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    かわい

    @akidensaikooo

    アキデンの小説連載とR18漫画をぽいぽいします

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    かわい

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    元セフレの転生アキデン、10話。

    One Day 10「――――アキ!!」

    デンジが勢いよく開けた病室の中に、アキはいた。
    晩夏の空の色をした瞳を丸くして、ベッドに座ったままデンジを見つめている。
    頭や腕に包帯を巻いているし、頬にもガーゼが付けられていたが、アキの意識ははっきりしているようだった。

    「……デンジ!?」
    「ア、アキ……い、いたあぁ…………」

    デンジはとぼとぼとアキに近寄りながら、デンジは顔を見てぐしゃりと歪めてぼろぼろと泣き出した。ぼろぼろ、ぼろぼろ。栓が壊れた水道みたいに涙が溢れていく。

    「ひっぐ!アキ……!け、けがは……っ!?う゛っ……じこは……!?ひっぐ……」

    ひっぐ、ひっぐとしゃくりあげながら近づいていくと、呆然としていたアキが慌てて立ち上がり、デンジの前に来て――――その身体をぎゅっと掻き抱いた。

    「デンジ、ごめん。心配かけたな。俺は大丈夫だ。ええと、この包帯とかも大袈裟に巻かれただけで。かすり傷みてえなもんだし……」
    「ひっぐ……アキ、アギぃ!うえぇ……っ!!」

    デンジはアキに縋り付いて、大声を上げて子どもみたいに泣き始めた。

    「うぇぇ……っ!アキ!アキ。好きだ、好きなんだよ!!もうっ、俺のこと、置いてかないで……!!」
    「……!?」

    アキはその瞳がこぼれ落ちそうなほど、目をまん丸にした。少し身体をかがめてデンジの顔を覗き込む。その顔には「信じられない」と書いてあった。

    「……嘘だろ」
    「ほんとだよぉ……!!俺っ!ひっく。前から、ずっと、ずっーと!!アキが、好きなんだ!!」

    堪らず、アキは少しだけ目を逸らした。その白磁の目元はうすく紅に染まっている。

    「待て。待て……順を追って、話させてくれ。まず……やっと、思い切り泣いたな?デンジ」
    「え…」

    デンジは口を大きく開けて、ぽかんとした。確かにそうだ。こんなに大泣きするなんて、きっとアキが亡くなった頃以来のことだった。

    「お前さ、前世からずっと……ちゃんと泣いたり、笑ったり、できなくなってたんだろ?」
    「う、うん……っ。ひっく」
    「それは。……俺を、殺したせいか?」
    「……!」

    デンジはぎくりと肩を揺らした。今は心が丸裸で、感情を隠して守るものが何もない。呻きながら一度頷いて、それから俯いた。図星を突かれて、アキの目をまともに見られなかった。未だ泣いている勢いで、肩は大きく揺れ続ける。涙は馬鹿みたいに止まらない。

    「デンジ」

    名を呼んだアキはその大きな手で、デンジの両頬を包み込んだ。彼に視線が合うように、そっと顔を上げさせる。

    「なあ。デンジ、お願いがある」
    「な、なんだよ……?」
    「いつか……今度は。前みたいに思い切り、笑って欲しい。そのために、俺は何だってする」

    デンジは濡れた赤茶の目をぐっと細めた。眉間にぎゅうと皺が寄る。苦しい。ずっとわだかまっていた感情にブレーキがかからず、涙と一緒にぼろぼろと零れ落ちていく。

    「なんで…!?なんでそんなこと言うんだよ!?アキをっ、殺した、俺のことをさぁ……アキは、どう思ってんだよ!?もう、抱いて、くんないくせに!俺のこと、好きんなって、くんないくせに……っ!どうしてこんなにっ、優しくすんだよ……!!」

