味覚を失った江澄が藍曦臣とリハビリする話(予定)①味がしない、と江澄が気付いたのは違和感を覚えてから二月ほど経った頃だった。
はじめは熱さと冷たさ以外を感じないとふと思ったのがきっかけだった。けれど仕事に追われてかき込むように食事を済ませるかいっそ食べずにいるかという状況が立て続いていたせいだと思っていた。
次に夜狩に出た先で姑蘇藍氏の師弟を率いた魏無羨と遭遇し、諸々あって野営することになって魏無羨が作った真っ赤な煮込み料理に周囲が悶絶するなか、見た目ほどのものではないと胃の中に流し込んだ江澄は、その理由を単に自分が昔から食べ慣れていたからだと思っていた。不味いと魏無羨を殴りつけることは忘れなかったし翌日多少腹の具合も宜しくなかったが、それでもそういえば刺激臭は酷かったがそんなに辛かっただろうかと首を捻りかけ、立て続いた怪異の報告に瑣末なことは忘れた。
2333