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    totoro_iru

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    totoro_iru

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    2年後銀→←新です。久しぶりに長谷川さんを書いたので口調が不安定かもしれません!
    タイトルはタイトル作りが苦手な私に代わって友人が考えてくださいましたヽ(^o^)丿

    #銀新
    silverNew

    オレンジジュースとウーロンハイ 居酒屋の引き戸を開けると酒に飲まれた人たちの威勢のよい熱気が立ち込めていた。ガチャガチャと食器が音を立て、ガハハと大きな笑い声があちこちで響いている。そんな喧騒の真ん中に新八の探し人、坂田銀時はいた。自分の腕を枕にしてカウンター席の机に顔を伏せている。その横で長谷川が『おっとっと』と頼りない手付きで酒を注いでいた。よくこんな場所で眠れるなと呆れと感心の混ざった溜め息を吐いて、新八は2人に近付いた。長谷川は新八に気が付くとヒラヒラと手を振った。

    「あっ、しんぱちくん。来てくれてありがとう」
    「たまたま帰るタイミングだったんで良かったです。それにしても珍しいですね、迎えを頼むなんて」

     いつもなら朝まで飲んでも1人でちゃんと万事屋まで帰って来られるはずだ。江戸からいなくなって2年という歳月が経っても、その習性は変わっていなかった。銀時が万事屋を帰る場所と本能で認識してくれている。その事に、新八は人知れず温かな喜びを感じていた。

    「なんか本気で寝始めちゃったみたいでさぁ。歩けるなら俺が運んでやれたんだけど、おんぶってなると流石に無理な気がするんだよね」

     たしかに酔っ払いが酔っ払いを背負って歩くのは難しいだろう。新八は『すみません』と長谷川に謝った。そして、確認のために銀時の肩をポンポンと叩いた。

    「銀さん起きてください。銀さん」

     反応はない。今度は叩いた肩を揺すってみる。返ってきたのはグゥグゥという寝息だけ。駄目だ、これは完全に寝入ってしまっている。どうしてこの大人はいつまで経っても自分で酒の許容量を把握できないのだろうか。知らない内に、新八の眉間に皺が寄った。

    「新八くんまだ時間あるかい?」
    「ありますけど僕まだ未成年ですよ」
    「知ってる、知ってる。銀さんがよく『まだ新八は飲めねぇから』って言ってるから」
    「えっ、僕の名前なんて出るんですか?」

     あの人いつもここで何の話をしているんだろうと、新八は不思議に思った。長谷川は新八の問いには応えず、笑いながら酒を煽ると店員にウーロンハイとオレンジジュースを頼んだ。

    「せっかくだから新八くんにちょっとだけ付き合ってもらおうかな。ほら、銀さんはもう潰れちゃってるし」

     長谷川は人差し指で銀時を差した。銀時は一向に起きる気配はない。新八は『失礼します』と言って長谷川の隣に座った。

    「それでさっきの話ですけど」
    「えっ、さっきの話って何だっけ?あっオレンジジュース来たよ。はい、じゃあかんぱーい」
    「かんぱーい……じゃなくて!何でこんな所で僕の名前なんて出るんですか?」

     長谷川は『あぁ、その話ね』と言ってウーロンハイに口を付けた。しかし、満足する味ではなかったのか悩ましげに首を傾げた。

    「しょっちゅう聞かされてるよ。特に酒が回ってる時はね」
    「どうせ愚痴とか文句ばっかでしょ」
    「んー、どうだろう」

     長谷川は割り箸をマドラー代わりにしてウーロンハイをかき混ぜた。

    「ほら、銀さんて天邪鬼なとこがあるだろ。言ってる事は文句でも言ってる時の銀さんは何というか……楽しそうって感じかな」

     長谷川の穏やかな低い声が新八の心にじんわりと沁み渡る。そうか、今を楽しいと思ってくれているのか。新八は湧き上がる心を抑えるように、グビリとオレンジジュースを煽った。

    「それは長谷川さんと飲んでるからですよ。僕らにはあの人絶対言いませんから」
    「えー、そうかい?嬉しいねぇ」

     長谷川は愉快そうな面持ちでウーロンハイを飲んだ。今度は納得のいく味だったのか、うんうんと頷きながらジョッキを置いた。

    「でもさっき『ヨボヨボになるまで飲み明かそうよ』って言ったら『先にヨボヨボになるのはアンタだけだろ』って言われたんだった」
    「そ、それはただの照れ隠しですよ!ほら、さっき長谷川さん言ってたじゃないですか『銀さんは天邪鬼なとこがある』って」

