"It was you who taught me true love."▷▶︎▷
恋とか愛とかって別に意味なんて無いと思ってた。恋愛だってそう、今迄付き合ってきた女子たちは"何となく"で始まったし、酔った勢いで始まったものもあれば、向こうが「好き」って言ったから『俺も』って答えたのが始まりだったり。
ぶっちゃけ付き合う事に理由なんて、どーでも良かった。恋愛ってそんなモンだとおもってたし、なんとなく始まった物は気づいたら終わってた。俺としては"あぁ、呆気ないな"という感情以外何者でもなかった。
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きっかけは、なんて事ない事からだった。
その日はVOXもルカもアイクも各々出掛けていて、帰ってくるのも明日になると告げられた。
そこで、家に残ったのはシュウと俺の2人だったから皆が居ない時にしか出来ない事をしようってなったのがはじまりだった。
2人して、昼間っから街に出掛けてあれやこれやカゴに放り投げて。こんな日はピザを頼もうって提案してきたのはシュウだし、こんなの2人で食いきれねぇだろって程の量を頼み始めた時は正直焦ったけど何よりも楽しそうなシュウを見ていたら無性に嬉しくなった。
そんな中、とある提案思いついた。
「なぁ、折角だし酒も飲もうぜシュウ」
酒が入れば余計楽しくなる、その時は何も考えずにそう思ってた。シュウと2人で飲む事だって経験が無かったから飲んでみたい気持ちも先行した。一瞬戸惑ったような表情を見せ、「えぇ」と言葉を漏らす。
「んだよ、嫌なの?」
「うーん、嫌じゃないんだけど」
口元に手を当てごにょごにょと言葉を詰まらせるシュウをじっと見ていると、ふとシュウは視線に気づいたようで目が合う。
「ま、いっか。いいよ。今日は付き合う」
呟くように、了承の言葉を漏らした後、俺の横を通り過ぎるとそのまま楽しそうに酒の陳列棚を食い入るように見つめていた。
「シュウ、無理してない?」
何となく無理に付き合わせたのではと不安になりシュウの背中に問いかける。
その質問を聞くなり顔だけこちらに向け首を傾ける。
「僕は、無理な時は無理って言うでしょ」
当然のように言い放ち、それに…と言葉を続ける。
「僕もミスタと飲みたいから良いの」
言葉を弾ませシュウの唇が弧を描く。
「じゃあ、今日は潰れるまで俺に付き合ってもらうから」
思わず嬉しくなり、肩を組み冗談交じりに言うとシュウは、んはは!と声を上げて楽しそうに笑った。
その帰り道俺達は荷物を両手に抱え、2人でふざけ合いながら冷たいストリートを歩いた。
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シュウがふざけて頼んでいた20inchのピザを2人で平らげるには時間がかかったし、俺が独断で選んだウイスキーは気づいたら半分以下になっていた。俺はショットで、シュウはすぐ酔ってしまうからという理由で此奴の好きな炭酸多めで割って少しずつ飲んでいた。
2人だけのパーティが始まってから3時間程が経過した時、それまでは食事をしたり下らないミームの話をしたり、2人でゲームをしていたが、お互いに酔いも回ったせいか会話も少なくなりぼうとTVを見ているだけになっていた。
俺はソファに座りショットグラスを再び喉に流し込むと、ソファの足元にぺたりと座り毛布に包まれてるシュウの首元は既に真っ赤になっていた。
ぼうと見つめるシュウの視線の先は所謂恋愛ドラマで。なんとなく付けた番組故、ストーリーも全く分からないまま見始めたがきっとこの2人は今いい雰囲気なんだろうと予測が出来るシーンだった。
そんなシーンを俺も一緒にみながら、思わず口が開く。
「シュウ、ってさぁ」
俺の問いかけにぴくりと反応したのが分かったがこちらを振り向く様子もない。ただ手元に大事そうに持たれていたグラスをゆっくりと口につける。
「恋愛とかしたこと、あんの」
