ずっとキラキラが見えた ナックルシティの少し奥まった所にある漆喰と煉瓦壁が特徴の小さなティールームの一角。青々とした観葉植物が並べられたコンサーバトリー内では、淡いブルーの茶器に注がれた花のような香りのする紅茶に、同じく淡い色を基調にしたティースタンド。その上には宝石のような軽食やお菓子達が行儀良く並んでいた。
「…おお…キラキラだぜ!」
テーブルに広げられたそれらを、琥珀色の瞳を無邪気に輝かせながら笑顔になるダンデの姿に、キバナはホッと胸を撫で下ろす。
「喜んでくれて良かった」
「お昼、迷子になってたら食べ損ねてたんだ。助かったぜ」
「そんなに歩き回ってたのかよ?電話すればよかったじゃん」
「いや、まあそうなんだが。服を見てもらいたいって電話は流石にし難くて…」
「いつも似たような理由で電話してくんのに?」
ダンデは大抵、「でかいポケモンの巣穴を見つけた」「今ここはどこだろう」なんていう内容で夜中だろうと遠慮なくメッセージや電話をしてくるのに、「可愛いらしい服を着たから見て欲しい」は電話で言うのは難しい。違いはよく分からないが、乙女心ってやつかな?なんて最近聞き齧った知識を思い出してキバナが笑うと、ダンデは揶揄われてると思ったのか少しだけ口を尖らせる。誤解を解く為に慌てて「可愛いって思っただけ」と素直に伝えると、目に見えてダンデは動揺していた。
「きっ!キミ、そういうのストレートにくるの…心臓に悪いぜ」
ウロウロと視線を彷徨わせながらも照れくさそうに笑顔になる姿に、キバナもなんだかむず痒い気持ちになって照れ笑いをする。暫く二人でよく分からない沈黙を過ごす。それすらも、キバナは何故だか楽しかった。
「…可愛い服を着てこんな素敵な場所に来ていると、本当にお姫様にでもなった気分になるぜ」
「ではお姫様、冷める前にまずは紅茶をどうぞ?」
「ふふっ…よきにはからえって言えばいいのか?」
「それは違うって!」
お姫様呼びにも少し慣れたのか、ちょっと恥ずかしそうにしながらも冗談で返すダンデと二人で、クスクスと笑いながら手元の茶器へと目を向ける。先程店主によって注がれた紅茶はまだ温かく、ポットにもガラルポニータと木苺柄のティーコジーが掛けられていて暫く冷めることを心配することはしなくて良さそうだった。
「好きだな」
テーブルの上に目を向けていたキバナは、突然聞こえてきた好きという単語にドキリとして顔を上げる。そこには、指先で綺麗にティーカップをつまんで持ち上げて蕩けるような笑顔を見せるダンデがいて。恋心を自覚したばかりの少年には些か心臓に悪かった。
「この紅茶の香り、凄く好きだぜ」
「…そっ!そうだよな!へへっ…ははは…」
「どうしたんだ?」
香りを楽しみつつ、流れるような所作で紅茶を楽しむダンデの姿に、またもやいつもとは違った可愛らしさを感じて。もう一度心の中でゴロゴロと悶え転がるキバナは、それをなんとか顔には出さずに自分も紅茶を口に運ぶ。ホロリと香る優しい香りに少しだけ心が落ち着く。
「ここ、ティーフードも美味いぜ」
「どれも美味しそうだなぁ…あっ!プチバーガーのピックの先、ペロッパフの形してるぜ…顔も描いてある。可愛いなぁ」
落とさないようにそっとバーガーを手に取るダンデを見て、彼女と全く同じ言葉を違う意味で一緒になって呟き、同じように眺める。満面の笑みでこちらを見つめてくるわたあめポケモンは確かにとても可愛かった。バトルで出てくるとちょっとだけ嫌だけど。
「ここのプチバーガーはな…ってお前、茶を飲む作法は綺麗なのに食べる時だけ早食いのままなのかよ!」
「!!…ひゅまない!ほいひかったから」
「…飲み込んでから喋れって」
紅茶を飲む時の所作とは打って変わってフードは思いっきり口に詰め込んだのだろう。ホシガリスのように頬をぱんぱんにしながら、ピックのポケモンと同じような笑顔でバーガーやサンドウィッチを味わうダンデに、少し悪戯心が生まれたキバナは自分のロトムスマホを呼び出す。
「ヘイロトム、ダンデのホシガリス顔撮ってくれよ!」
「!!?」
パシャリ。
びっくりしたように目を見開いたまま、ロトムに撮られたダンデの顔は、やっぱりお姫様みたいに可愛かった。