     新八は急にドヨンと落ち込んだ長谷川を励ました。それに、おそらく銀時の言葉は本当に照れ隠しな気がした。長谷川と飲みに行く時の銀時はどことなく足取りが軽く楽しそうで、新八は少しだけそれを羨ましく思っていたからだ。新八は長谷川に向かってペコリと頭を下げた。

    「僕からもお願いします。銀さんとこれからもずっと飲んでやってください」
    「新八くんに言われちゃったらなぁ」

     新八の言葉に、長谷川はまたコロッと気分が上がったようだ。ウーロンハイを半分まで飲み進めると、『じゃあ、俺からもお願いしちゃおっかなぁ』とご機嫌な口振りで言った。

    「新八くんもずっと銀さんの隣にいてやってよ」

     長谷川の言葉に、新八は言葉を詰まらせた。
     銀時とずっと一緒にいられる。それは新八が喉どころか、腹の底から手が出るほど欲しい権利だった。そして、それを決して望んではいけない事も重々承知していた。新八は目の前のオレンジジュースを一口飲んだ。せっかくのオレンジジュースなのに、甘い水が喉を通っていくような感覚だった。

    「僕じゃ駄目なんです」

     新八は伏し目がちに笑って、グラスを両手で強く握りしめた。長谷川はじっと新八の顔を見つめた。弱々しい言葉の割には強い意志のある瞳をしている。覚悟と、諦めと、何かが渦巻くような瞳。18歳の青年がするような目ではなかった。

    「何で新八くんじゃ駄目なの?」

     長谷川に尋ねられ、新八はぐっと唇を噛み締めた。そして、一度大きく息を吐くとゆっくり口を開いた。

    「僕じゃ銀さんに月並みの幸せを与えてやれないんです」

     ずっと孤独に耐えてきた人だ。激動の半生を送ってきたあの人にこれからは月並みの幸せが訪れる事を、新八は心から願っていた。そう、月並みでいい。妻がいて、子どもがいて、季節の行事を楽しめるような凡庸な幸せ。できる事なら自分がその幸せを与えてやりたかった。それだけが心をギリギリと締め付ける。だから、決めた。いつかその時が来たら盛大に拍手を送る、送ってみせる。

    「銀さんが一生を添い遂げたい人が現れるまでは僕が隣に……」

     新八の声は少しずつ小さくなって消えてしまった。嗚呼、誰にも言うつもりはなかったのに。新八は長谷川の向こうで寝ている銀時をチラリと見た。相変わらず肩を上下させ、寝息を立てているのを確認してホッと胸を撫で下ろす。その横で長谷川は机に肘をついて手を組み、深刻そうな雰囲気を醸し出していた。それ他のアニメのポーズだろとツッコミを入れるべきか新八は迷った。

    「えっと、長谷川さん?」
    「フフフ」
    「えっ?」
    「アハハハ!」

     長谷川の肩が小刻みに揺れ始めたと思ったら、やがてそれは大きな笑い声へと変わった。ヒィヒィと片腹を抑えて爆笑している長谷川に、新八は目をパチクリと瞬かせた。えっ、このタイミングで酒が回ったの?ていうか僕の話なんて全く聞いてなかったってわけ?

    「ちょっと!長谷川さん大丈夫ですか?」

     新八は自分のオレンジジュースを酔い冷ましに飲ませようとしたが、長谷川は片手で制した。

    「大丈夫、大丈夫。酔いが回った訳じゃないから」
    「酔っ払いは大体そう言いいます」
    「ほんと、ほんと。でも、そっかぁ。新八くんそんな事考えてたんだねぇ」

     笑い過ぎて涙でも出たのか、長谷川はサングラスを外しておしぼりを目に当てた。そして、サングラスを掛け直すと新八の肩をポンポンと叩いた。

    「いいじゃない。それじゃあ、隣にいてやってよ。銀さんに『一生添い遂げたい人』っていうのが現れるまでさ」

     長谷川のあっけらかんとした態度に、新八は一気に肩の力が抜けた。かなり真剣な話をしていたはずなのに、何故か笑い話みたいな感じになってしまった。新八はジトリとした目で長谷川を見つめた。

