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    フォドン

    @photonyadon

    天城カイトが好きです。
    女体化あります。
    反応があるととても嬉しい…!

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    フォドン

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    最終回から10年後、一緒に飲んでる三勇士です。
    3人の中にCP関係はないですが、遊馬と小鳥が結婚しています。

    ・結婚後によくあるあの展開があります
    ・若干の下ネタ(?)
    ・女性に優しい(?)ライバルズ

    俺が考えた最強の10年後なので、幻覚に付き合っていただける方はよろしくお願いします。

    #三勇士

    三勇士の同窓会 ハートランド郊外にある、小さなビル。その地下のバーに、大きなリュックサックを背負った青年が駆け込んできた。
     
    「すまねぇ、待たせちまったな」
     
     そう言いながら、赤い瞳の快活そうな青年――九十九遊馬は、先に席についている二人のもとに駆け寄った。
     
    「一五分四二秒の遅刻だ」
     
     ブルーグレーの瞳の青年――天城カイトが、ぶっきらぼうに答える。冷たい言葉に反して、その表情は柔らかい。
     
    「テメェも遅れてきただろうが……まぁ、そんなこったろうと思っていたが」
     
     頬杖をつきながら、藍色の瞳の青年――神代凌牙は呆れ顔で呟いた。ガラの悪そうな服装の割に、この中で一番義理堅いのは彼らしい。
     
    「わりぃわりぃ。店まで選んでもらっちゃって。ありがとな、シャーク!」
     
     遊馬はそう言いながら、リュックサックを下ろし、凌牙の隣の席についた。
     
     ナンバーズを巡る争いから十年――かつて世界の運命を背負って戦った三人による、同窓会の始まりである。
     
     
     
    「シャークのデュエルスクール、大人気なんだろ!? すげーよなぁ」
     
     レモンサワーを片手に、遊馬は目を輝かせて凌牙を見つめる。

     高校卒業後、凌牙は元バリアン七皇の面々と共に、子供達にデュエルを教える塾を立ち上げた。『七星デュエルスクール』は、極東チャンピオンのⅣを広告塔に起用したことで話題となり、初心者からプロ志望まで満足させる実践的な指導が評価され、ハートランド外でもその人気が話題となっている。
     
     白ワインを揺らしながら、凌牙は遊馬の方を見ずに答えた。
     
    「オレは上に立ってるだけで、大したことはしちゃいねぇさ……璃緒とベクターが衝突したときに、間を取り持つくらいだ」
     
    「それめちゃくちゃ大変じゃねぇ?」
     
    「俺なら絶対にその役割は御免だ」
     
     遊馬は渋い顔で、カイトは無表情に答える。凌牙は「かもな」と呟き、ワインを口に含んだ。

     そんな彼を見ながら、遊馬は言う。
     
    「あいつら、一緒に働いてるんだな」
     
     璃緒とベクター、二人の因縁。それは凌牙とベクターの因縁をも意味する。前世のことも、バリアンとなってからのことも、ベクターの所業は、兄妹の心を憎しみで埋めつくすのに十分なものであった。
     
    「璃緒が経理、ベクターは……広報兼経営戦略ってとこか。ギラグが全体のサポート。この三人が事務方だな。残りのメンツでサービスを作ってる。ドルベと俺でコンテンツを作って……ミザエルとアリトは実技指導担当だな」
     
     凌牙の説明を理解したところで、遊馬はふと何かを思い出し、カイトの方を見る。
     
    「あれ? ミザエルって、カイトの研究手伝ってなかったか?」
     
    「……」
     
     少しの沈黙の後、カイトは机に肘をつき、口元で両手を組み合わせた。
     
    「人には……向き不向きというものがあってだな……」
     
    「おおう……」
     
     カイトの目があまりにも遠くを見つめていたので、遊馬はそれ以上追求できず、微妙な声を漏らすしかなかった。

     凌牙も腕を組み、顔をしかめる。
     
    「そもそもオレが起業したのは、あいつらに仕事を振るためだからな。璃緒はもちろん、ギラグもどうにかなるとは思うが……デュエル馬鹿共アリトとミザエルは普通に働けると思えねぇし、ドルベもやや心配だ。そんでベクターは野放しにできねぇ」
     
    「適材適所の配役……流石は七皇のリーダーといったところか」
     
     意識が帰って来たカイトが話す隣で、遊馬もふんふんと頷く。
     
    「正解なんて、きっと無いんだけどよ……。お前たちがさ、この世界で……そうやって支え合って頑張ってんのが、オレはすげぇ嬉しい!」
     
     かつてこの世界を滅ぼそうとしたバリアン七皇。彼らが人間として、再びこの世界で暮らしているのは、彼らの意思によるものではない。そんな七皇が、この世界で懸命に、前向きに生きようとしていることが、遊馬にはとても尊いことに思えた。
     