    ついに本音をぶつけてしまったデンジに対して、アキは――今までで、一番やわらかな笑みを浮かべた。はっきりとした音で、大切そうに言葉を紡ぐ。

    「好きだから」
    「え……?」
    「好きだからだ。前から、ずっと。抱くようになる前から……ずっと。大好きだ、デンジ」

    その瞳は晴れ渡って、優しく光っていた。とても嘘を言っているようには見えない。
    一瞬言葉を失ったデンジは、すぐには信じられなくて――震える声を、なんとか絞り出した。

    「じゃ……じゃあ、なんで……?なんで、抱かないなんて……言ったんだよ……?」
    「そんなこと、言ったつもりはない」
    「ハア!?さ、最初に会ったとき!もうあんなこと・・・・・しねえっつった!!」
    「違う。あんなこと・・・・・っていうのは、好きだとも言わないで抱き続けたり、暴力みたいな乱暴なことはしないって意味だ!」
    「ハア〜……!?」

    デンジの涙は、ようやく止まった。自分たちがどれだけ言葉足らずで、どれだけ行き違っていたのかを思い知ったからである。再び口をぽかんと開けて、舌をしまい忘れたまま凝視するデンジを、アキはひとまずベッドに腰掛けさせた。そしてぐちゃぐちゃになったデンジの顔をハンカチで拭いながら、静かに説明していった。

    今世でデンジと再会した時から、デンジの表情を取り戻すと決意していたこと。デンジがきちんと、また泣いたり笑ったりできるようになったら、自分の気持ちを伝えるつもりだったこと。前世で間違った関係になってしまったことを心の底から悔いているから、「あんなこと・・・・・はしない」と宣言したこと。

    一通りの話が済むまで黙って聞いていたデンジだが、終わった途端アキの胸にどんと身体をぶつけて、ぽかぽかと弱く殴り始めた。まだ涙が滲む声で、アキを糾弾する。

    「ア、ア、アキのバカ…!言葉足らずすぎんだろーが…!こ、こんなに好きにさせてよオ…!もうっ、ど、どうしてぇのか、全然わかんなかったじゃん!!」
    「ごめん。俺としてはお前を優先したつもりだったんだが……お前の気持ちをわかってなかった。不安にさせてたんだな……」
    「そうだよォ!お、俺、ずっと…!ずっと、苦しかったあ……!!」
    「ごめんな」

    ぽかぽかと殴るデンジごと腕で包み込み、アキはもう一度抱きしめた。さっきより落ち着いたデンジは、アキに抱き締められているという事実に今更どぎまぎしてしまう。アキの匂いと温度でいっぱいだ。ずっと望んでいたそれに包まれてしまえば、心臓が悲鳴を上げて、苦しかった。幸せが怖くて、苦しかった。
    恐る恐る、アキの大きな背中に腕を回す。するとアキは抱く力をぐっと強めて、さらにデンジを引き寄せ、その耳元で小さく囁いた。

    「デンジ。……お前、俺のこと…好きなのか?」

    そう言うアキの声もまた、小さく震えていた。アキも怖いのだろう。それが分かったから、デンジは少しだけ吹き出した。背中に回した腕の力を強めて言う。

    「そうだよ!前からずっと……。いや、前より好きになっちまったんだ。アキが、いっぱい、いっぱい優しくしてくれたから。なあ……だから、俺のこと抱いてくれよ。俺に、触って。そんでさ……もう、俺のこと…置いていかないで……」

    尻すぼみになってしまった願い。それを最後まで聞き入れたアキは、何度も何度も頷いた。

    「勿論。ずっと一緒にいよう。デンジ」
    「や、約束しろよ。なあ、アキ……」

    デンジはアキの顔を覗き込み、はにかむように笑った。
    久しぶりの自然な笑顔。アキが好きになった笑顔だ。
    アキは目を奪われたまま、自然と顔を傾けた。ゆっくりと距離が近づいて、永遠の時が流れる。

    二人は、あまいキスをした。
    それは二人の、初めてのキスだった。
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