続けてそう、問いかけるとシュウは傾けたグラスをそのままに動きが停止する。
ごくり、と喉を鳴らすといずれにせよこちらを向くことも無く
「さぁ、どう、だろう」
と酷く濁したような返答が来た。
やっぱり言うわけないよな。と思った。
出会った頃から、シュウは話題から逃げている傾向はあったしシュウ以外のメンバーの色恋沙汰は割と聞くが唯一此奴だけの事が分からないのだ。
「どうだろう、って自分のこったろうよ」
少し笑いながらそう言うと、シュウの動きが止まっているのがわかった。
なんとなく、異変を感じ身体を傾けシュウを覗き込むと目を伏せグラスを指でなぞっていた。酒のせいか目元まで赤くなってしまったその肌と、充血してしまった目元は少し潤んで居た。
「ッ、シュウ、大丈夫かよ。もう酒やめよ」
そう言ってグラスを取り上げようとグラスを上から掴むと強い力でグラスを握っていた。
「待って、もう少し飲みたい、今日は」
そう言うと俺の手ごと口元にグラスを持っていき残っていた分のウイスキーを喉に一気に流し込んだ。炭酸で割っているとは言え、その言動思わず吃驚し、酒を一気に流し込むシュウを止めることが出来なかった。
しかし、これ以上飲ませるわけにはいかない。
「シューウ。もうやめよ、これ以上は危ねぇわ」
シュウが強く掴むコップにもう一度手をかけ宥めるようにソファから降り、同じようにぺたりと床に座り横に並ぶ。
「うっわ、床つめてぇ、毛布俺にもいれて」
シュウに掛けられていた毛布の隙間にするりと自分の身体をいれ1枚の毛布に2人分の身体がくるまった。大分飲んだせいかシュウの身体はとても熱くその熱がじわじわと伝わる。
シュウは俺からグラスを素直に取り上げられると目は伏せたまま指を弄る。
「シュウ、もう今日は寝る?」
そう聞くと、首を横に振る。
「分からないんだ、僕」
突然自分の問とは別の回答が返ってきて一瞬困惑する。何が、と聞く前にこうなってしまった前に言った自分の質問を思い出す。
「どう、人を好きになるのかがわからない。僕はみんなの事が好きだけど、じゃあ恋とか愛とかと言われると何か違うってなる」
シュウにしては凄く曖昧な表現でポツポツの話し始める。
「あーでもさ、周りに仲良くて可愛い女子沢山いるじゃん。ほら…ペトラとか、仲良いでしょゲーム一緒にするしさ」
「ペトラは…そうだね、話してて楽しいし可愛らしいと、思う。けど、恋愛として見る事は僕はないかな」
何となく例を挙げてみたが
そうでは無いと首をふ振る。
「僕、人を好きになったことがないんだよ、恋愛って意味で」
そう言うと隣に座る俺を目をゆっくりとみた。
「ね、おかしい、でしょ?」
そう自虐的に笑うシュウの瞳の奥には少しの悲しさが含んでいるようだった。
シュウは普段からよく喋る方だが本質的に自分の根っこの部分を人に話すようなタイプでは無いと感じてした。それは彼の口から恋愛の話をしてこない事にも繋がっている事に気づいた。
「ま、別に無理に人を好きになる必要なんて無いと思うけど」
「そうかな」
「つーか、絶対に恋愛しなきゃいけない訳でもなけりゃ、ペースなんて人それぞれだろうし」
別におかしい事じゃねぇからに気にしなくたっていいと言葉を添えると、暫くシュウは言葉を発さず目を伏せた。そして、考えるように口から言葉を零す。
「僕が今日、ね。ミスタにお酒飲もうって言われた時に少し悩んだのは、お酒を飲むと少し自分の弱い所を見せちゃう気がして嫌なんだ」
こんな事知ったところで誰の得にもならないじゃん。と言った。
「悪い、やっぱり俺付き合わせちゃったな」
無理させていたのかもとシュウの一言で反省した。
すると一瞬何故俺が謝るのかと言いたげに目を丸くさせた後、少し微笑みううんとゆっくり首を振る。
「そうじゃないよ、この事誰かも言わなかったのは僕だしね。それにすぐに解決出来ることじゃないと思う」
僕の話しを笑わずに聞いくれてありがとう。とシュウは足を抱えたまま頭を乗せにっこりと微笑む。