    「それに……」
     
     そう呟きながら、遊馬は凌牙を見る。
     
    「それにお前、やっぱデュエル大好きなんだな!」
     
     十年前と変わらない、無邪気な遊馬の笑顔に、凌牙はあっけにとられた。そして、気恥ずかしさから逃げるように顔を背ける。
     
    「今でもデュエル続けてんだもんな! すげぇよな!」
     
    「うるせぇ……仕事でやってるだけだ!」
     
    「好きじゃねぇと教えらんねぇだろ~! さっき話してるときもすげぇ楽しそうだったし!」
     
    「やめろ……! …カイト! テメェもヌルい目で見てんじゃねぇ!」
     
     三人の同窓会はまだまだ続く。



    「お前はどうなんだ、遊馬。『見習い』は卒業したのか?」
     
     ラム肉のグリルにナイフを入れつつ、カイトが尋ねる。彼はどうやら、注文した料理をシェアする気はないらしい。
     
    「結婚式以来何も聞いてねぇな。そろそろ小鳥に見放されたんじゃねぇの?」
     
     凌牙はそう言って、残っていたサラダを取り分け、空いた皿を机の端に寄せる。
     そのからかうような口振りに、ポテトフライをつまんでいた遊馬は不服そうに眉をしかめた。
     
    「見放されてねぇっての! ちょうどこの前、親父に認めてもらったとこなんだよ。もう一人前の冒険家だって!」
     
     高校卒業後、遊馬は冒険家になるために、その道の大先輩である父母に手解きを受けながら、世界中を旅して回っている。苦難や危険が盛りだくさんの日々ではあるが、夢に向かって努力できる充実感と、両親と共にいられる幸せを胸に、遊馬は修行に勤しんできた。
     そして大学に進学した小鳥とは、遠距離恋愛の末、一年前に結婚した。凌牙やカイトと顔を合わせるのは、結婚式以来初めてのことである。
     鼻高々な遊馬を、凌牙とカイトは怪訝な顔で見つめる。
     
    「ほぉ……お前が一人前ねぇ」
     
    「Ⅲと小鳥は優秀だな」
     
    「お前らなぁ! ちゃんとオレの力だって! ……まあ、そりゃーちょっとは助けてもらってるけどよー……」
     
     口を尖らせる遊馬に、凌牙は鋭く切り込む。
     
    「ちょっとなのかよ?」
     
    「……いや、かなり……」
     
     遊馬は顔をひきつらせて笑いながら、視線を逸らした。
     Ⅲもまた九十九夫妻の弟子となり、遊馬と一緒に世界を飛び回っている。思慮深く努力家な彼と、行動力に溢れるお調子者の遊馬は、度々衝突し、支え合い、お互いに切磋琢磨してきた。現在は大学を卒業した小鳥もチームに加わり、万全の体制で遊馬をサポートしている。
     
    「いいんだよ! 助け合うのが仲間だからな!」
     
     二杯目のレモンサワーを机にガンと置いて主張する遊馬。それを聞き流しつつ、カイトは疑問を投げ掛ける。
     
    「そういえば、今回Ⅲは帰ってきていないらしいが……お前は何故戻ってきたんだ?」
     
     Ⅲが帰ってくるときはいつも、アークライト家で大宴会が行われる。今回Vがその準備をしている様子がなかったため、カイトはⅢが戻ってきていないことを知っていた。
     
    「あー……それが、さ。お前らに報告したいことがあって……」
     
     遊馬は手をもじもじさせ、体をくねらせる。どうやら照れているらしい。
     
    「なんだよ気持ち悪い」

    凌牙の冷めた視線を浴びつつ、遊馬は話を進めようとした。――しかし。

    「実は…………ん?何か鳴ってる?」

    突如聞こえてきた電子音に、遊馬は思わず反応する。その音の出所は――カイトの隣に置かれたカバンであった。
     
    「おっと。時間だな」
     
     ぽかんとする遊馬には目もくれず、カイトはそのまま、荷物から機材を取り出し組み立て始める。
     
    「えぇ……お前がきいたのに」
     
     突然梯子を外され、不服そうな遊馬の横で、凌牙は「ああ、アレか」と呟く。どうやら凌牙は、カイトが何をしようとしているか、知っているらしい。
     
    「さて、これで繋がるはずだ」
     
    「……何だよこれ?」
     
     カイトは遊馬の正面に端末を置く。それは小型のパソコンのような形状をしており、カイトがスイッチを押すと、本体のランプが点灯し、スクリーンにノイズが走った。端末から聞こえてきた声と、画面に映し出された姿に、遊馬は思わず机に身を乗り出す。
     
