雨音、心音、移る熱朝からパラパラと降っていた雨は、午後に入るといよいよ大降りとなり、部屋の中にいても叩きつけるような雨音が聞こえてくる。天気が良ければせっかくの休日。キバナと一緒に出掛けようと思っていたダンデだが、この天気だ。今日はもう家の中で積んでいた本を読んでしまおうと、本を置いてある寝室へと向かう。
几帳面なキバナによってダンデが買うだけ買って寝る前に読もうとベッド脇の床に積み上げた本は、いつからか種類ごとに分類されてベッド横の収納ラックの中に並べられている。「オレさまも読みたいやつあったし、ついでだよ」なんて言ってくれた彼の優しい言葉に感謝しつつ、ダンデは目当ての本を見つけるとそのままベッドの上に腰を下ろし、本を開いた。
雨の音は未だに耳奥に響いたままだった。
どれくらい時間が経ったのか、ダンデが夢中になって文字の波を目で追っていると、背中側にズシリと重さがかかる。それにさして驚いた様子は無いまま、ページを捲り続ける。寄りかかってきた男の方も、何か声を掛けるでもなくそのままモゾリと座りの良い場所を探すと、スマホの画面に集中し始めた。
寄りかかってきた正体であるキバナは、最近時々こうしてただ静かにダンデにくっついて過ごすことが増えた。理由は分からないが、触れ合った場所から伝わる熱がどうにも心地良く。結局ダンデも理由を聞かず、互いに熱を分け合って過ごす習慣が続いている。
鼻歌混じりにスマホを触る音、紙を捲る音だけが部屋の中を歩き回っている。背中にじんわりと移ってくる熱が心地良く、ダンデはもう少ししっかりとくっ付きたくてキバナへと体重をかける。重いだろうか、と考えたがキバナは変わらず機嫌が良さそうに手元のスマホを弄っている。大丈夫そうだと分かると、ダンデはもう一度手元に集中した。
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「あれ?」
「ん。起きたの。」
薄らと瞼を開けると、頭の上から声が落ちてくる。いつの間にか眠ってしまっていたらしいと気付いたダンデだが、記憶の中では背中合わせで居たはずなのにいつの間にか頭はキバナの膝の上へと乗せられており、状況を掴もうと寝ぼけ眼で瞬きをしている間にも、大きな掌でゆっくりと頭を優しく撫でられる。その掌の温かさに、もう一度瞼が自然と下がってくる。
「もう少し寝てたら。」
「…うーん…。でも、」
「夕飯前には起こしやてやるから。」
「…ん。」
やがて震えていた瞼が動かなくなり、寝息が深く、長くなったことを確認してから、キバナはそっと頭を撫でていた手をダンデの首元へと添える。
とくりとくり
指先を押し返してくるような力強い音を、少し冷えた指先で感じながら、キバナはそれから雨が止むまで、ずっとダンデの音を聴いていた。
命の音を聞いていた。