのおまけを付けて笑いかけてくれた。確かにすれ違う人は皆、オヤジを見かけると声をかけうちに立ち寄ってくれ!良い酒があるんだ!と引き留めた。
     海賊だけど海賊らしくない。縄張りに対してみかじめ料も見返りも求めず、人間がもたらす脅威から守る。そんな偉大な背中はマルコをはじめクルー全員の自慢であり誇りだった。
    「お前、隊長やれ。一番隊をお前に任せる」
    「は?」
     連れ出された酒場で乾杯をした直後にこの言葉である。あまりにも急で何を言っているのか思考が追いつかない。そんな俺を他所にオヤジはグビグビと大きなジョッキに入った酒を飲み干そうとしている。人の気も知らずにとても美味そうに飲んでいる。こっちは驚きのあまり口すら付けられてないというのに。
    「何言ってんだよいオヤジ!俺は隊長なんて向いてねぇよい。それに俺より前にこの船に乗ってる奴や隊長目指してる奴がたくさんいるだろい!」
     白ひげ海賊団立ち上げから乗船しているベテランや戦闘力の高いクルーはたくさんいる。これまで隊長に就くのは色んなパターンがあった。ビスタのように自主的に志願したり周りからの推薦で着任するやつもいる。
     番号に優劣は無いとは言ったものの一番隊隊長は実質どの隊よりも船長である白ひげと近い位置で右腕と称されるポジションだ。
    「確かにお前はまだまだ未熟だ。医者としても海賊としても一人の人間としてもな。頭も回るし好奇心が旺盛なのは良いことだが後先考えずに無茶もしやがる。挙句の果てには人の心配ばかりしてテメェを顧ねぇ。けど、そんな甘さや優しさが人を束ねる奴には必要だと俺は思っている」
     オヤジの真剣な眼差しから目が離せない。あぁ、これはもう決定事項だ。そうマルコは悟った。オヤジは我儘な船長で決めたことは何が何でも貫く。そんな人だ。腹を括るしかないことを理解してしまい駄々をこねる事を諦める自分の要領の良さに溜息を付いた。今日はとにかく浴びるだけ飲んでやると決意した。
    「……皆から反対されるかもしれねぇし、本当に上手くやれる自信なんてねぇよい。もしかしたらストライキが起きるかもしれねぇよい」
    「グララララ、そんな物分かりの悪い奴ぁ俺の船に乗せた覚えはねぇよ。仮に反対する奴が現れても実力で黙らせてやれ。それでお前に付くも付かねぇもそれはそいつの人生だ」
    「本当に人の気も知らねぇで呑気だよい……」
    「グララララ!まぁお前なら大丈夫だろ。信頼してるぜ、マルコ」
     全くずるい船長だ。言ってることは何の根拠もない根性論だし無茶苦茶だ。こっちが納得できる理由なんて一つも言ってくれやしないのにこの人の期待を裏切ることはしたくないと思っている。誇りに思う船長にここまで言われて嬉しくない奴なんてこの船には誰もいない。
    「改めて船長命令でお前を一番隊隊長に任命する。マルコ、頼んだぜ」
    「……了解。船長。一番隊隊長、引き受けるよい」
     この後有言実行で朝まで浴びるほど酒を飲んだ。何の酒をどのぐらい飲んだかなんて覚えてないし今も全く思い出せない。
     高くも貴重でもないどこにでもある安酒だった。それでも今まで飲んだ酒の中で格別に美味しくて忘れられない酒となった。
     
     
     
    「……もう二度と同じ酒は飲めないよい。それぐらい美味くて思い出の味だった」
    「ふーん。それはよっぽど良い酒だったんだな。俺も飲んでみたいな」
    「まぁお前が今日持ってきてくれた酒も本当に美味いぞ。流石、食いしん坊コックのお墨付きだよい」
     食いしん坊コック!笑えるな!なんてゲラゲラ笑うシャンクスを放っておいて空気を入れ替える為に立ち上がり窓を開ける。
     心地よい風が吹いている。あの時の酒の味を思い出して目を瞑り深呼吸する。いつかあの時に匹敵するような味に出会えるだろうか。
     海は広い。それに若い芽が台頭し新時代が必ずやってくる。その時に最高の酒に再び出逢えるかもしれない。期待を胸にほろ酔いでうるさい客人にせっかくの酒を飲み干されないように席へ戻る。


    2023.10.5 誤字修正
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