【若トマ】タイトル未定の長編予定① 久しぶりに指を掛けた天袋は、踏み台も背伸びすらも必要なくなっていた。
あの頃、腕に抱えて懸命に持ち上げたはずのソレを手に取るのだって、いまでは片方だけで事足りる。
天袋から取り出したソレ――1本の酒瓶を見下ろし、トーマはなにともつかぬ息をひとつ臓腑から押し出した。
光を通さぬよう色付けられた瓶の中。ちゃぷんと波打つその酒は、なみなみと瓶を満たしたままであるというのに、どうにも妙な心地を覚える。
こんなに頼りないものだったろうか。
もっとずっと、重くて。苦しくて。でも手放すことはしたくなくて。そうして、屋敷の一角に与えられたこの部屋の高い所へ。日の、届かぬ場所へ。懸命に置いやったはずではなかったか。
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