    「真面目に聞いてます?」
    「聞いてるよ。でもほら、酔っ払いに話してるの前提だしね」

     酔っ払いってどうしてこうもいい加減な人しかいないのか。どうせ今日の話も明日になれば忘れられているに違いない。新八は大袈裟に息を吐き出した。

    「僕もう帰ります」
    「うんうん。それじゃ、銀さんの事よろしくね」

     そうだ、まだ自分にはもう一仕事残っているんだった。新八はオレンジジュースを一気に飲み干すと席を立った。そして、慣れた手付きで一回り大きな大人を背負った。

    「あっ、お代は?」

     長谷川は『あー、お代ね』と考える素振りを見せた後、ニコリと笑った。

    「そしたら新八くんの出世払いにしとこうかな」

     長谷川に2人分の飲み代を払える経済力があった事に少しばかり驚きつつ、新八はお礼を言って居酒屋を出た。
     新八たちがいなくなった後で、長谷川は頬杖をついて先程の新八の言葉を思い出していた。あぁ、駄目だ。やはり面白い。堪えきれずにクククと笑い声が漏れた。

    「銀さんも同じ事言ってたんだよなぁ」

     あの子に『一生添い遂げたい人』が現れるまでは隣にと、酒に溺れながら吐露する瞳は先程の新八のような強さを秘めていた。
     さて、あの様子なら2人ともお互いの気持ちには気付いてないようだ。年寄りのお節介かもしれないが、このまま死ぬまでお互いの想いが通じ合わないのはどうにも面白くない。もし新八が20歳を迎えた時までに何も進展しなければ、その時は……。

    「ここで2人に良い酒を浴びるほど飲んでもらおっかな」

     互いの気持ちを教えてやるなんて、そんな野暮な真似はしない。あくまでも切っ掛けを与えるだけ。酒の力は偉大なのだ。良い酒の前なら、きっと今まで溜め込んできた想いだって吐き出せるだろう。
     長谷川は氷が溶けてしまったウーロンハイを美味しそうに飲み干した。
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    totoro_iru

    DOODLE2年後銀→←新です。久しぶりに長谷川さんを書いたので口調が不安定かもしれません!
    タイトルはタイトル作りが苦手な私に代わって友人が考えてくださいましたヽ(^o^)丿
    オレンジジュースとウーロンハイ 居酒屋の引き戸を開けると酒に飲まれた人たちの威勢のよい熱気が立ち込めていた。ガチャガチャと食器が音を立て、ガハハと大きな笑い声があちこちで響いている。そんな喧騒の真ん中に新八の探し人、坂田銀時はいた。自分の腕を枕にしてカウンター席の机に顔を伏せている。その横で長谷川が『おっとっと』と頼りない手付きで酒を注いでいた。よくこんな場所で眠れるなと呆れと感心の混ざった溜め息を吐いて、新八は2人に近付いた。長谷川は新八に気が付くとヒラヒラと手を振った。

    「あっ、しんぱちくん。来てくれてありがとう」
    「たまたま帰るタイミングだったんで良かったです。それにしても珍しいですね、迎えを頼むなんて」

     いつもなら朝まで飲んでも1人でちゃんと万事屋まで帰って来られるはずだ。江戸からいなくなって2年という歳月が経っても、その習性は変わっていなかった。銀時が万事屋を帰る場所と本能で認識してくれている。その事に、新八は人知れず温かな喜びを感じていた。
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    DOODLE2年後銀→←新です。久しぶりに長谷川さんを書いたので口調が不安定かもしれません!
    タイトルはタイトル作りが苦手な私に代わって友人が考えてくださいましたヽ(^o^)丿
    オレンジジュースとウーロンハイ 居酒屋の引き戸を開けると酒に飲まれた人たちの威勢のよい熱気が立ち込めていた。ガチャガチャと食器が音を立て、ガハハと大きな笑い声があちこちで響いている。そんな喧騒の真ん中に新八の探し人、坂田銀時はいた。自分の腕を枕にしてカウンター席の机に顔を伏せている。その横で長谷川が『おっとっと』と頼りない手付きで酒を注いでいた。よくこんな場所で眠れるなと呆れと感心の混ざった溜め息を吐いて、新八は2人に近付いた。長谷川は新八に気が付くとヒラヒラと手を振った。

    「あっ、しんぱちくん。来てくれてありがとう」
    「たまたま帰るタイミングだったんで良かったです。それにしても珍しいですね、迎えを頼むなんて」

     いつもなら朝まで飲んでも1人でちゃんと万事屋まで帰って来られるはずだ。江戸からいなくなって2年という歳月が経っても、その習性は変わっていなかった。銀時が万事屋を帰る場所と本能で認識してくれている。その事に、新八は人知れず温かな喜びを感じていた。
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