恋人の作法 すこしは恋人らしいことでもしてみようかと思った。なにせ乾は暇だった。仕事で忙しそうな九井を労わってやろうという気持ちもあった。
恋人らしいってなんだろう。ちょっと考えて、乾は九井が座るソファーの隣に座った。
「ん? なに? 腹でも減った? ちょっと早いけど、飯にする?」
乾の思っていた反応と違う。ちょっとむっとした。もしかしたらココは鈍いのかもしれない。思い切って九井に身を寄せる。
「え、なに?」
なぜか腰を浮かしかけた九井の手を取り、強引に手をつなぐ。ようやく乾の意図を悟ったのだろう。九井は「えっ」と素っ頓狂な声をあげた。もしかしたらココは初心なのかもしれない。仕事が生きがいと豪語する男だ。恋人らしいことと無縁なんだろうか。じゃあ、オレがリードしてやらねぇと。
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