    『……馬、遊馬』
     
    「ア……アストラル!! アストラルー!!」
     
     通信先は、アストラル世界。――かつての半身であるアストラルが、遊馬の目の前に現れた。
     
    「エリファスにエナもいるじゃねぇか! 久しぶりだなー!」
     
    『ああ。久しぶりだ、遊馬。シャークもカイトも、元気そうで何よりだ』
     
    「これカイトが準備したのか? こんな通信できるのかよ! すげーな!!」
     
     遊馬は興奮を抑えきれない様子でカイトを見る。キラキラした視線を向けられたカイトは顔を背け、「ただの実験だ」と素っ気なく答えた。
     そんなカイトの正面で、凌牙は画面を覗き込みながら言う。
     
    「地下の店でこんだけ安定して通信できてりゃあ上等じゃねぇの?」
     
    「ああ、これなら問題なく――大会でも使えるだろう」
     
     凌牙の言葉に頷くカイト。二人にしか分からないやり取りに、遊馬もアストラルも状況が飲み込めずにいた。
     
    『大会……?』
     
    「何だそりゃ?」
     
     二人の疑問に、凌牙は二杯目のワインを飲み干して答える。
     
    「ウチのスクールが主催で、またWDCを開催しようと思ってる」
     
    「WDC!?」
     
     思わず遊馬の声が裏返る。アストラルもまた、画面の向こうで目を丸くしていた。
     そんな二人を見て、凌牙はニヤリと口角を上げる。
     
    「WDCをやるからには――当然、前回の優勝者には参加してもらわねぇとな。もちろん、『二人共』だ」
     
    「二人ってことは、オレと……」
     
    『私も、招待されるということか』
     
     画面越しに目を見合わせる遊馬とアストラル。端末の隣で、カイトは腕を組む。
     
    「遊馬はともかく、アストラルを招待するとなれば、通常の手段では不可能だ。ゆえに、俺が協力している」
     
     異世界研究――それはカイトの父、Dr.フェイカーの専門分野であり、共に研究を行うカイト、クリス、そしてその父トロンの専門である。もちろん、アストラルのいるアストラル世界も、彼らの研究対象の一つであった。
     
    「でも、カイトが協力ったって、どうやって……」
     
    『……ARシステムか?』
     
     アストラルの推測に、カイトは薄い笑みを浮かべて答える。
     
    「正解だ。モンスターに使われているARヴィジョンを使って、アストラルのアバターをこちらの世界に投影する」
     
     デュエル中、モンスターが現実の空間に現れ、周囲の空間に干渉しながらバトルを行うシステム。これは、現実世界の情報とモンスターのデータを照合し、Dゲイザーを通じて表示する、拡張現実を使用した技術である。この仕組みを使い、モンスターだけでなくデュエリストも映し出してしまえば――その場にいない対戦相手とも、デュエルを行うことが可能になる。
     
    「これがうまく行けば、アストラルだけじゃねぇ……事情があってハートランドに来られねぇような奴も大会に参加できるようになる。ウチのスクールの遠隔授業にも使えんだろ」
     
    「すげぇ……すげえな! 二人とも!!」
     
     細かい技術はよく分からなくとも、凌牙とカイトが協力して大きなことを企んでいる――その事実が、遊馬の胸を高鳴らせた。
     
    「さあ、そういうわけだが……どうする?」
     
     カイトが挑発するような視線をアストラルに向ける。
     
    「チャンピオンのまま、勝ち逃げしてえってんなら、無理強いはしねぇぞ?」
     
     煽るような凌牙の言葉に、遊馬は拳を強く握り締める。
     
    「そんなの、決まってんじゃねえか! なあ、アストラル」
     
    『ああ、ここまでお膳立てしてもらったのだ。ぜひ、参加させてもらおう』
     
     迷いなくそう答える遊馬とアストラル。こうして二人の元チャンピオンが、WDCへの参戦を決めたのだった。
     
     
     
