体温今日は祝日で学校も部活も休み。
朝起きたら天気もいいし急にどこかに行きたくなって隣で寝ている流川を起こす。
「天気いいぞ、どっか行かね?」
「ん…」
まだ寝ぼけてむにゃむにゃしてる流川のほっぺたを指でツンツンして
「デートしようぜ」
その言葉でパチっと目が開き視線が絡む。
「…はよー」
流川からちゅっとおはようのキス。
「デートいく」
といいながら花道の体を抱きしめて離れる気配はナシ。
「いかねーの?」
「いく…でももうちょっとくっついてたい」
確かに素肌でくっつくのは気持ちいい。
特にこんなにゆっくりできる朝は少ないからもうちょっとゆっくりしていたい気もする。
あと30分…
なんてくっついていたら流川が盛ってしまい結局家を出たのはお昼近く。
「おめーのせいで家出るの遅くなったじゃねーか!」
「花が可愛いのが悪い。さそってた絶対」
「さそってねーし!」
流川のお尻に軽く一発膝蹴りを入れて電車に乗った。
祝日の昼下がり。
水族館に行こうと乗った電車は家族連れやカップル、友達グループなどでそこそこの混雑ぶり。
乗って早々花道の肩に頭を乗せて寝始める流川。
いつも部活が忙しい上にお互いバスケバカゆえたまに1日フリーな日ができると結局どこにも出かけず家で身体を重ねてダラダラしてワンオンに明け暮れることが多いのだが、今日はいい天気につられて外出。
久々に見た流川の私服姿はやっぱりちょっと特別感。
とは言っても出かける用意をしていなかったから全部オレの服だが。
いつもジャージか制服、または一糸纏わぬ姿…ばかり見ているから、いつもと違う流川にちょっとドキドキしているのも事実。
肩に乗ってる顔を覗き込む。
ほんとに整った顔。
長いまつ毛に切長の目、身長も高くてモデルみたい。
そんなヤツが「なんでオレなんか」っていう考えはこいつから告られた時から一度だって消えたことはないけど、付き合ってみてほんとに愛されてるなって素直に感じるから。
なんて。
今朝の情事を思い出してしまいなんだか恥ずかしくなってきた。
セックスの時流川がオレを見る目がたまらなく好き。
あの顔はオレしか知らない、流川がオレにしか見せない顔。
それを知っていることに優越感を感じている自分もいる。
ガタン!
電車が揺れた。
流川は日頃から鍛えている体幹のおかげか、特に問題もなく寝続けている。
ホッとすると同時に背後に感じる不穏な感触。
え…?
自分の臀部に感じる違和感。
触られてる?
イヤイヤ、男だしまさかまさか。
さっきの揺れでたまたま当たってるだけか?
そこに意識が集中する。
当たってるのではない、明らかに意図を持って桜木の臀部を触っている。
あまりのことに体が硬直する。
ケンカをふっかけられたのであれば体も普通に動くであろうが、こういう下のことにはめっぽう弱い上に今朝流川が侵入したそこは敏感になっている。
体を動かしてどうにか逃れようとするもののそこそこの混雑状況、その対象物からなかなか体を離すことができない。
くそっ…
手は臀部側面部から中心部に移動し割れ目の上をなぞる。
ゾクゾクッ!
鳥肌がたった。
流川以外に触れさせたことのないそこに服の上とはいえ知らない誰かの指が這う。
キモチワルイキモチワルイキモチワルイ!
気持ちではそう思っても体がいうことをきかない。
その指は臀部の割れ目をなぞりスーッと下へ下がる。
ヤダ、そこはダメ!
キツく目を閉じた。
「オイコラ!オレのもんに勝手に触ってんじゃねー!」
隣で寝ていた流川がそいつの手を取る。
と同時に電車のドアが開き流川の手を振り解いて男が逃げる。
「コラ待て!」
流川がオレの手を引いて電車を降りるも男の姿は既に見当たらない。
乗っていた電車のドアが閉まりゆっくりと動き出した。
乗客は何事かとこちらを見ていたが、間も無くして電車はホームから走り去った。
「おい花、大丈夫か?」
心配そうに顔を覗き込む。
その顔に安心してポロポロと涙が零れた。
流川が花道を優しく抱きしめる。
流川の体温と匂いに包まれて少し落ち着いた。
「少し座るか?」
手を引かれて空いているベンチに2人で座る。
流川から離れたくなくて流川の肩に頭を預けるとその頭を流川の手が優しく撫でる。
その優しさにまたあふれ出す涙。
「こわかったな」
「ん…」
「次はちゃんとオレに言え。大切なおまえにあんなことされてすげー悔しい!」
流川の心拍数と体温が上がる。
相当怒っているようだ。
「ごめん」
「花が謝ることじゃない。悪いのはアイツ」
花道の頭を自分の首元に押し付ける。
「花のこと守りたい。彼氏としてちゃんと」
その言葉に止まりかけていた涙がまたあふれだす。
いつもはバカみたいに言い合ったりケンカしたりしてるけど、流川ほど自分のことを大切に想ってくれる人はいないと思う。
結局あの後気分が落ち込んでしまい水族館には行かずに帰宅した。
帰宅してからも流川はずっと抱きしめてくれている。
「せっかくのデートだったのに…ごめん」
流川の胸の中で呟くようにいう。
「花は悪くないんだから謝らなくていい。それにオレはおまえといられれば水族館だろうが家だろうがストバスコートだろうがどこだってかまわない」
そういって頭にキスを落とす。
「おまえが元気になるまでずっとそばにいるから安心して」
「…でも明日学校」
「んなのカンケーねぇ!」
そんな言葉にふふっと笑ってしまう。
自分の恋人が流川で本当に良かった。
こんなに大切にしてくれてこんなに愛してくれて自分の事よりオレのことを優先してくれる。
「ねぇカエ、ずっと一緒にいて…」
名前で呼ばれたことにちょっと驚いた顔をしたが、すぐに
「たりめーだ」
そういって強く抱きしめてくれた。
「ねぇカエ好き。カエがオレの彼氏でほんとうによかった」
今日は流川の優しさに触れてなんだか素直になりすぎている気もするけど、たまにはこんな日もいい。
こんな気持ちにならないと面と向かって言えないこともある。
上目遣いに流川を見ると優しい視線が降ってきた。
顎を持ち上げられ流川の唇が重なる。
少し長めのキスの後
「死んでも離さねーし誰にも渡さねぇ」
そしてまたきつく抱きしめられその温かさに身を委ねる。
——今はもう少しあなたの体温を身近に感じていたい——