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    黄黒 アイドルパロ 閑話休題

    #黄黒
    blackAndYellow

    赤司君に胃薬、黄瀬君に病院 黄瀬は大層不機嫌な顔で事務所にやってくると、何故か真っ直ぐに赤司の元へやってきた。
    「涼太どうかしたのか?」
     赤司は書類に視線を落としていたが、黄瀬の存在に気づき顔を上げた。それとほぼ同時に黄瀬は両手をデスクに付くと、とてもアイドルとは思えない顔で赤司を睨みつけた。
    「桃っち、見なかったっスか」
    「桃井? 何かあったのか?」
    「いいから、いるかいないか聞いてるんスけど」
     黄瀬は赤司に詰め寄り、桃井の行方を問いただした。そのあまりの剣幕に、事務所内に居た人間は何事かと振り返った。そして、黄瀬の姿を確認すると、何時もの事かとそれぞれ仕事に戻っていった。
    「桃井ならいないよ。必要ならば呼ぶが」
     赤司はそんな黄瀬に臆することなく、いつもののんびりとした口調で答える。
     桃井はデビューの時からキセキのマネージャーを担当している社員だった。かなりの美人にも関わらず表舞台より裏方がいいと、キセキを陰から支えていた。キセキをここまで一流アイドルにしたのも彼女の手腕もあっての事だった。しかし、今日は有給を取っていて不在だった。
    「ちょっと頼みがあるんスよ」
    「頼み? どういった頼みだい?」
     少しばつの悪そうな顔をする黄瀬に、赤司は素朴な疑問を投げかけた。黄瀬から桃井に頼み事とは、一体なんなのだろう。しかし、この態度からして、あまりいい事ではなさそうなのは確かだ。
    「……黒子っちについてなんスけど」
    「テツヤの?」
     黄瀬は強引に赤司の身体を引き寄せると、次の瞬間とんでもない事を口にした。
    「どうにかして黒子っちを女の子にしたいんス」
    「……は?」
     一体何を言っているのだろう。赤司は黄瀬の言葉が一つも理解できなかった。
    「だーかーら、黒子っちを女の子にしてほしいんス! こう、桃っちの謎料理を食べて、おっぱいが出るとか」
    「涼太、病院ならまだ空いているよ。付き添おう」
    「だー! 赤司っちはいいんスか?! このままだと黒子っちがドラマで女の子とキスするかも知れないんスよ?!」
    「それの何が問題なんだ」
    「大問題っス!」
     黄瀬はもう一度机を叩くと、涙目で訴えた。正直、赤司は内心楽しくて仕方がなかったが、顔には出さないよう努めた。
    「で、お前の主張は、テツヤがドラマで女の子とキスをするから女の子にしたい、と」
    「そっス」
    「却下だ」
    「なんで?! 赤司っちはいいんスか? 黒子っちのキスシーンがあるの」
    「まぁ、見たいものではないけど、僕の手を下すまでもないな。それも経験だろう? それにフリだよ、フリ」
    「それでも嫌っス! キスはオレとだけしてたらいいの!」
     次第に大声になる黄瀬に、赤司は盛大なため息をついた。
     二人が付き合っているのは知っているものの、流石にドラマの内容にまで口を出せない。というか、黒子のキスシーンを見た翌日の黄瀬がどんな風になるのか楽しみにしているとは言えなかった。
    「オレ、黒子っちのキスシーン見たくない。黒子っちのキス顔はオレだけのものなのに」
    「ドラマ自体観なければいいじゃないか」
    「観るに決まってんじゃん! オレはどんな黒子っちのシーンでも逃さないんス」
    「はぁ……」
    「でも、どこの馬の骨とも分からない女とキスするぐらいなら、黒子っちも女の子にしちゃえばそのシーンごとなくなるんじゃって思ったんス」
    「凄い発想だな」
     赤司は黄瀬の頭を本気で心配した。恋人のキスシーンを見たくないのは分かる。赤司だってもしそんな相手がいたとしたら気が気じゃないだろう。だが、性別を変えるなんて漫画じゃあるまいし、発想が突飛すぎる。まさか、ここまで飛んでるとは思わなかった。やはりアイドルの知識をスマホのゲームで履修させたのが悪かったのだろうか。
    「二次創作だと桃っちが作った食べ物のせいで女の子になったりするのあると思うんス」
    「桃井の食べ物にそんな効果があるのか? そもそも二次創作とはなんだ」
    「結構定番のシチュエーションっス。ピクシ◯見て見て!」
    「ピク◯ブ……? また意味のわからない事を……。そもそもそんな漫画みたいなこと出来るわけないだろ」
    「やってみなきゃわからないし!」
    「やらなくてもわかるだろ。しかし、テツヤはお前の事は嫌いじゃないだろうから、恋人ならどんと構えておいたらどうだ?」
    「赤司っち……」
     赤司は黄瀬の肩を掴むと、壮大に語りかけた。黄瀬は目に涙を溜め、泣きそうになっている。
    「キスシーンの一つや二つ、家に帰ったら上書きしてやれ」
    「上書き……?」
    「ああ。たっぷり甘やかして、甘えさせてやれ」
    「ほんと? それでいいんスか?」
    「自信を持って。お前は黄瀬涼太だろ? 頭は残念だが顔はいい」
    「オレは、黄瀬涼太……? あれ、今軽くdisられた?」
     赤司に諭され、黄瀬の目には新しい炎が宿っていく。怪しい食べ物に頼らなくても、その身だけで恋人を夢中にさせればいい。だって黄瀬は黄瀬涼太なのだから。というか赤司は正直面倒だった。早くこの茶番を終わらせたい一心だった。
    「頑張れ。お前ならできる」
    「よくわかんないけど分かった、やってみる! ラブラブえっちする! 赤司っちありがと!」
    「はは。涼太にそう言われると嬉しいな。ってことでテツヤ頑張れよ。僕は疲れた」
    「え?」
     赤司の言葉に、黄瀬は固まった。
     黄瀬の悩みが解決し、めでたしめでたし。赤司は拍手をしたが、いつの間にか赤司の真横に立っていた黒子はただただ二人のやり取りに唖然とするしかなかった。
    「あれ、気づいてなかったのか?」
    「キミがここに入ってきた時からいましたが」
    「ミスディレクションやめて!」
    「してません」
     黄瀬は顔を引き攣らせた。まさか、恋人の話をこんな所でしているのが本人にバレるなんて大惨事ってレベルじゃない。放送事故だ。
    「涼太、頑張れよ。明日の生放送遅刻はするな」
    「ちょ、まって」
    「黄瀬君、あちらでお話し聞かせてください」
     初めて見るくらいのとびきりの笑顔を見せた黒子に、黄瀬はただただ顔が引き攣っていく。明日、ちゃんと生放送に出られますように。そう、星に願いながら黒子に引き摺られていく。

     翌日、黄瀬はどうにか生放送には間に合ったものの、いつもより目のクマを隠すのに化粧が濃かったとSNSのトレンドに載った。
     余談だが、後日放映された黒子のドラマは、小学生の女の子から頬にキスされる微笑ましいシーンだったのも付け加えておく。

     
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