     端末のランプが点滅し始めたのを確認し、カイトは遊馬の方を向いた。
     
    「そろそろバッテリーの限界だな。……遊馬、何か言い残したことがあれば、今のうちに伝えておけ」
     
    「あ……じゃあ、アストラルにも聞いてほしいんだけどよ……」
     
     遊馬は姿勢を正し、軽く深呼吸をする。
     
    「オレ、もうすぐ、父親になるんだ」
     
    「!」
     
    「おぉ」
     
    『?』
     
     目を丸くするカイト、感嘆の声を漏らす凌牙、首を傾げるアストラル――三者三様の反応だった。アストラルは頭を傾けたまま、矢継ぎ早に質問を繰り出す。
     
    『それは……どういう効果だ?』
     
    「効果って……子供ができたんだよ!」
     
    『遊馬が産むのか?』
     
    「違うって! 小鳥のお腹の中に、オレたちの赤ちゃんがいるの!」
     
    『どうやって小鳥のお腹に遊馬の子供ができるのだ?』
     
    「えっ」
     
     完全にフリーズする遊馬。その横で笑いをこらえて二人を見守っていた凌牙は、ついに吹き出し、声をあげて笑い始めた。
     
    「ははっ! ほら、どうやってできるんだ? 教えてくれよ、遊馬先生」
     
     そう言って、凌牙は遊馬を肘で押す。凌牙の顔はうっすら赤くなっていた。
     
    「おいシャーク! お前酔ってるだろ! やめてくれよ!」
     
     遊馬は凌牙とは別の理由で顔を真っ赤にし、凌牙を押し返す。やかましいやり取りがしばらく続いたところで、業を煮やしたカイトがため息をついて言った。
     
    「アストラル。貴様……この世界の知識をナンバーズから得ているはずだろう」
     
    「あ――っ! そうじゃん! そういえば!」
     
     Ⅲが持っていた二枚のナンバーズを回収した際、アストラルは「人間界に関するあらゆる知識」を得ている。もちろんそこには、生物学的な知識や人間社会の常識も含まれているはずだ。
     
    『ふふ、バレてしまったか』
     
    「アストラル~!」
     
     遊馬にじっとりとした視線を向けられたアストラルは、口元を緩ませる。
     
    『すまない。「恥ずかしい」という感情を、久しぶりに見たかったんだ』
     
     アストラルは目を細め、じっと遊馬を見つめる。柔らかく温かい眼差しと共に、アストラルは遊馬に告げた。
     
    『遊馬、おめでとう』
     
    「へへっ。ありがとな、アストラル」
     
     アストラルの言葉に、遊馬も笑顔で答える。その笑顔は今でも変わらず、アストラルにとって一番大切なものであった。
     
     
     
    「しかし、お前が父親ねぇ……」
     
     机に頬杖をついてしみじみと呟く凌牙。その正面で端末を解体しながら、カイトも会話に加わる。
     
    「だから小鳥と二人で戻ってきたというわけか。そのまましばらくここにいるのか?」
     
    「いや、明日の朝にはハートランドを出て、色んなとこ回ってくるつもりだぜ? Ⅲはゆっくりしてこいって言ってたけどよ、せっかく一人で動けるわけだし」
     
     軽い調子で答える遊馬に、二人の動きが少し止まった。
     
    「……んで、いつ帰ってくるんだ?」
     
     凌牙の声色が重くなったのを感じて、遊馬の言葉も歯切れが悪くなる。
     
    「いや、産まれるまでには……」
     
    「「は?」」
     
     二人は同時に声をあげ、遊馬を見つめた。その蔑むような視線に、彼の背筋が凍る。
     
    「えっ……何だよ……?」
     
    「てめぇ正気か? 妊娠中の嫁を放置? 殺されんぞ?」
     
    「妊娠中は精神的にも肉体的にも大きな負荷がかかる。お前が支えなくてどうする」
     
    「えっお前らそういう感じ?」
     
     彼らにしては真っ当すぎる発言に戸惑う遊馬。そんな彼に、二人は容赦なく詰め寄っていく。
     
    「そういう恨みは絶対忘れてもらえねぇぞ? 一生根に持たれんだよ、覚悟してっか?」
     
    「産まれたらもう本番なんだぞ。何の準備も無しに、乳児の世話がこなせると思っているのか?」
     
     女心の恐ろしさをさんざん味わってきた凌牙と、育児の苦楽を十二分に理解しているカイトの言葉に、遊馬は白旗を挙げざるを得なかった。
     
    「……ハイ。小鳥とちゃんと話しマス」
     
    「……今日はもう解散だな」
     
    「ああ。小鳥にシメられてきやがれ」
     
    「ハイ……」
     
     二人の剣幕に小さくなっていた遊馬だったが、ふと思いついた疑問を口にしてみる。
     
    「ていうかお前らはどうなんだよ? コイビトとかいねーの?」
     
    「「黙れ」」
     
    「えー……」
     
     凌牙にもカイトにも、今日は全くもって歯が立たない遊馬であった。
     
     
     