「…ミスタは、さ」
「うん?」
「あるんでしょ、誰かと付き合ったこと」
不意打ちだった。まさかシュウからそんなダイレクトな質問が飛んでくると思わなかったし散々話してきたから知っている筈。
わざわざこの状況で改めて聞かれると不思議と羞恥が込み上げてくる。
「あー、ウン、そうね、」
思わずカタコトになって返事を聞きシュウはくすくすと肩を揺らして笑う。
「ふは、なにその返事。どう、だった?」
普段よりも声色が柔らかく、先程一気に酒を煽った所為で、今にも寝そうなシュウの声で問われる質問は純粋なものだった。
「あーー…そう、だな。恋愛最高って感じ。付き合ったコ達、皆可愛かったし…」
「へぇ」
俺の酷く雑な回答にシュウは、恐らく思考が回ってない状態でふわふわと相槌を打つ。
「いいね、僕も、いつかそうなりたいな」
「ッ……」
シュウは決して可愛い女の子と付き合いとかそういう意味じゃない、シュウは"誰かを心から好きになってみたい"と言う感情なのだとその一言から全身に伝わった。
その言葉に心臓の奥がぐずりと抉られるような感覚。これは決して同情なんかじゃない。
シュウには、いつか好きな奴が出来て幸せになって欲しいと思った。
…俺だったら、
ぼうっとシュウの目を見つめ、徐々に酔いが回ってくる中、唇が自然と動いていた。
「なら、試してみる?」
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「………タ…スタ…!」
遠くで誰かの叫び声が聞こえる。
んだよ…うるせぇな…大声はマジで頭に響く…そんなことを頭の中で悪態を付いていると
「ミーーースーーーターーー!?」
先程の倍の声量が俺の耳元にダイレクトに伝わる。その声に思わずビクリと体が震え一気に目が冴える。
「もう!ミスタ何してるの!?」
眠っていた所を突然叩き起され、回らない頭に視線をうろうろさせていると1番に視界に飛び込んで来たのは、怒った表情のアイク・イーヴランドの姿。
「僕達が居ないからって…こんなに居間を荒らしたら駄目でしょ!こんなに散らかして!ちゃんと片付けてよね!」
もーとアイクは怒り続け床に散らばるゴミに手をかけていた。気づくと俺は1人で床に眠っていたようで体には毛布がかかっていた。
「あ、れ…シュウ…は…」
「え、シュウ?」
アイクは怪訝そうな顔を向け手を止める。
「何、ミスタ昨日シュウと飲んでたの?」
「あれ…あー、ウン、そうシュウと…」
周りを見渡してもシュウの姿は無い。
「僕が帰ってきた時は居間にはミスタだけだったし…部屋にもいなかったと思うけど…」
俺は、あの後どうなったんだっけと痛む頭を抑え記憶を1人で辿る。断片的にしか思い出せない。
「う"ー…あったまいてぇ……」
「ウイスキー丸々開けたらそうなるでしょ…」
アイクに小言を言われながら2人で話していると、暫くして居間のドアが開く音が聞こえた。
ドアが開く方へ視線を向ければ、そこには袋を下げて髪の毛を括ったシュウの姿だった。
「あれ、シュウ出かけてたの?」
「あ、アイク。帰ってたんだね、おかえりなさい」
そう言うと無言で俺の元にシュウは近づくと、ずいと袋を寄越す。
「はいコレ。水と二日酔いに効く薬ね」
「え、は、ハイ」
その光景にポカンとしてるままの俺を見下ろすように立ち尽くすシュウは小さく口を開く。
「ね、ミスタ」
「なに…」
「今度は絶対飲みすぎちゃダメだよ」
そう言い放つと、俺の返事を聞く間もなく
シュウはくるりと背を向けた。
「アイクごめん、僕も手伝う」
家の片付けをはじめ、アイクと楽しそうに喋るシュウの後ろ姿には、昨日俺が見たシュウの姿はすっかり無くなってしまっていた。
もしかしたら、俺は後半夢を見ていただけなのかもしれないな。と頭の中の予想に無理やり終止符を打ち、流し込むように水を飲み干した。
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