所詮は子どもが射た矢だった。意図せず放たれたそれは緩く張られた弦を思わせる緩慢さで右目に届き、新雪に踏み入る子鹿の蹄音に似た音をたてた。杉元は初めから決まっていたかのようにてきぱきと目を取り除き、汚染された血を吸い出した。毒がまわる間もなく目は抉り取られ、空洞と僅かな痺れだけが死にかけた証左だった。視界を塞がれ、荷物のように運ばれ、放り出され、簀巻きにされ、まるで無力な赤ん坊のようだった。
背負われながら首でも締めてやろうかと思いついた。立ち所に返り討ちにあうのは目に見えているが、そうでもしなけりゃ腹の虫がおさまらない。
俺は怒っているのだろうか?と考える。それにしては心は静かだ。ずっと待ち焦がれていたような痛みが続く。目に見える欠落を手に入れて人心地ついている。何故だろう、今までにない生きている実感がある。
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