     会計に当たり、リュックサックから財布を探す遊馬を完全に無視してカイトが支払いに向かってしまったため、遊馬と凌牙は先に店を出て待っていることにした。どうやら凌牙との間では、カイトはセッティングを丸投げする代わりに、支払いを担当するということで話がついていたようである。
     
    「でも何だって今さらWDCをやるんだ?」
     
     両手を挙げ、背中を反らして伸びをしながら、遊馬は凌牙に尋ねる。
     凌牙は少し間をおいて答えた。
     
    「……発案はベクターだ。スクールの人気も出てきたところだし、ここでさらに知名度を上げておこうってのが建前だ」
     
    「……ってことは本音は?」
     
    「そろそろ強え奴らを手玉にとって遊びてえんだとよ」
     
    「何だそりゃ」
     
     苦笑する遊馬の横で、凌牙は頭を掻く。
     
    「つーわけで、この大会……企画と司会進行はアイツだぜ」
     
    「そうなの!? そりゃー楽しみだぜ!!」
     
     遊馬は目を輝かせる。彼ならきっと、自分には考えつかないようなキレのあるアイデアで、大会を盛り上げてくれるだろう。遊馬は純粋にそう思っていた。
     
    「そこで喜ぶのはお前くらいだろうよ……」
     
     にこにこと笑う遊馬に、凌牙は複雑な視線を送る。そこには呆れと、尊敬と、一種の恐怖が混じっていた。
     凌牙は目を閉じ、息を吐く。
     
    「ま、企画中も当日も――俺が見張っておくから、不審な動きはさせねぇよ」
     
     凌牙はそう言って目を開ける。視界に入る遊馬は、先ほどまでの笑顔ではなく――その顔には、失望の色がありありと浮かんでいた。
     
    「えっ、それって……シャークは出場しねえってことか……?」
     
     呆然とする遊馬に、凌牙は事も無げに答える。
     
    「そうなるな。そもそも主催団体のトップが出場すんのも変な話だろ。……ただでさえ前科があんのによ」
     
     自嘲気味に笑う凌牙に、遊馬が何かを言いかけたところで、会計を終えたカイトが合流した。
     
    「言っておくが俺も出場しない。新しいシステムを導入することになるからな……その整備で手一杯だ」
     
     淡々と述べるカイトと、それを黙って聞いている凌牙。そんな二人に、遊馬は堪えきれず声を荒らげる。
     
    「ちょっと待てよ!! 二人とも出場しないって……そんなの絶対ナシだろ!! 何でそんな簡単に諦めんだよ!!」
     
     遊馬の言葉は、彼の魂に滾る感情を余すことなく二人に伝える。遊馬の悲しみと怒りを目一杯ぶつけられた二人は、流石に揺らぐ心を隠せずにいた。
     
    「けどよ……」
     
    「しかしな……」
     
     目を泳がせながらも何とか反論の言葉を探す凌牙とカイトに、遊馬は瞳を潤ませて叫ぶ。
     
    「ケドもシカシもあるかよ!! せっかくアストラルも揃うってのに、お前らがいないなんて……オレはぜってー嫌だ!! オレは、お前らと一緒に戦いたいんだよ!!」
     
     遊馬の言葉が持つ力。絶望のどん底にすら希望を捩じ込み、動かないはずの心を揺さぶる、真っ直ぐな情熱。奇跡を起こすその光が、十年経った今でも変わらないことを――凌牙とカイトは身をもって知ったのだった。
     横に並んでいた二人は、顔を動かさずに視線だけを合わせると、今日一番の大きなため息をつく。
     
    「監視は璃緒に任せるか……この借りは高くつきそうだぜ」
     
    「……親父やVなら何とかするだろう。――トロンにリベンジさせてもらうとするか」
     
     その言葉に、遊馬の表情が明るくなる。
     
    「じゃあ、お前ら……」
     
     カイトと凌牙は遊馬を見つめる。それは友のようであり、兄のようであり、そして――常に遊馬の前に立つ、生涯のライバルたちの瞳。
     
    「俺を焚き付けたこと、後で後悔することになるぞ」
     
    「チャンピオンの称号ごと食らいつくしてやっから、覚悟しとけ」
     
     不敵な笑みを浮かべる二人に、遊馬はぐっと口角を上げて答える。
     
    「……おう! 絶対負けねえかんな! かっとビングだ、オレ!」

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